十九話.月下の間、紅焔の元へ【レイ(セレスタ)視点】
数日後。
日程を調整された任務の合間。
お茶会の誘いがあった。
指定されたのは、王城の奥。
――月下の間。
過去竜と人が告白し合った場所として言い伝えられている。
今は昼は陛下のティータイム用。
夜は貴族や臣下が誰もいないことを利用して内々の会話場所として使われているとか。
その名を聞くだけでここ数日間は息が詰まりそうだった。
カイルはそれを分かった上でカウントダウンしてくる。
ついつい殴ってしまったが、本人は嬉しそうだった。
(お断りすればよかったかもしれない)
私は今、入口の手前で立ち止まっていた。
否、何度もアーチ状の入口の前で覗いては、回れ右をして戻る。
それを繰り返していた。
(どうする……? 何を喋ろうか? 急な任務が入ったことにして断るか……? いや、しかし)
不幸か幸か、扉はない。
くぐるだけ。
私の馬鹿力でドアを壊すことはない。
入るか否かを決める前に「遅い」と陛下の声がした。
(くっ、行くしかない)
意を決してアーチをくぐる。
白を基調とした壁。
花の香と静かな水音。
蒼のルミナリアが柱に絡まる。
その柱の横に椅子とティーテーブル。
先に到着していた陛下は背もたれに寄りかかりながらその柱の蒼い国花の炎と自らの炎を混ぜて紫にしていた。
「……っ」
いつもの威厳に満ちた真っ赤な軍装ドレスではない。
柔らかな薄紅のドレス。
胸元には控えめな竜の鱗を模した刺繍。
「へ、へいか……」
直ぐに近づいて膝をつく。
息が詰まる。
陛下ではなく、一人の女性としてそこにいる気がした。
こちらの心が見透かされそうで、怖くなる。
正直、顔は見れなかった。
(どうして、こんな姿を私に)
平時の方が緊張はすれど、まだ平常でいられたかもしれないのに。
「遅かったな。いや、入口にいるのが趣味かと思ったぞ」
バレている。
ずっと入口にはいたのだ。
「ほら、顔を上げて。席につきなさい」
「は……」
「ふふ」




