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一話.唐突な婚約の後で。【レイ(セレスタ)視点】


「……仰せの、ままに」



 そう口にした瞬間。

 頭の中が真っ白になった。

 無駄に高い謁見所に響いていたのが今更になって恥ずかしい。



(……なに言ってんだ、私)



 しかし、言うしかなかった。


 いつの間にか口に出てしまっていた。


 そもそもただの魔物討伐の任務報告に来たはずなのに……。とんでもない数の書類を読んでおられるなあとは思ったけれど、全部婚約の手紙とは思わなかったし。




 ――よりによって“求婚”って……。

 わ、私に?!


 

 陛下の、あの目の前で、言わないなんて選択肢、どこにもなかった。

 頬が熱くなるのをかんじる。


 私は騎士だ。

 剣を振るい、陛下に忠誠を誓った身。

 命じられれば従うのが務めで。


「仰せのままに」と答えるのが当然で。

 ……それなのに、どうして。

 あの言葉にだけは、心がこんなに引っかかるのか。


 動悸が治まらない。

 気分が悪くなる。

 肩の奥がひどく重たい。

 鎧がいつもより二倍くらい重く感じるのは、気のせいじゃない。



(だめだ、早く帰らないと……)



 私は足早に玉座の間を後にした。

 同僚の騎士たちが声をかけてくる気配もあったけど挨拶もそこそこに通り過ぎる。


 控えの間を抜ける。衛兵たちの敬礼を受け流し、馬へ向かう。

 どうにか体裁を保って歩いてはいたから、まだ残る新米騎士たちにはかっこよく見えていることだろう。


 けれど、内心はぐずぐずだ。

 陛下が言ったあの言葉。

 何度も頭の中で反響する。



 ――「貴様私の伴侶にならんか?」



(ひぃ……だめだって……それは、だめだよ……!)



 私は、男じゃない。


 嘘をついてる。



 仕えた頃から……いやそれより前からずっと。嘘の姿であなたの側にいた。

 それでも、あのまっすぐな目であんなこと言われたら、私……。


 自分でも何を考えているのか分からなくなりながら馬に飛び乗った。

 いつもは制御が難しいこの馬も、今日は何も言わずに走ってくれる。



(お願い。誰にも、……何も言われないうちに……!)



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