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十八話.蒼が紅に変わるまで【ヴェラノラ視点】


 物寂しくなったルミナリアの苑。

 静かにゆっくりと青から赤へ。暁に。

 対して空は黒へと変わっていく。


 より一層、竜の祝福の花が美しく輝く時。



 ――珍しい。

 花の色が変わるとは。



 元来は、赤。しかし今は王族が竜の祝福を頂いてからは金に染まった。 ただ、ほとんど金は見かけなくなってしまった。


 それはそうと……。

 まだ胸が高鳴る。



 花弁と同様の色の炎を出す。

 いつもならすぐに掻き消し、執務室に戻るはずだった。

 しかし、今日は手放せなかった。



 私は一体彼に何を望んでいるのだろうか。



 最初はほんの気まぐれ。

 求婚なんて、所詮政。

 断れば今回のように更に突く奴も多い。

 断らず、受け入れてしまうと王国を乗っ取ろうとする。


 そんな輩も見てきた。


 そんな婿なんて不要。

 まさに燃えるだけのゴミ。


 手紙さえ灰にするのも飽きた頃。

 たまたま目の前にいた騎士が目に入った。


 今日もあの時もこうべを垂れて、私のことは見てくれなかったが。



 ――伴侶になろう、と。



 あれほど騒ぎになるとはな。



「しかし、なにか引っかかる」



 ――レイ・バリストン。

 バリストン左宰相の剣。


 今までそれしか情報はなかった。


 言葉さえ交わすことはなかった。つまりあの時が初めて。確か、強力な魔物が郊外に出たからその報告。

 あの騎士の返答は完ぺきだった。

 恐らく内では困惑していたはず。


 動揺は見せることはなかった。


 もう一つ言うなら、その後逃げるように去ったことか。

 あれはあれで面白かったからいいとして。


 確かに仰せのままにと告げた声が、僅かに震えていた。



(なぜだろう)



 それに……。



 あの視線。


 髪を掻き分け片耳だけはめたイヤリングを撫でる。




 幼い頃。

 帽子を被って、髪を隠し、城を抜け出し遊んでいた。


 私の守るべき町。


 城とは違うルミナリアが綺麗だった。


 そこであった金髪の暴漢に連れ去られそうになった。恐らくは外部から侵入したのだろうと後に分かったが――そこで出会った年の近い少年。


 暴漢をあの小さな体で突き飛ばして、私を連れてとんでもない速さで逃げ切った。

 私を王女だとは知らず、助けてくれた少年は、手を取って一緒に走ってくれた。

 握りしめた手はとても痛くて骨が折れるかと思ったが……。



 それほど必死に助けてくれたのだと分かって嬉しかった。



 そしてその別れ際。

 私は片方のイヤリングを渡した。

 これは代々受け継がれる国宝だから側近であるヴァルディスに殺されそうにはなったが……。



 その片割れが今私の耳にある。



 いつか見つけてくれると思って。



「願うならば、また会いたいが……」



 ぽつりと呟いた言葉はルミナリアの潮騒に消えていく。

 赤と金の国花の中。

 一輪だけ残った青。


 どうしてもあの綺麗な白い瞳は忘れられない。



 ――レイは少し違う。

 紅が差してそれもそれで綺麗だが……。


 思い出の少年とは少々違う。

 あの少年の瞳孔は薄い青だった。

 しかし、銀髪なんてバリストン家くらいのもの。または侵入者。



(確かめる価値はあるだろうか)



 イヤリングを撫でる。


 いや、私が選んだのだ。

 いつでも確かめる余地はある。



(最初は気まぐれだった婚約も間違いではなかったかもしれない)



 指の灯が風に当たり小さく撥ねた。

 そのまま消すつもりだったが、――もう少しだけ。



「また会いに来てくれ、レイ」



 一輪だけ残ったルミナリアの蒼が再び赤になるまで私は眺めていた。





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