十七話.青い庭に火を宿す【レイ(セレスタ)視点】
「……っ」
胸の奥が熱くなる。
言葉が、喉に詰まって出てこない。
だけど――
(……今なら、少しだけ、聞いてもいい気がする)
「あの、陛下……一つ、お尋ねしても?」
「うむ?」
「なぜ……あの謁見の場で、私に――その、ウィンクなどを……?」
視線を逸らしながら、何とか言葉を紡ぐ。
言いながら顔が熱くなっていくのがわかった。
すると彼女は、楽しげに金色の瞳を細める。
「ふふっ。あれか? ただの“合図”だ」
「合図、ですか……?」
「そう。おまえを選んだのは私ということを、少しばかりお前に思い出させたかっただけだ」
さらりとそう言った。
「お前が迷わぬようにな」
その声は、噴水の水音よりも静かに、けれど確かに私の胸に染み込んだ。
「……っ!(……ずるいな)」
言葉にならないまま、視線を下げ口を覆う。
耳が赤くなっていないことを祈りたい。
これ以上ここにいたら、何かこぼしてしまいそうだった。
「――……私はっ……――失礼します」
小さく一礼し、その場を離れようとしたとき。
背中に届いた声は、ほんの少し――寂しげだった。
「……レイ。また、来い」
振り返る勇気はなかった。代わりに私の通った後のルミナリアの金蒼の焱が揺れる。
そして胸の奥のいちばん深いところに、火を灯していった。
――ああ。
この暖かさ。
また来てしまうだろう。
今度はただの休憩ではなく彼女に会うために。




