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十話.金赫の背を遠ざけないように【レイ(セレスタ)視点】


 逮捕した男は腕を縛られ、カイルと二人で調査局へと連行することになった。

 私に引きずられた男は随分怯えている。

 それもそうか。


 手加減していても、きっと腕には私の手が鬱血して残るくらいには強いから。



(しかし、赤の外見でそんな表情をしないでもらいたいが……)



 犯罪者だろうと、昨日の一件があってからどうしてもざわつく。



「あんな動き初めてだな。良かったんじゃねえの?」



 いつも通りの声。

 カイルとしては大して気にしていないのだろう。

 むしろ上手く褒めてくれているみたいだ。


 それが、今の自分には少し刺さる。

 私は返事をせず、歩幅を早めた。



「おいおい。待ってって! いや、その、さっきはさあ……えーっと……」



 珍しく小さく俯きながらついてくる。

 こいつは慰めるうまい言葉が思いつかなかったらしい。


 どうしてだろう。

 その素直な後悔の言葉に、胸の奥がじくじくと痛む。



「気にするな。私が……悪かった」


「いや、そういうわけじゃなくって……」



 それが精一杯だった。

 以降カイルは冗談さえも言わなくなってしまった。


 ……失格だな。

 「力加減が怖い」だなんて、口にできるはずがない。そんな人間も数知れないだろう。


 詰所に戻るとカイルには騎士団の中の調査局へ男の引き渡しの書類にサインしてもらうよう頼んだ。

 彼は優秀なのだ。

 可愛げのある彼を失意させてしまった。


 己は治療室へと足を運ぶ。

 扉は開いていて、誰もいない。

 安堵して、開いた棚から包帯だけを取る。



(……失態だな)



 一人包帯を巻いていると、その扉の影に一人佇む姿があった。



 ――隊長。



 腕を組み、壁にもたれかかりながらこちらをじっと見ていた。

 橙の瞳が、静かに何かを測るように光っていた。



「……よくやった。が、“お前らしくない”動きだったな」


「……は」



 問い返すと、隊長はひとつ小さく鼻で笑う。



「お前は普段、もう少し冷静だ。なのに、今日の剣さばきは焦りすら感じた。……まるで、何かから目を逸らしたいみたいにな」



 図星だった。

 それ以上、何も言えなくなる。



「ま、何があったかは聞かない。だが――あのあほを拒むような目をするな」


「……っ」



 視線が一瞬、レイの背に落ちる。


 確かにあほの赤い竜騎士。

 私が邪険にしても、馴れ合ってくれる唯一の存在だ。改めて隊長に言われてハッとする。



「騎士は誰かを守る存在だ。守るには“手を伸ばせる距離”に心を置いておけ」



 隊長の声は、いつも通り淡々としていた。



「民たちを。ひいては陛下を守るため、な」


「――は」



 妙に――身に染みた。

 指導、指示というよりも、忠告。

 揺れる彼女の瞳はもしかしたら誰かを失ったのではないかとさえ思ってしまう。


 ――お前は失うなと言っているような。


 この手で守るためには、迷わないようにしないと。




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