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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

消灯

作者: 橘けい

※子供が関係した若干?グロい表現があります。

苦手な方は避けて頂いた方が良いかもしれません(^^;


※作品中に出てくる占いは、実在のサイトさんから少々アレンジを施して引用させて頂きました

「いままでありがとう」

「おお。こちらこそ。まぁ、なにかあったらいつでも連絡して来いよ」

「はは。わかったよ。じゃあね」


 その夜、約4年半付き合った彼と別れた。

 忙しい時期が重なり、いつの間にか自分達の事でいっぱいになってしまった事による小さな積み重ねが響き、互いが考えに考えて出した「納得の結果」だったと思う。きっと。

 だからかは知らないが、最後は笑ってしまうくらい穏やかな時間だった。

 一緒に居た歳月が長かった事もあり、寂しくないと言えば嘘になるのだが…。

 あたしは、この状況から最善の方法を尽くしたものと思っていた。

 

 

-------あの出来事が起こるまでは。



 あたしの家の前で「じゃあ」と手を振り合い、彼の車を見届けて家に入る。

 

 今までだったら慣れてしまい極自然の事だったが、

 (今日でこれも最後だったのかぁ)

 と玄関の鍵を開けながら、妙にしんみりとしてしまった。

 思えば、最後に別れを言い合った時、悲しいそぶりは見せず

 冗談交じりに

 「いつでも連絡してこいよ」

 なんて言っていた彼の横顔から見た瞳が潤んでたのをあたしは見逃さなかった。自惚れている訳じゃないが、これまでの年月を一緒に過ごしていると、彼がどんな気持ちか、なんとなくわかる気がするのだ。

 あとで聞くと、あながち間違ってなかったりする。

  

 「やっぱり強がりだなぁ…」

  

 あたしはポツリとつぶやきながら、窮屈だったブーツのジップを下げ、一日過すごして疲労感のある足を外気に触れさせると、

 少しの開放感と共に深いため息を吐いた。


 暗かった部屋に灯りを燈すと、急に独りぼっちになったような

 なんとも言えない孤独感が、シンとした部屋に広がる。 

 4月上旬とは言え夜になると冬の寒さがまだ残っているようで、肌寒さが孤独感を倍増させている気がするのだ。

 

 あたしはそそくさとヒーターの電源を入れ、今日は無音がやけに不快に感じてすぐにテレビのリモコンをonにした。

 少し騒がしい番組を探してザッピングし、何時もはあまり観ない深夜のバラエティー番組が目に留まった。

 今日に限ってはこの騒音が物凄くあり難い。

 ようやくコートを脱いで、

 笑い声で騒がしいテレビ番組をBGMに、部屋着に着替える。


 暖かいコーヒーを淹れようとキッチンの戸棚に手を伸ばした。

 (そう言えばこれも奴がプレゼントしてくれた奴だっけ…)

 ドリップ式の漆黒のコーヒーメーカーに、お気に入りのチリ産のコーヒー豆をセットしながらぼんやりと考えていた。

 

 洗濯機に今晩洗う物を放り込み、洗剤を入れて「おまかせ」のボタンを押す。

(もうちょっとで切れるな)

 軽くなった粉洗剤の箱を覗き込み、他に買っておく物は無いか、洗面所の戸棚を確認する。

 若干暖まった小さな部屋に戻ってテレビの画面に視線を移したタイミングで、コーヒーメーカーがブルルと抽出完了の合図を告げた。

 ミルクを入れ、辺りに漂う香ばしい薫りが、気持ちを安らげてくれる気がする。

 

 香り高い湯気を募らせたカップを手に持ち、テレビの部屋に移ったら、一番落ち着く体育座りの格好で一人掛けのチェアに腰掛け、コーヒーを口に運ぶ。

 暖かい液体が喉を通って胃に染るのを感じると、無意識に強張っていた神経と冷えた身体が解けて行くような感覚で、また深いため息を吐いた。

 二口、三口と即効性のある安定剤のような作用をする液体を飲み込んでいると、向かいの色違いのフロアチェアが目に留まった。


 家に来るといつも奴が座ってたっけ。

 今度からは来客用のみになるのか…

 と、湯気の向こうに見えるそれを見つめながらぼんやりと考えていた。 


 奴---和人とあたしは4年半前に共通の友達の紹介で知り合い、付き合いがスタートするのに、さほど時間は掛からなかった。

 不思議と和人との間には、ずっと前から知っていたような奇妙な安定感があり、和人もあたしに対してそんな感情だったと別れ際に力説していた。


 お互いが初めて長く付き合った相手でもあり、最近はどことなく将来も意識しつつ、いつの間にか4年目の記念日を迎えていた。

 しかし、同い年で同期と言う事もあり職種は違えども仕事が順調に行けば行く程、反比例するように二人の時間は少なくなって行った。


 連絡の頻度の減少はしょうがない事と思っていたが、いつしかお互いの私生活まで気にならなくなってしまい、

 それまで忙しくても週一回は会おうをしていた約束さえも、どちらともなく忘れしまっていて、気が付けば二週間会うことが無かった事もあった。


 生理的に嫌になったとか、どちらかの浮気が発覚しただとか

 そういった類だったら結論も早く出ていただろう。

 あたし達は、ゆるやかな時間の流れと共に、思えばとてつもなく大きな「慣れ」に蝕まれていた。


 世のカップルはそれでも愛を育み続け、「結婚」と言う契約を結ぶに到るのではないかと思うが、忙しさも手伝って、それから半年の冷戦状態に陥っていた。

 自分はこのまま、相手への興味が薄れ続けてしまう事も怖かったし、その逆もまた悲しく思えて、思えばこの関係から一刻も早く逃避したかったのかもしれない。

 仕事や友達と言う逃げ場に。


 なんの事はない。

 縁が無かったのだ。しょうがない。


 そう自分に言い聞かせるように、最後の一口を飲み干した。


 明日からはまた新しい生活がイヤでもやってくる。だから大丈夫。


 あたしは心に引っかかったような気持ちを考えないようにして、明日提出する書類の確認をしようと、一通り目を通したところで、

 いつの間にか眠りに墜ちていた。



 -----夢の中であたしは、軽い混雑に身を置いていた。

  どうやらそこは広めのエレベーターの中のようだ。

 満員ではないが、若干数の人間が固まって皆秩序よく、同じ方向を向いてる。

 次の階の扉が開くところでポーンと音が鳴り、

 目の前が明るくなる。

 なんの変哲もなく何人かの人間が乗り込んでくる。

 半分くらい乗り込んだ所で、人口密度が上昇し、あたしは左隅に追いやられ、スーツを着た後姿の背中にもたれかかるように全員が乗り込むのをやり過ごしていた。

 全員が乗ったな、とドアが閉まりかけた瞬間

 小さな男の子が駆け込んで来た。

 その子は丁度頭が内側に入った所でドアに挟まれてしまった。

 「あ!」

と、{閉める}のボタンを押していた男性が、慌てて{開ける}ボタンを押すが、何故かボタンは作動しない。

 男の子の頭が挟まったまま、ゆっくりとエレベーターは上に昇って行く。

 これからどうなるか… あたしは悟り、強く目を閉じ前の男性に顔を伏せ、身震いを覚えながら耳を塞いだ。

 真っ暗な視界の中、エレベーターの中がパニックなのは瞭然だった。

 ゴドン

 「きゃぁああああ」

 鈍い音がして、男性か女性が判断出来ない叫び声がすぐ近くでしていた所までは覚えていた。

-----気がついたら場面が替わっていた。

 薄暗い小さな診療所のようなところにあたしは立っている。

 その一室の隅に、オフホワイトの小さな布が掛けられた物体が横たわっている。

 すぐに、さっきの男の子だと判った。

 (助からなかったんだ…)

 さっきのシーンを思い出すと吐き気を催すような残酷さで、胸が不快感でいっぱいになる。

 この小さな亡骸は自分の両親を待っているようだったが、一向に引き取りにくる様子がないのだと、なぜだか感じたのだ。

 小さな塊がやけに悲しく映り、さらに何故あんな死に方をしなければならなかったのか…

 あたしは見ず知らずのこの男の子が不憫で堪らなくなった。



------気がつくと窓から差し込む朝日が視界を遮り、夢から覚めた事を告げた。

涙でグシャグシャになった顔と髪の毛で光が指す白い天井を見上げていた。

 どうやら寝ぼけながらも電気は消し、ベッドに移動していたらしい。 怠慢な性格だが、変な所はしっかりしているのだ。

 

 …後味の悪い夢だったな。

 

 まだ不快感の残る胸が、夢の妙なリアルさを物語っている。

 夢でまだ良かった…と自分に言い聞かせ、時計に目をやると

出勤時間ギリギリだった。


 「やば!」

 

 悪夢は一瞬にして吹き飛び、ベッドから飛び起きて準備を始める。


 チラっと昨日の和人の顔が頭をよぎったが、時間に追われている為か、気持ち的に思ったより辛さはなかった。


 職場に向かう途中の電車の中では、あのエレベーターでの出来事を少し思い出し、夢の中とは言え気の毒な事だったが、見覚えの無い子だったのもあり、時間が経つにつれて記憶から薄れていった。

 

 

 幸いにも忙しさが誤魔化してくれているようで、別れのダメージはさほど感じずに、数日が過ぎて行った。


 しかし…、ひとつだけ悩まされている事があった。


 あれから毎日、夢にあの男の子が出てくるのだ。

 エレベーターだけではなく、道端だったり、海だったり

 シチュエーションが見るたびに替わり、


 そして、いつも最後はなんらかの事故で死んでしまうのだ。

 

 あたしはその度に助けようとするのだが、身体が言う事を聞かず、

その子が死んでしまう瞬間に目を瞑ってしまい、

 次に目が開いた時は、例の薄暗い診療所の布を被った亡骸の前で、

 後悔と悲しみの念で泣きはらしているのだった。


 起きると現実でも泣いていて、グシャグシャになって目が覚める。

 決まってこの男の子の顔はぼやけていてハッキリしない。


 さすがに三日連続で見続けると精神的にも辛くなってきて、疲労が他人からも目に見えるようだった。

 見かねた友人の後押しもあって、生まれて初めて心療内科にかかってみた。

 診断は

 「ハッキリとは言えないが、ストレスの関係ですね」

 と、なんともシンプルな結果だった。

 夢を見るのは眠りが浅いと言う事もあり、睡眠導入剤を処方してくれた。


 …ストレス?


 ---同時期に合った事と言えば、和人の事。

 和人との別れがそんなに負担だったのかな…?


 処方してくれた薬は良く効いてくれて、朝までグッスリと眠る事が出来るようになった。

 いつしかあの夢は、もう見ることも無くなっていた。


 やっと安定した生活に戻っていた頃、なんだか自分の中である気持ちが芽生えつつあった。

 

 そんなある日、なんとなくネットサーフィンをしていたら、

 偶然あるサイトに辿りついた。


 {夢診断} と書かれた占いのホームページ。

 

 あたしはふと、数日前を思い出し

 (どうせ気休めだし…)

 と、試しに調べてみたのだ。


 占い結果が出たとたん、

 あたしは凄い勢いで和人に電話を掛けていた。


 もう、自分の気持ちを誤魔化すのがとても辛かった。


 偶然に和人も同じ気持ちだったようで、

 あたしたちはいわゆる元のサヤになり、あの別れ話があったお陰かどうか解らないが、今までより深い愛情の元で歳月を再び過ごし、

あれよあれよと結婚の運びとなった。



 夢占い~診断結果~


 「死」

 夢の中で死亡した人によって意味合いが大きく変わりますが、大切に思う気持、失いたくないと思う不安、目の前から消えてほしいと思う気持など、その相手への思いによってさまざま。夢の中の死亡した人との関係をじっくり考えることでより深い絆や新しい何かが生まれるかもしれません


 「事故(切断)」

生潜在意識が不穏な空気を察知して、何らかの不安を感じているのかもしれません。失いたくないもの、失うことへの不安や恐れを示します。恋人や家族、仕事など大切な何かがあるのでしょう。またそれらが危うい状態になる恐れもあります。大切なものを失わないように怠っていることや気の緩みがないか再確認した方がいいかもしれません

 

 「男の子(子供)」

 元気な男の子の夢は幸運を暗示します。生活に充実感を得ることができるでしょう。しかしあなたの考え方や行動など、人間的に未熟な部分がまだまだたくさんあるようです。また純真なココロを忘れかけているのかもしれません



 ………………… 

 


 そして今まさに、  

 あたしの身体から、二人の絆が誕生したところだった。


 精密な検査がなくとも、なんとなく判っていた。

 

 元気の良い男の子。


 「ほーら、ママですよー」

 助産婦さんが小さな身体を抱いて、

 出産の疲労で困ぱい中のあたしの元へやってきた。

 

 涙が溢れてしょうがなかったが、

 元気良く泣く我が子を抱きしめると

 小さい手があたしの指を握ってくる。


 あの日から、

 ずっと言いたかった言葉をようやく伝える時が来た。



 

 「生まれて来てくれて、ありがとう。」




まだまだ勉強不足で御見苦しかった事と思いますが、

よかったら感想頂けると嬉しいです。

宜しくお願いします~m(__)m

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