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黄昏に舞う戦乙女  作者: テラン
天を見上げる戦乙女
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第6話




 法力で封をされていた壷の怪物は先に駆け付けていた騎士が兵を当たらせて一つ所に留めさせていた。

 討伐を引き受けはしたが、初見の敵と最初に戦う者のリスクは非常に高い。

 それでも今なら領軍の援護が期待出来る。


「ただ討伐するだけでなく、有効な打開策を探れたら増額してやろう」

「うーわ面倒な注文入りました〜」


 受けるならそのつもりなので増額に関しては問題無し。

 セレンは近くの兵から槍を取り上げて、20メートルほどまで近付き、狙いを付けて投擲した。

 槍を取り上げられた兵が何か言いたげにしていたが無視する。

 日が落ちて暗い中での投擲だが、篝火に照らされた怪物目掛けて吸い込まれるように飛んでいく。


「ちぃっ!」


 結果は、的中すれども突き刺さらずに弾んでガランと落ちる。

 投擲用の槍では無かったが、十分に威力を乗せても刺さらないのは怪物の表皮が硬いからなのか、遠目からでは動き回る状態でそれを確認するのは難しい。


「気色悪い動きしやがって…」


 自分の槍は背負ったままで、更に別の兵から槍を取り上げて二度の投擲。

 この兵は取り上げられて何故か嬉しそうにしていたが無視する。

 しかし結果は同じ。刺さるどころかまるで衝撃そのものを意に介していない。


「ふっ、ざけんな!」


 突然テントの残骸を突き破って伸ばされた節足が1メートル先を薙ぎ払う。

 そのまま近くにあった篝火を横倒しにして節足に絡まったテントに燃え移った。


「間抜けがよ! ほら、アンタらは邪魔なんだから寝っ転がってるの担いで下がってな」

「な、勝手に命令するな!」


 囲んで牽制していた兵達は副隊長とセレンから出された相反する指示を受けて、副隊長に視線を向かわせる。

 ついでにセレンもジト目で見る。


「攻撃が効いてないの、見て分かんない?」

「ぐっ、やむを得ん。負傷者の救出を優先しろ!」


 邪魔になっていた兵達を下がらせて、セレンは燃え盛るテントの残骸に身を包まれた正体不明の怪物を観察する。

 燃える火が明かりとなって日の落ちた中でもよく視える。

 立っている状態なのか這っているのかは分からないが節足は八本。まるで蜘蛛のようだが、高さが2メートルを超える蜘蛛なんて見たことが無い。


「つまりこれ、『魔物』よね」


 魔物。それは地上に生きる物の天敵。

 人の領域が狭かった頃は人里離れれば襲われる程度には広く分布していた『地』に属する異形の存在。

 人の繁栄を築く為に過去の英雄達が挑み、徐々に棲息域を削り取り、今では未開の地へと押しやって人類は安心して住める土地を得た。


「(あの壷は法力を使って無理やり魔物を封じ込めてた物ってことよね。やっぱりロクでもないじゃない!)」


 魔物は戦闘訓練を受けた兵士単体でも倒せる弱い物から、一騎当千の英雄でも束にならなければ勝てない化け物まで様々な種類があると言われているが、セレンは詳しくない。

 傭兵の中には魔物を専門に狩るハンターも居るらしいが、彼女の専門は対人戦闘である。


「そりゃザコばっかりでうんざりしてたけど、だからって強い奴と戦いたいわけじゃねえんだよッ…」


 兵を下がらせてから壷の魔物の動きを観察しながら徐々に距離を詰めていたセレンは、辺りに散乱している武器から長槍を選んで拾い上げ、音を立てないように注意してゆっくり構えた。


「(どうせだったら金になるザコ連れてこいよ!)」


 小声で贅沢な要求をして気持ちが張り詰め過ぎないように、余計な力が入り過ぎていないか四肢の動きを確認してから長槍を握り締める。

 身体の奥から熱い力を引き出し、そして一気に駆け抜けた。


「…ッ!!」


 地を蹴って力強く踏み込んだ一閃。

 小さく鋭く息を吐き、穂先が仄かに光る長槍を突き出す。


 ガシュッ!!


 その一撃は炎に撒かれてデタラメにのたうち回る壷の魔物の中心を正確に捉えて深々と突き刺した。


「よっし、法力を込めた武器なら通る!」


 おおっ、と遠巻きに観ていた騎士や兵達から歓声が上がる。

 いつの間にかギャラリーが増えていた。


「ははっ! 効くんなら人も魔物も関係ねえな!」


 そのまま二度三度と淡く青い光を放つ長槍を突き入れた。

 セレンの全身からも法力の光が薄っすらと漏れ出し夜間の闇に残光を残しながら攻撃を加える。

 まるで踊るようなステップを踏み、暴れる節足の反撃を躱して、五度六度と刺した所で長槍が限界を迎えてしまう。


「愚図がッ! アタシにばっか頼ってないで法力使える奴は前出て戦え!」


 その声に一瞬顔を見合わせるギャラリーから、数名の騎士が剣を持って前に出てきたがそれ以上前に出ない。

 その間に別の長槍を拾ったセレンは再び法力を滾らせる為に深呼吸をする。


「すぅ〜…、はぁ〜…! おいっ、アンタら騎士だろッ!」


 再度槍に仄かな光を纏わりつかせ、火の手が弱まってきた壷の魔物に接近して深く突き刺す。


「こんなのッ!」


 サイドステップで反撃を躱して、肉を貫く。


「か弱い乙女ッ!」


 残光を揺らめかせて、節足の根元を穿つ。


「一人にッ!」


 徐々にペースを上げて、刺し、穿ち、払う。


「やらせんなッ!」


 セレンは壷の魔物の間合いを掴んで距離を詰める。

 後方では騎士達は剣を構えたまま命令を待っていた。


「か弱い…?」「乙女…?」


 周囲から困惑の声が挙がる。

 それを聞いたセレンは壷の魔物から一旦距離を大きく離す。


「…よーし分かった、アンタらから死にたいわけね…?」

「いえ、援護します! させて下さい!」


 冷淡な声に不穏な空気を纏わせるセレンの圧力に押される形で騎士達は前進。


「お前達! 傭兵にばかり活躍させて恥に思わんのか、騎士の誇りを見せろ!」


 今更な号令をかけた副隊長の声に応えるように騎士達は雄叫びを上げてそれぞれ法力を込め、薄く淡い光で包んだ剣を掲げて勇み出る。


「遅い、もっと早くそうしとけよ…!」






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