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黄昏に舞う戦乙女  作者: テラン
天を見上げる戦乙女
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第44話




 セレンとヨルドによる追走劇の途中から進路を変更した先は、前に狩人の傭兵から警告されていた魔物のるつぼ。

 視界に影響を与える法術に視覚以外の感覚で対応するヨルドを、セレンは自らを囮に崖から落下させた。

 しかしセレンは落下の途中で法術を使って離脱。

 ヨルドだけが魔物で渋滞する地獄の底へと送り込まれてしまう。


〈やめろッ、邪魔すんなァッ! お前達の相手なんてしてる暇なんて無いイィィィッ!!〉


 ヨルドはおよそ300m強の大絶壁から落下したのにも拘らず生きていた。

 法力で多少減速したとは言え、生還して直後に動いているのは驚異的な生命力である。


〈ガアアアアァァァァァッッッ!!〉


 しかし無傷とは行かなかったようだ。

 右腕は折れて脱臼もしている。

 足も相応のダメージを負っており、左足はびっこを引いて右足からは血が流れていた。


「…呆れた生命力ね。これじゃアタシの槍も通らないわけだわ」


 セレンは空中でステップを踏みながら、下で暴れるヨルドを見やすい位置へと修正していく。

 見間違いでなければ谷の魔物は別所で見た個体より大きく、纏う地法力の量も多い。

 満身創痍のヨルドがそれでも魔物を左腕一本で叩き潰し、引き千切り、投げ飛ばす様子をしげしげと観察したセレンは、まともにやっても勝てないと認めざるを得なかった。


〈非道い、非道い非道い非道いィィィ! 何で俺がこんな目に遭うッ! いつもいつも人間は身勝手で嘘つきで俺を騙すんだァッ!〉


 今や谷の底は地獄である。

 見ているだけでむせ返りそうなくらい赤黒いモヤが立ち込めて、足の踏み場もないくらい蜘蛛の死骸が折り重なり、全身から血を流す巨人が正気を失った瞳で暴れているのだ。


〈もう嫌だ! 谷、『息苦しい』! 俺、『行き場が無い』! 来るな来るな蜘蛛共、俺に『群れて集る』なァッ! 俺を、俺を『抑えつける』なァッッ!! もう『自由を奪う』ナアァァァッッ!!!〉


「…あっ! まさか、ここでやるの?!」


 赤黒い魔物の法力を全身で浴びながら、ヨルドは唱節を詠い始める。

 セレンは嫌な予感を感じ取り、その場から離れる事にした。


〈アアッ、アアアアアァァァァッ!! もう、ここは嫌だアァァァッ!〉


 ヨルドは全身から青い光と、濁った黒い光とを噴出させながら内包する莫大な法力を爆発的に高める。


「うっそ…」


 ヨルドから感じる圧力と熱量は、頂上決戦で観たアグラーハやベルガンの二人をも上回っていた!


〈あっはははははははははっ!! こごならおでの【狂奔】に、よ、良さそだ…なァッ!〉


 狂ったように笑い出したヨルドは高らかに宣言してから身を屈めて…。


〈人法技【狂奔巨鬼アーグ・ヴァグン】!!!〉


 セレンが今まで観たことが無い程の圧倒的な闘気の奔流を爆発させて、法技の発動と共に音を置き去りにした!


「まずいっ」


 空中では回避しようが無い。回避は間に合わないと思い空中で咄嗟に身を丸めて備えた。


〈…〜ゥゥゥウウアアアアァァァッッッ〜!!!〉


 引き伸ばされたヨルドの歓喜の声が衝撃波を伴って吹き荒れる!

 セレンにはヨルドが光になったようにしか視えなかった…。


 ゴッ…ワアアアァァァァンッッ!!


 突風、衝撃、平衡感覚の喪失。


〈…〜ゥゥゥウウアアアアァァァッッッ〜!!!〉


 キーンという耳鳴り、打ち付けられたのは背中なのか肩なのか、きりもみして暴風に晒されたセレンは自分の声も聴こえないまま防護の法術を発動する。


「『〜〜〜〜〜〜〜〜』!」


 ゴッ…ワアアアァァァァンッッ!!


 視界の隅に入る蒼黒い巨大な閃光が谷を往復する度に、遅れて来た衝撃波が容赦なく全てを蹂躙する。


〈ゥゥゥウウアアアアァァァッッ!! 走ん足"んねえエエェェェッッ!!〉


 狂気に取り憑かれたヨルドはもうセレンを見てはいない。

 塗り潰された意識の中で、己の衝動を開放する快楽に酔い痴れて、長い渓谷を無意味に走って往復する。

 セレンはもう、この災害が過ぎ去るのをただただ法力の続く限り耐えながら待つしか無かった…。




◇◆◇






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