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黄昏に舞う戦乙女  作者: テラン
天を見上げる戦乙女
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第42話




 セレンは大きく息を吸い込み、全身に膨大な法力の光を纏わせて可能な限りの速度で両の手へと送り込み、再び『戦略級』の法撃を放つ!


「『フレイムバースト』!!」


 全身に眩しい程の青い法力の光を纏っていなければ余波と輻射熱だけで彼女の身体は燃え上がっていただろう。

 玉の汗を流しながら『戦略級』の法撃を放った反動で全身が虚脱感に見舞われるが、グッと腹に力を込めて耐える。


〈ギャアアアアアァァァァァッッ!?!〉


 巨人の体の芯から響かせる悲鳴が大地を震わせた。

 焼かれた顔を両手で覆いながらドシンと転倒して転げ回る。


 いかに最強の大勇士ネームドであろうとも、『戦略級』の法撃に耐えられる訳が無い。

 セレンは過呼吸になりそうな息を無理やり抑え込んで、この一大チャンスで斃しきる為に油断なく全身の法力を更に高める。


「『フレイムバースト』!!!」


 完全に決まれば一撃で十分なのは重々承知の上で身体に鞭打って無茶な三連撃を見舞った!

 セレンは自分の法撃に自信はあったが、完全に信じてはいなかった。何しろ久々の使用だ、不完全である可能性が高い。

 ならばせめて数でその分の埋め合わせないと安心出来ないと、プロの傭兵としての油断ない判断で押し切る事にした。


〈ガアアアアァァァァァッッッ…!!!〉


 三発目は横たわるヨルドを森ごと焼き払った。

 流石に無理が祟ってセレンは立ち眩みで倒れ込む。

 法力による守りは余熱の遮断が完全ではなくなり、直に火で炙られるような熱さに後ずさる。


「ハァッ…ハァッ…ハァッ…! 我ながら下っ手くそで、不っ細工な法撃、だな…。これじゃ…、領軍の花火を、馬鹿にできない、じゃない…」


 胸元から指輪を取り出して着ける。

 一瞬だけ目を閉じて、手品のように手の平の上に出現した小瓶の、指輪と同じ印の刻まれた封を解いて一気に中身を煽った。


「ハァ…ハァ…。ほーら、戦士も勉強出来た方が…、いいだろ?」


 指輪を外して胸元へと戻し、小瓶を指で弾いて地面に落とす。

 小瓶はシャランと繊細な音を立てながら透明な砂になって崩れ落ちる。


「(は、はははっ! 勝った、勝った勝った! 法撃で斃したのは気に食わないけど、相手が相手だから仕方ないわね…。巨人と言っても所詮は人だし、いくら何でも『戦略級』の法撃はやり過ぎだったかな〜)」


 しかしセレンはドワーフの戦士が至近距離の法撃に耐えたのを思い返し、纏う法力が厚い相手には必要以上の火力でやり過ぎなくらいが丁度いいと思い直す。

 とはいえ、フレイムストライクとフレイムバーストでは基本の火力が桁違いである。


「あー! 死体残らなかったら駄目じゃんッ!」


 セレンは呼吸を整え、燃え盛る森を見渡しながら一番肝心な部分を失念していた事に思い至った。

 “剣墓”ベルガンと“星石”アグラーハの決闘のような目撃者が居ない今、死体に法力印を刻む以外に討伐の証明とする方法が無かったのだ。


「アタシの金貨150枚〜ッ!!」


〈卑怯者、卑怯者、卑怯者ォォォッ!! アガアアァァァッッ!!〉


 セレンの悲痛な叫び声の直後に、炎の中から燃え盛る巨人がぬっと起き上がった。

 あまりの光景にあんぐりと口を開く。


「あー、えっ…? えぇー……」


 ひとしきり吠えた巨人のシルエットは炎で辺りがよく見えないのか、座ったまま手当たり次第に当たり散らす。

 巻き添えをくらい飛ばされた土砂を浴びそうになったセレンは正気に戻って急いでその場から離れた。


「ふっざけんな! フレイムバーストだぞ?! いくらアタシの腕が鈍ってるからって『戦略級』が直撃して生きてるとかもう人類じゃねえだろッ!」


 辺りを焦土に変えられる戦略級術式を以てしても、のっそりと立ち上がり法力を漲らせるヨルドを仕留めきれなかった事実を受け止めきれない。

 セレンは巨人族のあまりの理不尽さに悪態をつく。


「あー、もしかして法力量が桁外れでアタシの法撃じゃまともに通らないとかそんな感じ…?」


 あれだけの図体なのだ。絶対的に法力量が多いと言われればそうなのかも知れない。

 ヨルドは姑息な不意打ちをしたセレンを探しているのか、目に付いた物、動く物を捕捉すると飛び掛かって暴れまくっていた。


「(かと言ってあれじゃ接近戦もしたくないし…。仕方ない、賞金は諦めて逃げるかな)」




◇◆◇




 正直な所、セレンはもう大勇士ネームドのヨルドを斃したいという気持ちは落ち着いていた。

 深入りしたヴィンス中隊は全滅、アグラーハより強いと言われる実力、そして実際に目の当たりにした戦闘力。


 まず強さが賞金に対して割に合わない。

 持ち込んだ武具も度重なる戦闘で傷んでいる。

 法力は薬を持ち出しで使って何とか繋いでいる状態。

 道中は休憩も挟むなりして体調の維持をしていたが、それでも万全からは程遠い。


「(何なんだよあの怪物は…。巨人族って全員ああなわけ?)」


 あれから無差別に暴れるヨルドから離れて森を通っての逃走中、セレンは出来るだけ物音を立てないように気を付けながらひた走りつつ、ヨルドの強さについて思い返し分析をしていた。


「(おっかしいなー。アタシの法撃、別に弱くないわよね? フレイムバーストなら人間があの大きさになっても一発で殺せる自信あったんだけどな〜)」


 いくら暫く使っていなかったと言っても術式が術式である。法撃での実戦経験は少ないが、それでも納得が行かない。

 太古の昔の神話の時代なら、不思議な力で護られたり神々の都合で特定の個人が贔屓されるなんてこともあったのかも知れないが、現代っ子であるセレンにはそんなオカルトは信じられなかった。


「(大きめの蜘蛛の魔物もブラスティングレイで一撃だったし、鈍って弱くなったんじゃ無いと思いたいけど…)」


 正直言えば、セレンは自分の法術全般にはそれなりに…いや、かなり自信があったのだ。

 いざとなれば何とかなる、と心の何処かでそう思っていた。


「(アマンダみたいに赤いモヤの影響で法力が不安定になってた、とか…? でも間近で浴びながらって訳でもないし、むしろ最近は身体の調子が良いくらいなのよねえ)」


 これから先、再び巨人族と戦闘する機会が訪れないとも限らない。全く望んではいないが、対策を講じるのは必要な事なのだ。


「(まあいっか。どうせもう二度と会うことも無いでしょ。難しい事は帰ってから考えるとして、まずは生還第一かな〜)」


 対策を考えるのも大切だが、だいぶ疲れた頭では良い案も思い浮かばないと判断してサパッと思考を分断する。

 今は戦馬も居ない状態で如何にして合流地点までなるべく早く到着出来るかを考えるのが先決である。


〈…ぉんナアァァァッ!!〉


 かなり距離を離した筈だが、一帯を震わせるヨルドの大声量が響いてきた。

 あの巨人は何もかもが規格外だ。

 こんなに離れていても声が聴こえてくるなど、声帯にも法力を込めているのだろうか。


「おいおい、冗談だろ…」


 一応確認しようと振り返ると、全身に青い炎を纏わせたヨルドが夜闇を切り裂いて全速力で迫ってくるのが視えた。


〈殺オォォォォォすッッ!!〉


 火傷の跡も生々しいというのに、動きに影響が出ているようには見えない。

 その怒りの頂点を極めて半分笑顔に歪んだ表情は、心臓に悪いくらい怖かった。




◇◆◇






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