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オリヴァー、出勤

教導騎士オリヴァーの登場です

モニカとサーシャが王都を発った二日後の朝のこと。

一人の騎士が自身の邸宅から王城へと出発した。


騎士の名をオリヴァー。

王族から教導騎士の称号を授与された名誉ある騎士である。


他の騎士たちよりも重厚なフルプレートアーマーと、表情を一切見せることのないフルヘルムを纏い、タワーシールドとロングソードを背中に負って歩く。


そこから放たれる存在感は、本来であれば見る者を戦慄させる威圧感となるが、オリヴァーがその姿で王都を歩けば――


「あ、オリヴァー様!」

「おかえりなさい!」


喜色を含んだ歓迎の声が住民たちから飛んでくる。

オリヴァーの姿を見た者たちが挨拶にと駆け寄ってきたのだ。


「あぁ、みんな元気そうで何よりだ」

そしてオリヴァーも、その重々しい姿に反して軽快に挨拶を返す。


教導騎士の存在は王都の住民には広く知られており、長きにわたる国の安寧のための活躍からの尊敬と、見た目に反する親しみ易さから親愛を集めている。


オリヴァーについて語られる偉業は数知れず、二百年を超える活躍の中で、いつ代替わりしているのか分からない程、その実力と人格、品位を保っていることから、住民たちにとっては教導騎士の中身はさほど重要なことではなくなった。


「きしさまー!」

「お、少し見ない間に大きくなったね、ティム」

「うん!」


大柄な鎧姿にも怯むことなく近寄ってくる小さな少年の名前を呼び、その成長を喜ぶオリヴァーと、頭を撫でられて嬉しそうに笑む少年ティム。


「オリヴァー様が戻られたということは、魔族侵攻は……」

住民の一人からそんな声が掛かる。


彼らにとって教導騎士オリヴァーは、その称号のとおり騎士の指南役であると同時に、魔族侵攻時には前線に赴き、その侵攻を食い止めるという認識がある。


そのオリヴァーが王都に戻ってきたという事は、原因である魔族侵攻対応にも進展があったと考えるのは当然のこと。


「ある程度、目途が立ったというところだ」

「そうですか、それは良かった」


オリヴァーの答えに、住民たちは胸を撫で下ろす。

魔族侵攻が終われば、また各地との交易が活発になり、市場も潤う。


王都では直接的な魔物の被害などは発生していないものの、各地の魔物被害による流通量の低下などは避けられなかった。


 オリヴァーがもたらした情報に安堵する住民たちに手を振りながら、教導騎士は再び王城へと足を進めた。




それから何度か別の住民たちに捕まり、世間話を楽しみながら王城の城門へ着いたのは、邸宅を出てから随分と経ってからだった。


「お、オリヴァー様ッ! 全員、集合!」

城門へと近づくオリヴァーの姿を捉えた門兵が、慌てて仲間たちに知らせる。


慌ただしく城門の前に整列し、教導騎士を出迎える門兵たち。

それに応えるように、オリヴァーも彼らの前で足を止め、姿勢を正す。


「「「お疲れ様です!」」」

揃った敬礼がなんとも美しく映え、教導騎士も敬礼を返す。


「あぁ、みんなもお疲れ様。訓練は順調かな?」

何気ない様子で、指南役として質問を投げかけるオリヴァー。


城門の門兵も、正しくは第一騎士団の団員。

魔族侵攻が始まるまでは、教導騎士の指南を受けていた。


訓練の中では、自分を卑下するような発言も、謙遜するような発言も、ましてや努力を怠るような発言など好まれない。


 日々の訓練を積み重ね、培った技術に胸を張って誇りを持ち、それに驕らず、さらなる高みを目指すことが推奨されている。


 よって、この場での返答はこうなる。

「はい! 練度の向上に努めております!」


並ぶ門兵の中の年長が、淀みなく日々の訓練を報告する。

その返答に、教導騎士は満足そうに頷いて返す。


「ではその成果、後で見せてもらおう」

指南役として、成長を確認するのも仕事の内である。


そして騎士の訓練の成果を確認するには、実践形式での模擬戦が手っ取り早い。

教導騎士の言葉はつまり、そういうことである。


「…………ぁ」

思わず小さくうめき声を漏らす年長の門兵と、口を固く結ぶ仲間たち。


教導騎士との模擬戦は、とにかく体力が尽きるまで終わらない。

切り上げるための条件を、誰一人として達成することができない。


教導騎士の鎧に付けた風船を割る。

そんな条件を、大人数で同時に挑んでも、未だ達成できていない。


その模擬戦の最中も、剣の振り方、体の動かし方、呼吸の取り方まで細かく指導され、容易く諦めることも許されない。


悔しさもあるが、勇者と並ぶ英雄と称される騎士の指南を受けられることは彼らにとっては誇りでもあった。


しかし、誰だって厳しい訓練に笑顔は向けられない。

できるのは精々、嫌な顔が浮かばないように、表情筋を固める事だけ。


「では、先に近衛騎士団長に挨拶してくるよ」

そう言って城門を通る教導騎士を、門兵は表情を固めたままの敬礼で見送った。




城内にある騎士の訓練施設。

騎士たちの宿舎などの生活空間でもある建物が立ち並ぶ。


そこに、王国騎士団の責任者である近衛騎士団長ジェラルドの執務室がある。

オリヴァーは執務室の扉をノックする。


「オリヴァーです」

「入れ」


入室の許可を確認してから、扉を開けて中に入る。

部屋の中では机に向かうジェラルドと、その隣に立つ副官がこちらを見ていた。


オリヴァーは机の前まで足を進め、ジェラルドへ敬礼する。

近衛騎士団長も立ち上がり、短く敬礼を返す。


「騎士オリヴァー、帰着しました。本日より、騎士の訓練指導に当たります」

「ご苦労。後日、報告書を提出するように」

「はっ」


口頭での報告は短く済ませる。

それよりも話すべき別件がある。


「騎士団長、少しお話があります」

「分かった」


二人の短いやり取りを見ていた副官に、ジェラルドは顔を向ける。

「すまない、少し外してくれるか。それと、各団に通達を」

「はっ」


敬礼して退室する副官を見送り、ジェラルドは改めてオリヴァーに向き合う。

心なしか、先ほどよりも姿勢を正して。


「それで、話というのは?」

「はい。神官モニカから提案があった、第二王子殿下と第三騎士団のことです」


モニカが教導騎士オリヴァーに丸投げした、喫緊の問題。

その責任の一端を免れないジェラルドは頭痛を覚えながら話を聞く。

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