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モニカ、やらかす

 話し合いを終え、モニカとアレクシスは会食の場へと戻る。

 二人がいない間、オリビアとサーシャ、宰相と近衛騎士団長は談笑していた。


 部屋に入ると同時に、少し空気が硬くなるのをモニカは敏感に察する。

 その空気に、モニカは少し冷ややかな視線で返す。


 国王を連れ立って席を外したのだから仕方がないとは思うが、元はと言えば、こうなるまで事態を放置していた国王と宰相、近衛騎士団長にも責任はある。


 国王アレクシスには先程、優しく説教をしたものの、少し気の緩みを感じざるを得ない節はある。


 原因は恐らく、件の占星術師。彼の活躍により国内に発生する大きな災害が予防できたことで、今後も大丈夫などという油断があるように思えてならない。


 ――少し、言っておくか

 なるべくなら(まつりごと)に口を出すつもりはないが、この際は仕方ない。


 元いた席に着き、食事を再開する。

 少し冷めてしまった料理を口に運びながら、静かに考える。


 正直モニカは、政治に関する勉強はしていない。

 あるのは過去の国王たちが成してきた政策とその結果を直接見た経験だけ。


 その経験から、今どう動くべきなのか。

 どのような情報が必要なのか。


 モニカが食事を再開したことで、少し緊張していた空気が薄れ、宰相と近衛騎士団長もホッと一息ついて談笑を再開する。


 だが、その談笑相手のオリビアとサーシャの表情は依然として硬い。

 二人だけはモニカの心境の変化に気づいていた。


 気づかない国王と宰相、近衛騎士団長だけが、気を緩めたまま楽しげに食事を取り、勇者一行への感謝を口にしていた。


「シャル」

「は……はいっ!」


 突然の呼びかけに、宰相シャルルは驚きながらも背筋を伸ばして応える。

 同時に、国王アレクシスと近衛騎士団長ジェラルドにも緊張が走る。


「……今だけは、私が口を出すことに目を瞑りなさい」

「しょ、承知しました」


 たとえモニカに王政を牛耳る意図が無くとも、政に関われば懐疑的な目で見られることは避けられない。


 この場にいる者なら、モニカにその意図がないことは分かっている。

 それでも、事前に前置きをする。


「エイドリアン殿下に余計なことを吹き込んだ者がいます。心当たりは?」

「は、はい。第三騎士団です」


 第二王子の口からも第三騎士団の名前は出ている。

 今さら問いただすような内容ではない。


 しかし、シャルルの口から証言させることが重要である。

 つまるところの問題は――


「分かっているなら対処しなさい。

 また腐れ貴族の温床になっているのではないですか?」


 既に調べがついているにも関わらず、それを放置していること。

 宰相として、国を揺るがす危険分子は対処すべき事案である。


「し、しかし……」

 宰相シャルルとて言い分がないわけではない。


 国王の身辺を守る近衛騎士団。

 王都周辺を守る第一騎士団。

 各地に駐在する見習い騎士や兵士を統率する第二騎士団。


 そして後継者ではない地方貴族の嫡子が寄り集まった第三騎士団。

 次期当主でないにしろ、その立場と後ろ盾が厄介な存在たち。


「第三騎士団に手を入れるとなると、地方貴族からの反発も……」

 広大な国の維持のためには、地方貴族の協力が必須。


「だからと言って、放置する理由にならないでしょう。

 現に第二王子が唆されて、陛下が気苦労を負われている。

 陛下に余計な心労を掛けないように立ち回りなさい」

「うぅ……」


 アレクシスの後継者問題に対して一歩引くのは間違っていないだろう。

 しかし、第二王子が懇意にしている第三騎士団の腐敗まで含めるのは違う。


「直ちに解体しろ、などと言っているわけではありません。

 厄介な後ろ盾のほうから、御しやすい順に引き込みなさい」


 第三騎士団に所属しているのは当主でも次期当主でもない。

 実家から縁を切られてしまえば、何の権力も揮えはしない。


「そしてジェリー」

 モニカの矛先はそのまま近衛騎士団長ジェラルドへ。


「第三騎士団に問題があるなら、キミにも動きなさい。

 近衛騎士団の団長とはいえ、騎士団全体の責任者でもあるでしょう」


 第三騎士団の腐敗を、責任者であるジェラルドが知らないはずがない。

 知らなければそれこそ問題だ。


「ぁ……」

 怠けていたわけではないが、結果として大事になっては意味がない。


 本来であればモニカが指摘するまでもなく、この二人は動くべきだった。

 国王の引退と、第二王子との癒着が重なったことで判断を誤った。


「まったく」

 モニカはわざとらしく大きな息を吐き、不満を顕わにする。


 そこまで怒り心頭というわけではないが二人、いや国王を含めて三人が連携を怠った事で、事態が大きくなったのは言うまでもない。


 それをしっかりと理解させ、反省を促すために敢えて芝居を打つ。

 恩人と慕ってくれるなら、その恩人に余計な手間を掛けさせないで欲しい。


「モニカ……そのくらいで……」

 隣から、宥めるようなオリビアの声が聞こえてくる。


「……そうだな。今は面倒なことは忘れよう」

 オリビアの顔を立てて怒りを抑えたことにする。


 ――さて、少しは反省したかな?

 モニカは正面に並ぶ国王、宰相、近衛騎士団長の様子を窺う。


「情けない……」

「不甲斐ない」

「……面目ない」


 三人とも沈痛な面持ちで項垂れ、食事の再開という空気ではなかった。

 そのあまりの猛省に、モニカではなす術も無い。


 ――オリビア、助けて……

 うまく場を執り成してくれると期待し、オリビアへ救援要請を送った。

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