モニカとアレクシスの対談②
自身の後継者について。
国王アレクシスの悩みは、責任ある立場にある者なら誰もが抱えるものだ。
しいて言うなら、アレクシスに圧し掛かっているのは一国を背負う重みであり、国と国民の未来を願えばこそ、容易く判断できるものではない。
しかし、その決断を求められる時が近づいている。
自身の老いを実感し、誤魔化しながらここまで続けたが、限界は近い。
最後のひと仕事として、この魔族侵攻の終息を選んだ。
これが落ち着いてからなら、穏やかな余生を過ごせる。
そのために決めなければいけないのが、自信の後継者を誰にするか。
どちらに王子にこの国の未来、そしてモニカたちを託すか。
モニカに促されるままに、アレクシスは少しずつ現状の問題を口にしていく。
嘘も隠し事もなく、心の中で抑えていたものを吐き出していく。
「メイザースは社交的で国民からも信頼されています。
しかし、協調性を重視するあまり、自ら決断することができません」
「エイドリアンは行動力と思い切りがあります。
しかし周りを顧みることのない、強硬な考え方をします」
どちらの候補にも問題があり、安心して後を任せることができない。
それがアレクシスの悩みであり、不安の正体である。
「モニカ……、私はどちらを……――」
アレクシスは弱気になりながら、静かに耳を傾けるモニカに問いかけ、止まる。
たった今、自分で第一王子の課題を指摘したばかりだ。
自分で決断することができない、と。
ずっと頼りにしている人が目の前で話を聞いてくれることに、つい気が緩んだ。
モニカなら、良い方法を授けてくれるのではないか、と。
しかし思いとどまる。
モニカにそれを尋ねてはいけない。
モニカたちは自分たちが関わる範囲に明確に線を引いている。
政治もその一つ。介入すれば、余計な火種になりかねない、と。
長い時を生きる彼女たちの存在は、捉え方によっては頼もしくあるが、暴走すれば容易く国のあり方を変えてしまえるほどの危険性もある。
国の中枢にいる者ほどその危険性を理解し、彼女たちを抹殺すべきと強行に走る者が騒動を起こした過去もある。
その危険性から生じる不安を拭うため、彼女たちは表舞台から姿を消した。
魔族侵攻を食い止めるためだけに現れる勇者一行となった。
いくら迷ったとしても、不安に押しつぶされそうになったとしても、彼女たちを政に巻き込むわけにはいかない。
アレクシスが口を噤んだことで、モニカはそれを察する。
――相変わらず、人の顔色を気にする
「アレク。その不安を、懸念を誰かに伝えましたか?」
人の顔色を気にして、親しい人にこそ不安を共有できていないのではないか。
「……いえ、していません」
案の定、アレクシスは誰にも悩みを打ち明けてはいない。
「そうでしょうね」
もしそれが出来ていたのなら、ここまで追い詰められなかっただろう。
「あなたは、大抵のことは自分で出来ますし、優秀な臣下もいる。
あなたがすべてを言わなくても、考えて動くことのできる臣下が」
宰相シャルルと、近衛騎士団長ジェラルド。
二人とは幼少時からの付き合いで、長い間、苦楽を共にした絆がある。
そんな彼らが、アレクシスの悩みに気付いていないわけがない。
しかし気付いていても、王政の根幹に口を出すのは憚られたのだろう。
「なら、二人に相談してみてはどうです?」
「……どちらを後継者にするのかを、ですか?」
彼らが口を出すのではなく、アレクシスが二人を巻き込み意見を求める。
意見を求められたなら、答えないわけにはいかないだろう。
彼ら自身も、アレクシスに協力したくないわけではない。
モニカたちが政に線を引くように、立場を弁えているに過ぎない。
「どう相談するかはあなた次第です」
「……このような相談をして、見損なわれたりしないでしょうか」
アレクシスはこれまで立派な王として、その務めを果たしてきたつもりだ。
大事に怯まず、迅速に的確な判断を下せる強い王として。
それが自分の後継者すら決めることができない王であったと知られれば、築き上げてきた像が崩れてしまうかもしれない。
「信じなさい。彼らは臣下であると同時に、あなたの大切な友人でしょう」
その言葉に、アレクシスは驚いたように目を見開く。
王と臣下という関係もあれば、昔のように気兼ねしない友人という関係もある。
その関係性を失念していた。
「……はい。彼らに、友に相談してみます」
アレクシスは余計な心配は拭い、不安を晴らすための行動を決意する。
その迷いの消えた表情を見て、モニカも頷き返し、優しい笑みを浮かべた。
――もう大丈夫そうだ
人に話す行為自体が自分の考えを整理するための方法にもなる。さっきまでのアレクシスは自分の中だけで考えをまとめようとして雁字搦めになっていた。
相談する行為に移すことさえできれば、アレクシスは落ち着いて状況を分析し、適切に判断することができるだろう。
しかしそれだけは不十分だとモニカは思う。
アレクシスが話すべき相手は、その二人だけではない。
「アレク、分かっていますね」
少し冷静さを取り戻した今のアレクシスなら、伝わるはずだ。
「はい。息子たちとも話し合いの場を設けます」
迷いなくモニカの意図を汲み取る。
その答えにモニカは満足げに頷く。
――やはりキミは立派だよ
「一方的ではダメですよ。
腰を据えて、ゆっくり。しっかりと話し合いなさい」
特にエイドリアンとの関係は既に拗れてしまっている。
そこからの修復はそう簡単ではないかもしれない。
それでも、それが国の未来に繋がるのなら、最後まで諦めずに向き合い続けるのもまた、王の務めなのだろう。
聖母モニカの降臨でした
後ほど追憶も更新いたします




