エイドリアンの主張
第二王子エイドリアンが魔族の族滅を目指す目的。
それは現在、第二位である自分の王位継承順位を上げ、王位を継ぐこと。
それを達成するためには勇者を魔族の領域に進ませる必要があり、そのためならば、自ら敵地に赴くことすら視野に入れている。
「お前……」
国王は愕然とした表情で、決意を固めている息子を見る。
剣術ばかりで、政治も外交も財務もまるで無関心であったエイドリアンが、王位をこれほど貪欲に欲しているとは知らなかった。
そしてその顔には、ただ王位という地位と権力が欲しいだけとは思えない真剣さがあり、それが国王をより混乱させる。
第二王子エイドリアンは、これほど献身的に国民を思っていただろうか。
国の未来を、繁栄を願って行動したことがあっただろうか。
「いざという時に判断の遅い兄上では、国を守れない」
エイドリアンは、第一王子メイナードの欠点である判断力のなさを指摘する。
それは国王も懸念していることではある。
次期国王となる第一王子は、指導者としての資質に疑問がある。
しかし、だからといってエイドリアンが次期国王となる理由にはならない。
少なくとも第一王子は王族として、国民からの信頼を得ている。
何より、エイドリアンには他者を思いやる気持ちに欠けている。
今の今まで、魔族侵攻を防いだ勇者への労いの言葉すらない。
心の底から慕っている勇者一行への数々の無礼な態度が、国王が今のエイドリアンの言葉を素直に受け入れられない要因になっている。
「勇者、協力してもらうぞ。
人族も未来のためなら、貴様には動く義務がある」
エイドリアンの不躾な指差しがオリビアに向く。
それが国王の更なる反感を買うことになるとは考えもせずに。
ドンッ、とテーブルを叩く音が響く。
国王がエイドリアンを険しい視線で射貫いていた。
「彼女たちの役割は魔族の侵攻を受けた時に人族を守り、侵攻してきた魔族を討つこと。それ以外で彼女たちの自由を侵すことは許さん」
もはやその目は、親が子に向ける目ではなくなっている。
まるで仇敵を見つめるような、敵意のこもった視線だ。
「魔族が滅べば、今後はその者たちのように役目に追われる勇者は生まれない。
今の勇者の不自由で後世が助かるなら、十分に報われるのではないですか」
国王の強い非難でさえ、第二王子にとっては自身の主張の前に転がる石ころ。
自分の中に確立した主張、それを支える根拠は決して揺るがない。
「分からん奴だ……」
国王は頭を抱えた。
そんな国王を見て、エイドリアンも内心で首を傾げる。
彼にとっては、国王が非難する理由が分からなかった。
魔族が滅べば、人族にも勇者にも平和が訪れるのは自明の理。
どうしてそれを行動に移すことが非難されるのだろうか。
父親にして、現国王アレクシス。
彼が幼少時より未来の国王として、その才覚に期待されていた。
良い教育係に恵まれ、多くの知識を備え、物事を多角的に見ることもできた。
武勇は聞かずとも、エイドリアンもそんな父に尊敬の念を抱いていた。
父であれば、魔族を滅ぼすことの利点と、その可能性である勇者の活用に理解を示し、賛同してくれると思っていた。
しかし、具申すれば結果は真逆。
国王は勇者を守るかのように、魔族側への攻撃手段とすることを拒絶した。
『国王陛下は勇者の魔法に洗脳されているのかもしれませんな』
懇意にしている第三騎士団長の言葉が思い起こされる。
謁見の間でのことを伝えた時、そんなことを言っていた。
まさかそんなことと思って聞き流したが、今の国王の反応を見ていると、あながち根拠のない勘繰りではないのかもしれない。
父が勇者について多くを語らないのも、操られているとすれば納得もできる。
無論、それだけで断定するつもりもない。
エイドリアンの視線がオリビアを射貫く。
――もし父を操っているのなら容赦しない
エイドリアンは国王を疎んじているわけではない。
尊敬もしているし感謝もしている。
勉学は肌に合わず投げ捨ててしまったが、それでも王族として国を、国に住む民の未来を考えてきた。
国王が、勇者だけを魔族の領域へ行かせることに難色を示すなら、この身を危険に晒すことも受け入れる。
それが第二王子エイドリアンの覚悟であり、意地だ。
国の未来という成果のため、是が非でも勇者の力を利用する。
どんな障害が現れようとも、国の未来のためと掲げた名目を蔑ろにはできない。
国の未来を二の次にする主張など、大罪人として処すればいいだけだ。
国王も、宰相も、近衛騎士団長も、エイドリアンの主張に沈黙した。
勇者でさえ、少し困ったような弱々しい表情を浮かべている。
エイドリアンは満足げに鼻を鳴らす。
これで下準備は整った、と。
「陛下。
発言を宜しいでしょうか」
そこに、水を差すものが現れる。
神官モニカである。




