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弱り目に祟り目

 モニカの心ない一言に傷付き、次々と菓子を食べてはお茶を飲むオリビア。

 率直な感想を言ってしまって悪いとは思いつつも、どうにもできないモニカ。


「ただいま~」

 そこに救世主のサーシャが“空間転移”で戻ってきた。


 サーシャは両手いっぱいに抱えた荷物を床に置き、一度小休止を挟もうと思っていたが、どうにも気まずい空気を感じ取り、予定を変更する。


「……まだ買う物があるから、もう一回行ってくる――」

「私も行くわ」


 すかさずオリビアが便乗する。

 外に出て気分を変えたいと、目立つ鎧は脱ぎ、目立たないよう外套を羽織る。


 サーシャは一度モニカを確認する。

 買出しに出かけた時よりもいくぶん覇気が戻っている。


 オリビアが上手くやってくれたようだ。

 代償にオリビアがの機嫌が悪くなっているが。


「行ってくるねモニカ」

「……あぁ」


 サーシャの声に生返事で答えるモニカは、ソファーに背を預けた。

 緊張から逃れられたと安堵しているようだ。


 それを見てオリビアはしかめっ面をモニカへ送る。

 ――覚えておきなさいよ




 オリビアとサーシャはフードで顔を隠しながら王都の商店通りを歩く。

 同じように身分を隠す者は珍しくなく、特に正体を暴かれることもない。


 大通りの幅、立ち並ぶ一つ一つの商店の規模、そしてその品揃え。

 どれ一つとっても、エステルがいたニウェーストの町とは比べ物にならない。


 町の規模を考えれば、ニウェ―ストの町にあれだけ豊富な種類の商店が開かれている事が普通ではない。


 あの流通網がこれからも維持されるのであれば、あの町は近い未来に大きな都市へと変貌していくことだろう。


 そんな未来の大都市に期待を寄せながら、サーシャは一人では買いきれなかった必要物資を頭の中で整理しつつ、隣を歩く不機嫌なオリビアに声を掛ける。


「えっと……大丈夫?」

「……大丈夫よ、別に気にしてないわ」


 敢えて何があったかは聞かない。

 温和なオリビアの臍を曲げるだけのことをモニカがしたのは聞くまでもない。


 気にしていないと言いつつも、下から見えるオリビアの横顔はふくれっ面。

 モニカの対応の任せた結果である異常、サーシャも罪悪感を覚える。


 しばらく居心地悪く並んで歩いていると、ふぅ、とオリビアが息を漏らす。

 やれやれと言うようにふくれっ面を解き、いつもの穏やかな笑みを見せた。


「ごめんなさいね。ちょっと怒りが収まらなくって」

「ううん、任せちゃったのは私だから」


 いつもの調子に戻ったオリビアにサーシャも安堵する。

 まさかオリビアが怒る事態になるとは思ってもみなかった。


「モニカなら大丈夫よ。憎まれ口が叩ける程度には調子が戻ってるわ」

「……なんか、ごめんね?」


 どんなことを言われたのか分からないが、ひとまず謝っておくサーシャ。

 それと同時に、憎まれ口だと言いつつも一緒に居てくれるオリビアに感謝する。


「いいのよ。モニカは手のかかる妹みたいなものだし、サーシャは娘だもの。

 それに……」

「それに?」


 オリビアは口に手を当てて、サーシャを凝視して少し考える。

 ――……サーシャは大丈夫よね?


「モニカにも言ったけど、私は二人を一生支えるって決めてるからね」

 微笑を浮かべながら、サーシャをまっすぐ見つめて言う。


 サーシャは驚いたように目を見開く。

 そして破顔しつつ一言。


「重いよ」


 オリビアは微笑のまま硬直する。

 持ち直した心がまた音を立てて崩れていく。


 血が繋がっていなくとも、やはり蛙の子は蛙。

 こんなところまで似なくてもと思いつつ、言葉の意図は理解できてしまう。


 一生支えると決意を固めているオリビアに対して、モニカとサーシャは思う。

 自分たちに縛られず、自由に生きて欲しい、と。


 オリビアの決意を無下にするわけでも、邪魔に思うわけでもない。

 ただ家族として、彼女には自由な幸せを手にして欲しい。


 しかしオリビアも、引き摺られるように今の決意を固めたわけではない。

 自分で考え選んだ道に、後悔も迷いもない。


 だからこそ自分の決意をちゃんとわかっていない二人には文句を言いたい。

 言いたいが、上手く言葉が出てこないので、とりあえずの一言。


「んもうッ!」


 またふくれっ面に戻ると、サーシャを置き去りにどんどん先へ進む。

 サーシャは困ったように笑いながら彼女の後を追った。




 夕刻。

 宰相に案内され、王城の一室へと入室する。


 すでに国王と近衛騎士団長が着席して三人の到着を待っていた。

 国王、宰相、近衛騎士団長と向かい合う形で、三人も席に着く。


 この部屋は普段なら、国王が食事をとる場所でも、貴賓を招いての晩餐会を開く場所でもない。


 しかし今回の夕食会は、勇者一行の活躍と勝利を祝う祝賀会ではなく、国王と古い知人の秘密裏の慰労会が趣旨である。


 祝賀会のように豪勢で盛大な料理が用意されているわけではないが、料理長には極秘の賓客と伝え、三人が十分に満足しうる料理や酒が用意された。


「陛下、この度はこのような場をご用意いただき、ありがとうございます」

「こちらこそ、其方らの献身に感謝している」


 堅苦しい挨拶は抜きと言いつつも、最低限の礼儀として招待と気遣い、協力に感謝を伝え合う。


 和気藹々とした集まりではないが、静かに、しかしよそよそしくない時間と、そして料理長が腕を振るった食事を楽しんでいた。


 そこに、水を差すものが現れる。

 第二王子エイドリアンである。

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