噂の占星術師の評価
オリビアの一元視点となります。
宰相に送られ、“空間転移”で登城した部屋まで戻った勇者一行。
その部屋に併設された休憩室で、宰相に持てなされていた。
休憩室と言っても簡素なテーブルと椅子があるだけの部屋ではなく、貴賓客用の応接室に近い調度品が備え付けられた大きな部屋である。
モニカとサーシャは三人がゆったりと座れる大きさのソファーに腰掛けている。
モニカは相変わらず陰鬱とした表情で、それを心配そうに見つめるサーシャ。
オリビアは一人掛けのソファーに腰を掛け、宰相が入れてくれたお茶を口に含みながら、さっきの事を思い出す。
第二王子から向けられた感情。
自分たちを人として見ていない嫌な視線。
あれは体よく人を利用して、用済みになったら捨てるつもりの目だ。
それを隠そうともしていないあたり、悪いとも思っていないのだろう。
「あれが第二王子……ね」
「……申し訳ございません」
オリビアが思わず漏らした一言に、宰相も思わず謝罪を述べる。
王族にあるまじき行為を諫めることが出来なかった事は臣下である彼の過ちだ。
勇者一行の謁見が秘密のものだとしても、見張りの兵を立てておくべきだった。
その事は後で近衛騎士団長とも話し合わなければならない。
「ぁ……ごめんなさい。そんなつもりじゃないのよ」
謝罪を求めるつもりではなかったため、頭を下げる宰相を慌てて止める。
宰相にも落ち度があり、それを気に病んでいる事も分かっている。
分かっているからこそ、あえてそれを責めるつもりはない。
「ただ、殿下の今後を考えるなら、今のままは不安よね」
「……おっしゃる……とおりで……」
苦渋の色の浮かべながら、オリビアの言葉に同意を示す宰相。
王族に対して不敬だと思われようとも、こればかりは宰相も頷くしかない。
第二王子の行動はあまりにも礼に欠ける。
あの振る舞いを続けていれば、いずれ反感を買い、余計な火種を生みかねない。
幸いなことに第二王子の王位継承の序列は第二位。
国王エイドリアンが誕生することは回避できそうではある。
もし誕生するようなことがあれば、この国の未来は暗いことになりそうだ。
この国のためにも、第一王子には健康に気を遣ってもらいたい。
「それはさておき、ひとつお願いしてもいいかしら?」
「なんでしょうか」
テーブルの上に焼き菓子を並べた大皿と、ケーキスタンドが用意される。
サーシャの視線がモニカからお菓子へと流れ始めた。
「王城に勤めている占星術師に会ってみたいの」
オリビアの言葉に、宰相は表情を引き締めた。
最近、頭角を現している占星術師がいる。
噂では数年前から数々の予言を的中させ、大規模な被害を防いだとか。
もしその力が本物であるなら、次に起こるであろう魔族侵攻の時期を予見したり、その戦力を測ることもできるかもしれない。
そんなオリビアの思惑に対して、宰相の表情は硬い。
まるで何か問題があるかのように眉間に皺を寄せ、思い悩んでいる。
「……その、件の占星術師……ですが……」
言い淀みながらも、宰相はゆっくりと口を開く。
重い空気を感じ、オリビアは固唾を飲んで次の言葉を待つ。
サーシャは皿に取ったケーキを嬉しそうに頬張った。
「勇者さまに対して、すこし過激になりやすいもので……。
特にオリビア殿はできればお会いにならない方が……良いかと思います……」
その言葉を聞いて、オリビアは目を伏せる。
悲しみ半分、諦め半分という具合で、胸の中がざわつく。
やはりいつになっても、力を持つ勇者という存在は危険視されてしまう。
ましになったと思っていても、どこかでは燻り続けている。
「あぁ……いえ、あの……危険思想というわけではないんです」
オリビアの様子を見かねた宰相が付け加える。
「勇者さま、というより勇者さまの冒険譚に強く憧れていまして。
勇者さまの事を語る時の熱量が凄まじく、礼儀も何もかもが……」
今度はオリビアの眉間に皺が寄る。
事態は思ったほど悲愴的ではないにしろ、確かに問題だ。
第二王子しかり占星術師しかり、方向性は違えど礼儀に欠けるのは良くない。
仮にも王城に勤める者が無礼では、国王の権威に関わる。
「普段は極めて理性的なのです。
書庫室の司書としても優秀なので、勇者さまの話題さえ振らなければ……」
宰相による擁護も力はなく、長所を打ち消す短所が強い始末。
一応勇者として通しているオリビアに会えば、どのような行動に出るのか。
「う、腕は確かなのです。もともとは司書として働いていましたが、いつの間にか占星術を習得し、災害を言い当てていますし……」
確かにその点だけを見れば非常に優秀なのだろう。
信頼のできる未来を占える人材なら、多少の奇行も大目には見てしまう。
とはいえ、直接会うのは遠慮することにしたオリビア。
一応そういった占いが可能かどうかを宰相経由で確認してもらうことにした。
宰相は三人がゆっくり寛げる支度を整えると、部屋を出ていく。この後の予定の調整や国王の補佐などがあり、本来なら給仕をさせるような人物ではない。
勇者一行の事情を知る数少ない人物であり、また宰相も幼少時には三人に面倒を見てもらった思い出もある。
たとえ忙しくとも、恩人との時間の共有には時間を惜しみたくはないと、自ら率先してその役割を買って出ている。
彼の優しさに癒されながら、オリビアも用意された焼き菓子を一つ口に運ぶ。
サクサクとした食感と控えめの甘さがオリビアの好みに合っている。
「美味しい」
お茶で口の中を潤し、多幸感に包まれながらホッと一息ついた。
番外「たまさか ~追憶~」も一話だけ更新しておりますので、
お時間ございましたら、そちらもよろしくお願いいたします。




