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闖入者、現る おかわり

 第二王子エイドリアンが構想する、魔族侵攻の真なる終結。

 それは勇者の力を使い、魔族自体を討ち滅ぼす事。


 それが叶えば魔族侵攻は二度と起こらない。

 人族にとって、本当の平和が訪れる。


「エイドリアンよ、いい加減にしないか。

 これ以上醜態を晒すでない」


 そんな第二王子の思惑を、父たる国王が否定する。

 そのように夢想すること自体が恥であると。


「勇者たち、本当にすまない。

 後はこちらで対応する故、下がってよい。

 シャルル、彼女たちを」


 国王は片手を額に当て、瞼を閉じたまま詫びを入れる。

 これ以上身内の恥で彼女たちを害するわけにはいかない。


「はっ。皆さま、こちらへ」

 宰相シャルルが第二王子と勇者一行の間に滑り込み、壁となる。


「待て、俺の話はまだ――」

「エイドリアン様ッ、お控えください!」


 なおも追い縋ろうとする第二王子を近衛騎士団長が制止する。

 既に手遅れではあるが、これ以上の行為は王族としてあるまじき暴挙だ。


 すでに物の分別が付けられない年齢を遥かに過ぎた第二王子の行いではない。

 今の行為はそれこそ、わがままな子どもも同然。


「おじいさまー!!」

 今まさに現れた、新しい闖入者のように。


 元気いっぱいの大声と共に、開けっ広げられたままの謁見の間に走り込んできたまだ幼い少年は、勇者一行に目もくれず、まっすぐに国王を目指す。


 そのあまりの快活さには、近衛騎士団長と揉み合いながらも勇者を追おうとした第二王子も思わず硬直し、自分の横をすり抜けていく少年を見送った。


 やがて少年は国王のもとまで辿り着き、その膝の上に飛び込む。

 無邪気な笑みを浮かべる少年を迎え入れた国王は優しい笑みを浮かべていた。


「おじいさま! 本日の勉強、終わりました!」


 闖入者はこの国の第一王子の第一子、クリストファー。

 国王にとっては可愛い初孫であり、幼さ故の無礼も目を瞑りたくはあるが――


「ふむ、頑張っているな。

 だが今は謁見中だ、許可なく入ってきてはいけないよ」


 孫の頭を撫でて頑張りを褒めつつも、今の行いについては注意をする。

 将来を期待するが故に、叱る時はしっかりと叱らねばならない。


「ぁ……ごめんなさい……」

 クリストファーも自らの過ちをすぐに認め、素直に謝る。


 膝の上でシュンと落ち込む可愛い孫に心苦しさを感じつつも、叱った事を翻しはしない。国王は宥めるようにクリストファーの頭を軽く叩く。


「今度からは気をつけなさい。

 では勇者たち、また後ほどな。

 エイドリアン、お前にはまだ話がある」


 国王はもう一度勇者たちの退室を促し、それを妨げる第二王子は呼び止める。

 これ以上息子の愚行を見過ごすわけにはいかない。


「父上っ!」

 なおも食い下がるエイドリアンをよそに、勇者一行は一礼の後に退室した。




 第二王子エイドリアンは退室した勇者一行を追いかけようとするも、国王に呼び止められている以上、退室することは許されない。


 謁見の間から勇者一行が出て行ってしまった時点でこれ以上の追及は出来ない。

 閉ざされた扉の前で立ち塞がる近衛騎士団長をひと睨みし国王の前に移動する。


「父上、なぜご理解いただけないのですか?」

 第二王子からすれば、自らの主張の正当性を認めない国王が分からない。


 確かに勇者は人族を魔族から守るため、神が遣わした守り手だ。

 人族を守るための存在であって、魔王を討つ事が本来の役割ではない。


 しかし人族が脅かされる根本的な原因を解決するためなら、その力が揮われる事は間違いではなく、むしろ究極の解決とも言える。


 そこに至るための過程に致命的な問題がある事に目を瞑れば、第二王子の主張は確かに人族の恒久的な平和を手に入れるための最善手たり得るだろう。


「エイドリアン。

 勇者といえども、あの山を越えることはできん」


 その致命的な問題は、決して秘密にされるような事ではない。

 たとえ小さな村であっても、仕来りとして言い付けられる程度には知られている。


 それは王都から西の方角、ニウェーストの町の北にある大きな森と同じ。

 北の山脈を越えることは命を捨てることと同じだと。


 当然、幼い頃から教育を受けてきた第二王子エイドリアンも、その事は教えられているはずだが、行くことは無いだろうと忘却してしまったようだ。


(剣術にのめり込んでしまってからは、まるで勉強しておらんな……)

 あまりの無知さ加減に、国王は何度目か分からない溜息を吐く。


 それを心配そうに見上げるクリストファーが、国王の荒みそうな心を癒やす。

 今日の勉強が終わったという今年で八歳になる初孫ならどうか。


「クリストファーよ。

 ワシがなぜ勇者たちに北の山脈を越えさせないか、分かるかな?」


 まるで理解しようとしない息子は置き去りに、膝の上の初孫に問う。

 突然の問いかけに一瞬呆けるも、クリストファーはすぐに元気に答える。


「はいっ! 遠くて危ないからです!」

「んん……、間違っては……いないのだが……」


 至極簡潔で子供らしい答えに、国王は悩まし気に眉を寄せる。

 簡潔すぎて、不正解と断じることも難しい。


 孫がどこまで学んだのか、国王は詳細な報告を受けている訳ではない。

 単純に北の山脈が遠く、魔族がやって来る場所だからと答えたのかもしれない。


 しかしいずれは学ぶ歴史だ。

 少なくともエイドリアンも一度は耳にしているはずの内容だ。


「二人とも、よく聞きなさい。特にエイドリアン。

 北の山脈を越える試みは過去、実行されている」


 国王は記録に残されている凄惨な歴史を振り返る。


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