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闖入者、現る

 オリビアたちが引き続き勇者の肩書を使う許可を国王から貰った。

 これにより勇者としてニウェ―ストの町に出向くことができる。


 勇者として関わった以上、勇者として見届けなければならない事がある。

 それは魔王エステルが町に戻ったあとの行動。


 今は町を離れているエステルも、時が来れば町に戻れる。

 それが叶うようにモニカが取り計らった。


 確かに彼女の町での評判はとても良く、魔王であった過去に目を瞑れば、真面目で勤勉な住民であり、好意的な印象を与える人物だった。


 しかしそれでも魔族であり、魔王。

 北の山脈の洞窟にいた魔族のような攻撃性を持っていないとは限らない。


 疑いたいわけではないが、慎重にならずにはいられない。

 やっている事は、危ない橋を渡る事に他ならないのだから。


 勇者として、魔王である者を放置する。

 町で生活することを止めず、あまつさえ町に戻るための世話を焼く。


 勇者として、だけではない。

 人族として裏切り行為にも等しい。


 もしエステルが残虐な一面を隠しており、町に戻った後にそれを(あら)わにしたのなら、黙認したオリビアたち勇者一行には重い罰が下されるだろう。


 そして、オリビアたちを勇者として認めた国王にも火の粉が飛ぶ。

 それだけは避けなければならない。


 代々オリビアたちを支え続けてくれた王族の権威を貶めることはできない。

 そうでなければ、かつての仲間に顔向けもできない。


「そうだ」

 オリビアが静かに決意を固めていると、国王が思いついたように膝を叩く。


「大々的な祝賀会はまだできないが、個人的に其方らを労いたい。

 ここにいる者たちだけで、今夜食事でもどうだろうか?」


 オリビアたちの事情を知らない者がいれば食事も気を張る必要が出てくる。

 冒険者や兵士たち相手ならいざ知らず、貴族が混じれば油断もできない。


 しかし居ないのであれば自然体での歓談を楽しむこともできる。

 その意味も兼ねて、国王は小さな食事会に招待している。


「喜んでお受けいたしますわ」

 国王がそれを望むなら、とオリビアも気軽な様子で受ける。


 砦や城塞都市での宴に出た食事や酒も悪くはない。持ち運びや保存に重きを置く中に、少しでも味を良くしようとする工夫が感じ取れるだけで喜ばしい。


 対比するように、王城で出される食事は贅を尽くした物は見た目にも楽しい。

 素材、味は言うまでもなく、視覚や嗅覚でも美味しさを感じさせてくれる。


 どちらが上、などと無粋な事は長らく考えた事はない。

 どちらの食事も、楽しめるならそれで良い。


「では皆さん、本日は貴重なお話、ありがとうございました」

 国王の合図を受け、宰相が散会の流れをつくる。


 それを受けてオリビア、モニカ、サーシャも今一度国王に頭を下げる。

 国王も表情を引き締め、大きく頷いて見せる。


「のちほど改めてお知らせ――」

「――父上っ!」


 そこに突如、謁見の間へ闖入者(ちんにゅうしゃ)が現れる。

 乱暴に音を立てて扉を開け、大声と共に入ってきた壮年の男性。


 派手な装いをしているが、腰に携えた長剣は鞘を含めて綺羅(きら)びやかではない。

 むしろ長く使い込まれたような洗練さすら感じる。


「……はぁ」

 その姿を見た国王は額に手を当てて、深く溜息を吐く。


 闖入者はこの国の第二王子エイドリアン。

 国王にとっては不肖の息子であり、かつては可愛い息子であった。


「エイドリアン様ッ、謁見中ですよ!」

「そんなことは分かっている。勇者一行が戻ったと聞いたぞ」


 宰相の苦言をものともせず、エイドリアンは歩みを進める。

 これには近衛騎士団長もその侵攻を妨げるべく前に出る。


「エイドリアン様、お止めください」

「エイドリアンよ、こちらに来るでない」


 近衛騎士団長、国王の言葉にすら耳を傾けない。

 屈強な近衛騎士団長を強引に押し退け、勇者一行のもとへ。


「こいつらが勇者?」

 第二王子の訝しむような視線に、オリビアは返事をせずに会釈で返す。


 第二王子エイドリアンは信じられないという表情で、オリビアを、そしてモニカとサーシャにも視線を送っていく。


 事実はどうあれ、彼女たちの見た目は二十歳前後で止まっており、知らぬ者からすればとても人族の脅威となる魔王を討ち取れるようには見えない。


 しかし彼女たちの事情と武勇を知っている国王からすれば、息子の態度はあまりにも礼を失しており、もう一度深い溜息が漏れる。


 甘やかし過ぎたと反省するも、既に三十を間近にしても落ち着きのない息子に今さら礼儀を説いたところで伝わるとも思っていない。


「エイドリアンよ。謁見中に許可なく入るとはどういうつもりか?」

 せめてその非常識な行いに対する叱責で、自発的な反省に繋がることを願う。


「父上、この者たちが本当に勇者なのですか?」

 そんな国王の願いは息子には伝わらない。


 不躾にオリビアを指差し、国王に真偽を問う。

 その行為に怒りを示すように、国王は玉座の肘掛けに拳を落とした。


 国王の無言の怒りを感じ取ったのか、第二王子エイドリアンはオリビアに向けた指を下ろすも、不審な視線は止めない。


「……まあいい。おい勇者、貴様に聞きたいことがある」

「?」


 声には出さず、首を傾げて応対するオリビア。

 国王の許可がない以上、自由な発言が認められる場ではない。


 とはいえ相手はこの王国の第二王子、無下に扱うこともできない。

 幸いにも第二王子はオリビアが自分の話を聞いている事に満足し、続ける。


「魔王を撃退したなら、なぜ追撃して魔族を滅ぼさない?

 これではいつまで経っても侵攻を繰り返すだけだ」


 魔族の王たる魔王を討ち取る力を持つ勇者がいるなら、魔族侵攻が二度と起こらぬよう、その原因たる魔族を族滅すれば良いと、第二王子は考える。


 それこそが人族を守る勇者の役割であり、最終目的であるべきだと。

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