報告と提出
オリビアは魔族侵攻の詳細を報告する。
そこには二つの意味がある。
一つは今後起こり得る魔族侵攻の被害を概算すること。
魔族の魔法、戦闘技術を過去の情報と照らし、その発達具合を見定める。
そこからおよそ四、五十年後に起こりうる脅威を算出し、それに対する被害規模の想定、対策の立案を行う。
魔族が諦めない限り、魔族侵攻の発生を食い止めることはできない。
ならばせめてその被害を抑えるための行動を取らなければならない。
そしてもう一つは、魔族の魔法技術を取り入れること。
人族よりも高い性能を持つ魔族の魔法は戦力にも、生活基盤の向上にも繋がる。
戦いの中で生活に用いる魔法を汲み取ることは難しいが、多角的に見ればなにか足掛かりが見つかるかもしれない。
勇者から提供される情報が国の未来を左右する。
宰相はオリビアの口から語られる情報を正確に記録していく。
前回王城を訪れてからの情報。
昨年王城を襲撃した魔王が根城にしていたであろう東の魔王城の事から。
「解体途中の魔王城でしたが、アンデッドの巣窟になっていました」
サーシャが自失茫然となりながら戦い続けた東の魔王城のアンデッド集団。
「殲滅しましたが、解体再開は冒険者の調査を終えた後が良いでしょう」
まだどこかに魔族や魔物が隠れ潜んでいるかもしれない。
「西側の砦において、ロックウルフの異常行動を確認しました」
北の山脈全域に生息している狼の魔獣ロックウルフ。
「山を調査した結果、魔力が漏れ出る洞窟を発見、潜入しました」
洞窟は恐らく自然なものではなく、巨大な魔物ロックイーターによる移動跡。
「洞窟の奥深くに儀式めいた祭壇があり、魔王と魔族と邂逅、交戦しました」
魔法を主体に戦う魔族と、儀式で強化された魔王との戦闘。
「祭壇にはロックウルフの骨のような物が積まれており、魔王の強化とロックウルフの異常行動の原因と考えられます」
祭壇によりロックウルフの異常行動が引き起こされたと推測し、祭壇を破壊。
ロックウルフの経過観察をすることで、侵攻の終結の指標になると考える。
「魔族の方は火の魔法を使い、また四十年前に報告しました魔法文字、あれを戦いに用いることを考案した張本人でした」
四十年前の戦いで、勇者一行は魔法文字の刻まれた武器を使う魔王に苦しめられた。その事はこの場にいる誰もが知っている。
「そしてこれが戦利品となります」
木箱に収めた髑髏の仮面と魔法文字が刻まれた短剣。
王城を襲撃した魔王が身に着けていた髑髏の仮面を、国王も目にしている。
戦利品として提出された髑髏の仮面はそれと同じ意匠の物。
間違いなく魔王、あるいはそれに近しい魔族の持ち物。
それを入手したということは――
あえてすべてを語る必要はない。
状況を説明すれば、自ずとその結論にたどり着く。
「魔法研究の資料として提出しますが、仮面は少し危険度が高いので、先にこちらで精査してからでも宜しいでしょうか?」
オリビアの提案に、宰相は国王に向き直り、国王は頷く。
「それは、こちらからもお願いする」
彼女たちの知識、実力をもってして危険度が高いと言わしめるのなら、それは到底、王国の手に負える代物ではない。
勇者一行には魔法に対する理解が深い戦士サーシャがいる。
まずは彼女に調べてもらい、危険はできる限り取り除いてもらうしかない。
「短剣も魔法文字が刻まれていますので、取り扱いにご注意ください」
武器の扱いに慣れている近衛騎士団長に木箱ごと短剣を渡す。
髑髏の仮面の、人を操る魔法は潜在的な危険があるが、短剣は恐らく直接的に対象を害する魔法文字が刻まれており、危険性はどちらも等しく高い。
近衛騎士団長は短剣の入った木箱を受取るやいなや、そっと足元へ置いた。
誰だって危険なものを持っていたくはない。
「研究室には厳重に管理の上、外部への持ち出し制限を徹底させます」
「実験には近衛騎士団からも出向させよう」
魔族の持ち込んだ武器が危険でないはずがない。
その取り扱いには細心の注意を払わなければならない。
「その短剣も後で研究したいから、その時は融通して欲しいです」
サーシャの要望に国王が頷く。
その短剣を持ち帰った勇者一行にはその権利があり、かつ彼女の魔法研究については国王も、国の研究室もその重要性を知っている。
国王お抱えの魔法研究者としてその正体は秘匿されているが、彼女がまとめた幾つかの研究資料によって、魔法に対する理解力の高さは認められている。
研究室長もいつか彼女を研究室に招き、共に語らいたいと希望しており、サーシャからの要請とあれば、研究室は協力を惜しまないだろう。
魔王討伐に至る状況説明と、戦利品の提出。
これで勇者としての最後の仕事を果たしたと言っていい。
あとは魔族侵攻の終結を見届けた後、彼女たちを勇者の任から解く。
勇者という肩書を返上すれば、オリビアたちは元の生活へと戻る事ができる。
魔王討伐という役目を終えた今、勇者の肩書を持ち続けることは厄介事を引き寄せる重荷になりかねない。
特別な事情を抱えるオリビアたちが大衆にとけ込み生活することは難しい。
それでも、大恩ある彼女たちの選択肢を狭めることはしたくない。
国王にとって彼女たちは勇者であり、恩人であり、報いるべき相手だ。
それは今も昔も変わらない。




