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勇者と国王

 勇者一行は第二砦と城塞都市でも、第一砦と同様に歓待を受けた。

 既に魔王撤退の話は両拠点で広まっており、皆が勇者の凱旋を待っていた。


 城塞都市からであれば王都まで“空間転移”も可能ではあるが、城塞都市で王都へ連絡を入れた際に『急ぐ必要は無い』と国王からの伝言を聞かされた。


 国王の温情もあり、勇者一行は城塞都市で長続きする徒歩移動の疲れを落とし、多くの兵士や冒険者たちと勝ち取った平和を喜び合った。


 とはいえ、翌日には王城に出向く身。

 深酒にはならないよう注意しながら、宴を楽しんだ。




 翌日。

 勇者一行は城塞都市を後にし、“空間転移”で王城へと向かう。


 本来であれば直接王城に立ち入るのは不敬になるが、魔族侵攻の終結をまだ国民に知らせることが出来ない上、国民に勇者の姿を見せるわけにはいかない。


 また、三人は古くから王家との付き合いもあり、王城には内々に三人の私室や“空間転移”で登城するための部屋も用意されている。


 その部屋に“空間転移”で到着し、備え付けの念話機から宰相の執務室へと連絡を入れ、迎えを待つ。

 国王の準備が整い次第、案内に従い謁見の間へと移動した。


 謁見の間で待っていたのは国王、宰相、近衛騎士団長。

 近衛騎士や大臣といった、三人の事情を知らない者はここには居ない。


 形式に則り、三人は国王の前に膝をつき頭を垂れる。

 今回はオリビアを先頭に、左右にモニカとサーシャが控えた。


「皆、顔を上げてくれ」

 国王の声に、三人は膝をついたまま顔を上げた。


 三人とも、痛みや苦しみを堪えているような様子はない。オリビアは穏やかな笑みで、モニカは無表情で、サーシャは人懐っこい笑みで国王を見ている。


 国王は三人の無事を改めて確認して目を瞑る。

 深く吐いた息からは、心から三人の壮健に安堵していることが察せられる。


「魔王討伐の任、まことにご苦労であった」

 そして人族に迫る魔族侵攻を防いだ功を労う。


「はい。続けて二度の魔族侵攻、陛下には随分と心労をお掛けしました」

 オリビアは頭を下げながら、国王を気遣う。


 いつもは数十年越しで起こる魔族の侵攻が立て続けに起こった事例は初めてではないが、その際の国中に生じる負担は大きなものになる。


 魔族侵攻が始まれば各地で戦力の派遣や要請、情報の統制、物流の停滞、国民の避難や保障など、発生する様々な問題の対応に追われる。


 魔族侵攻が立て続けに起こるという事は、そういった問題が落ち着き始めたと思った矢先に再燃するという事。


 魔族侵攻の周期的に考えれば、在任中に一度あるかどうかの大規模な対応が二度も起こるのだから、国王もたまったものでは無い。


「いや、其方らのおかげで大きな混乱はなかった。多少、魔物被害で移住を余儀なくされた村があったが、生命に関わる被害はなかったと聞いている」


 国王の目配せに、宰相は頷く。

 国王に伝えられている情報は正しく、また最新であると。


「城塞都市や砦の方も、兵士や冒険者、行商隊に死亡者は出ていません」

 さらに近衛騎士団長も付け加える。


 それらの情報を再確認し、国王は満足気に頷き、三人を見て微笑む。

 少し疲労の色が濃いせいか緩めた目尻の皺は深いが、心底安心したようだ。


「よくやってくれた。

 改めて、其方らの献身に感謝を」


 国王が三人に礼を述べ、頭を下げる。

 それに対して、オリビアが答える。


「私たちも感謝しております。

 私たちが自由に動けるのも、陛下のお力添えあってこそ」


 伝承にある勇者ではない三人が、勇者としての肩書を名乗り活動できるのは、国王がそれを認めているからこそ。


 もし国王による任命が無ければ、三人の行動には様々な制限が掛かってしまう。

 たとえそれが魔王討伐のためだとしても。


「其方らは度重なる魔族の侵攻を退けてくれている。

 力を貸すのも、支えるのも当然のことだ」


 神に力を与えられたとされる勇者ではない三人に、それだけの資格を与えているのは、国王が三人の事情を知っているからに他ならない。


 三人が何らかの事情で三百年以上も生きている事も、そのために魔族との戦いに臨んでいる事も、偽りなく人族を守ろうとしている事も。


「古くからの口伝もある。個人的な恩もある。

 私にできることなら、いくらでも手を尽くそう」


 そう口にする国王の目には、一切の嘘も迷いもない。

 三人の勇者として積み上げた功績とは別に、揺るぎない信頼を寄せている。


「ありがとうございます」

 オリビアの礼に、モニカとサーシャも続く。


 三人と王国の関係は長い。

 三人は魔族侵攻時に戦力となり、王国は三人の身分と自由を保証する。


 国王が即位すると勇者の秘密について知らされ、勇者のいない今の時代における三人の必要性、そして代々受け継がれてきた盟約を知る。


 この盟約は、かつての国王が当時危うい立場にあった三人を守るために結んだ。

 三人が王国に力を貸すのは取引でもあるが、情でもある。


「陛下、そろそろ」

「そうだな」


 宰相の声に、国王は頷く。

 今回の謁見は挨拶が目的ではない。


 国王の許可を得て、宰相が一歩歩み出す。

 そして勇者一行に一礼をして口を開く。


「勇者さま方。

 今回の魔族侵攻、その詳細をお願いいたします」


 魔族侵攻における魔族の動向、戦い方、戦果の報告。

 戦いを終えた勇者の最後の仕事となる。

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