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戦いの後始末

勇者一行側の一元視点に戻ります。

 魔族が立ち去るのを見届けた後、モニカはサーシャの肩に手を置く。

 魔族の背を目で追っていたサーシャはビクッと震えてモニカを見上げた。


 サーシャの目に映るのは心配そうな養母の顔。

 その顔には少し罪悪感も浮かんでいた。


「サーシャ、悪かった」

 口少なく、モニカは謝罪を述べる。


 始めは魔族への意趣返しのつもりだった。

 あわよくば上手く焚きつけ、魔物化の魔法の解除に一役買ってもらおうと。


 信用させるためにサーシャの口からも証言してもらったが、まさかあんな言い合いにまで発展するとは思ってもみなかった。


 途中で割って入ろうとも思ったが、魔族を一層刺激しかねず躊躇した。

 結果、サーシャが泣きそうなほど感情を出したのはモニカの失敗とも言える。


「ううん、私もつい悔しくなって……。

 いつまで経ってもお父さんに追い付けないから……」


 それに対して、サーシャは首を振る。

 サーシャが声を荒げてしまったのは魔族に対する怒りではない。


 目標としている養父の背中に一向に追い付けない自分の不甲斐なさと、それをあの魔族に指摘されたと感じてムキになってしまったからだ。


 魔物化の魔法の解除はサーシャの目標の一歩。

 その一歩を、おそらく一日未満で突き進んだ養父はまさに規格外だ。


「……ルーウェンを目標にするのはいいけど、比べない方がいい。

 加護持ちの上に、存在自体がおかしかったから」


「そうよねぇ。

 魔法だけじゃなくて体術も剣術も使う上に、手癖も女癖も悪いからねぇ」


(…………お父さん、ごめんなさい。反論できない……)

 目標とする養父を酷評する養母たちに内心で反論しようかと試みるが、思い起こせば事実でしかなかったため、静かに諦め、亡き養父に謝る。


 何かと問題を持ってくることが多い養父だったが、その実力は確かなもので特に魔法に関しては、加護を授かっている事も相まって群を抜いて凄まじかった。

 それこそ、魔法に優れた魔族と比較しても遜色がないほどに。


 ――魔族、か……

「あの人、怒ってたね……」


 仮面を受取ったサーシャがポツリと漏らした言葉に、魔族は明確な敵意と殺意を表し、その言葉を拒絶した。


 あれは明らかに“魔族”という言葉に反応していた。

 魔族が魔族と呼ばれる事を拒絶する理由は、サーシャには思いつかなかった。


「魔族。そう呼ばれることは、彼らにとって何かあるかもしれないわね」

 オリビアが兜を外しながら言う。


 種族としての名前が蔑称に当たるとは考えづらい。

 あるいは逆で、彼らの中でも身分が高いものだけが名乗れるのか。


「そのあたりが気になるなら、エステルにでも聞くしかないだろう。

 どのみち会いに行くんだから」


「ん~、もしデリケートな話題だったら、まだ聞くべきじゃないかもしれないわ。

 もう少し仲良くなってからの方が無難ね」


「……まぁ、それはどちらでも良い。私の本命はウィルの方だ」


 素っ気無くエステルとの交流については流すモニカ。

 モニカが魔族の持つ魔物化の魔法の情報を急かさなかった理由はそこにある。


「彼の加護の力?」

「あぁ。魔法の消し去ることが出来るなら、もしかしたら……」


 モニカはサーシャに向き直り、少し目を瞑ってから視線を合わせる。

 サーシャも、モニカが言わんとしている事を理解しているように頷く。


「私はいいよ。それで解除できるなら文句は言わない。

 私の目標はそれだけじゃないから」


 長い時間をかけて魔物化の魔法の解析を続けてきたサーシャの努力が、もしかしたら神の加護によって簡単に片付けられてしまうかもしれない。


 モニカの目的は魔物化の魔法の解除だが、そのために娘の頑張りを無下にすることは出来ない。もしサーシャが拒否するなら、少し時間を設けるつもりだった。


「ありがとう、サーシャ」

「ううん、気にしないで」


 申し訳なさそうにしているモニカの腕を、サーシャはポンポンと軽く叩く。

 遠慮など要らないと、屈託のない笑顔を向ける。


 そんな二人の様子を、オリビアは微笑ましそうな表情を浮かべたり、かと思えば妬ましそうに眉を顰めたりと忙しくなく感情を動かして見ていた。


 目の前で繰り広げられる仲睦まじい様子はオリビアが望んだものではあるが、自分もその輪に入りたいという欲求が無いわけでもないというジレンマに陥る。


「さぁ、私たちもそろそろ帰りましょう」

 結果、真っ当な理由で場を切り上げることを選択する。


「あぁ。でもその前に――」

 モニカにはやっておかないといけないことがある。




 戦いがあった場所から少し戻った脇道の先にある広間の祭壇。

 そこに集められていたロックウルフの骨の山。


 どういう原理か分からないが、ロックウルフの異常行動と無関係とも思えない。

 念のため破壊しておくに越したことは無い。


 そう考えて広間に足を踏み入れると、祭壇は既に破壊され、粉々に砕けたロックウルフの骨が散らばっていた。


 ――あの魔族が片付けていったのか?

 だとすれば律儀なものだと感心する。


 放置しても問題はないだろうが、念のためにモニカが弔い土の魔法で埋葬する。

 利用されたロックウルフの供養と、彼らの異常行動が収まる事を祈った。


 魔族侵攻において、魔族が魔物や魔獣を利用することは少なくない。

 魔族にとって人族の領域に住む彼らは、御し易い存在ではあるのだろう。


 魔族侵攻に関わらず、ロックウルフを含む魔物や魔獣は少なからず人族の領域に生息し、彼らにとっての生活を営んでいる。


 その生活を邪魔され、都合よく利用されたロックウルフもある種の被害者とも考えられる以上、無体な扱いを受けた彼らを弔わずにはいられなかった。


 祈りを終えた勇者一行は祭壇を後にし、洞窟の出口を目指した。

後ほど番外編「たまさか ~追憶~」のエピソードを投稿いたします。

お時間ございましたら、そちらもお願いいたします。

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