表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/126

駆け引き

ケービット側の一元視点となります。

 洞窟の奥から姿を見せた神官と勇者。

 神官の手に掴まれているそれは、紛れもなく魔王。


 腕を掴まれて引き摺られているその様は、完全な敗者。

 体は完全に脱力し、機を窺っている気配すらない。


 対する神官は、衣服がところどころ引き裂かれ、その下の皮膚が見えているが、それ以外に目立った外傷もなく、ほぼ無傷で魔王を制圧したものと取れる。


 勇者が援護に入ったか、あるいは魔王を仕留めたのは勇者か。

 順当な答えが頭に浮かんで、ケービットは否と自分の考えを否定した。


 魔王の倒したのはこの神官だ。

 勇者は何もしていない。


 そう感じたことに、何か理由があったわけではない。

 しかし、直感がそう告げている。


 この神官がまともではない事を知っている。

 戦い方も、その気配も、異質さを隠せてはいない。


 魔王を一人で相手取った行動も、考えてみればおかしい。

 そして、神官が一人で魔王を討ち取ることは異常と言える。


 何食わぬ顔をしている神官が、ケービットには恐ろしいものに見えた。

 自分を打ち倒した戦士と同様に、何か得体の知れないモノなのでは、と。


 引き摺っていた魔王を手放すと、神官はケービットに跨る戦士に歩み寄る。

 戦士もケービットから腰を上げて立ち上がり、神官に近寄った。


「サーシャ、やり過ぎてないか?」

「大丈夫、ちゃんと手加減したよ」


 そう返す戦士の頭を、神官はよしよしと撫でる。

 その様子はまるで母と娘のよう。


「じゃあ、あの仮面が取れるか試して。力づくは無理だった」

「分かった」


 こくりと頷き戦士は魔王のもとへ近付く。

 勇者は戦士に付き添う。


 それを見送った神官は、“魔法阻害束縛”に捕らわれたケービットのもとへ。

「さて、話の続きを聞かせてもらう」


 相変わらず神官はケービットに対して脅威を抱いていない目を向ける。

 それがどこまでも彼を不快にさせる。


 しかし、今のケービットには戦う力がない。

 “魔法阻害束縛”を突破するだけの魔力すら放つことが出来ない。


「魔物化の魔法か……」

 ケービットの言葉に、神官が頷く。


 神官はずっとこの魔法について知りたがっていた。

 魔法を掛けられた身内がいるというのも、あながち嘘ではないのかもしれない。


 なら、魔法の情報を材料にすればこの場を切り抜け、命は繋がる。

 そのための展望を頭の中で描き出す。


 ケービットが知る魔物化の魔法に関する情報は多くない。

 その少ない情報をどう活かすか。


 現状、ケービットはこのままでは終われない。

 たとえ命が繋がったとしても、帰る場所が、立場がない。


 元老院の決定を無視し、半ば強引に動いたケービット。

 彼の所属する派閥の人員、そして若者二人を使い潰してしまった。


 ここでただ生き延びたとしても、元老院の一員としての立場どころか、罪人として処罰される可能性も高い。


 戻るならせめて成果がいる。

 生き延びることと成果を両立させなければならない。


 有用と判断される成果。

 過去の事例から考えれば、それは情報。


 勇者の情報を持ち帰った者は、元老院に迎え入れられて来た。

 勇者が神の御使いではない事、一人である事、不老不死ではない事など。


 得られた情報を基に、これまでの侵攻は計画されてきた。

 情報を持ち帰る事は、土地を取り戻す事の次に大きな成果。


 そして今、ケービットは一つの情報に手が掛かっている。

 元老院が欲しがる、勇者についての最新の情報。


 勇者は不老不死ではない。

 殺すことはできるし、老いることも確認できている。


 過去に得られたこの情報を前提に、元老院は侵攻の周期を調整してきた。

 勇者が老いた頃、あるいは誕生した頃を見計らうことで、優勢を保つために。


 しかしもし、前提が間違っていた、あるいは変わっていたとしたら。

 勇者は少なくとも、老いることがなくなっている、としたら。


 元老院の方針を大きく変える一手になる。

 その情報を確かなものとするため、神官を利用する。


 神官が欲しがる情報を餌に、ケービットも必要な情報を集める。

 劣勢である彼が交渉の余地を生むために、まず言っておくべきこと。


「話しでもいいが、条件がある」

 束縛魔法で大きく体は動かせないが、どうにか上体を起こし座する。


 決して弱気な態度は見せず、あくまで強気を装う。

 従順な敗残者ではないと態度を示す。


 ケービットの態度に、神官は傲慢に振舞うことはせず素直に頷いてみせた。

 その頷きが受容か話しを促すものかは分からないが、ケービットは続ける。


「こちらも聞きたいことがある。それに応じるのなら、話してもいい」

「……分かった。でも先にこちらから聞かせてもらう」


 神官の言葉に、ケービットは素直に首肯する。

 強気な態度は別として、下手な反発は状況を拗らせる危険がある。


 ケービットにとって、確認すべきことはただ一つ。

 勇者が不老であるかどうか。


 それ以外は、余裕があれば確認しておきたいという程度。

 焦る必要はない、この場を脱する策も既に思いついている。


「魔物化の魔法についてだ」

 神官の望みは情報を得て、その魔法を解除すること。


 ケービットが知っている情報は多くない。

 かつての開発者が書き残した資料を読んだだけの知識。


 持っている情報すべてを話すわけにはいかない。

 しかし、話す情報があまりに少なすぎてもいけない。


 ケービットが持つ情報の有用性、正確性を神官に理解させつつ、神官が満足しきらない程度に情報の流出を抑える。


 その匙加減を、ケービットは神官の反応から見定めなければならない。

 神官が満足してしまえば、彼の価値がなくなってしまうのだから。


 ケービットは自身が持つ情報を頭の中ですばやく整理し、少しずつその情報を開示し始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ