魔王再来
王城。
三人の冒険者は再び国王へ謁見していた。
「魔王は、討伐されたのではなかったのか」
短期間で二度目の侵攻に、国王は落胆する。
以前にあった短期間での連続侵攻は、過去を遡れば九百年ほど前の出来事である。
歴史書では、この連続侵攻の期間は三十年近く続いたというのだから、頭を抱えるしかない。
魔族が侵攻してくれば、それに対する防衛や補償などに多額の費用が掛かる。
その費用を賄うための政策を、国を挙げて練らなければならない。とんでもない労力だ。
魔王の討伐自体は、この三人の冒険者の絶大な戦闘能力により事なきを得るだろうが、討伐までの期間で各地におきる被害を無しにはできない。
それだけに、前回の早期魔王討伐は喜ばしい出来事だった。
「前回の魔王城には、魔王は戻っていなかった。もしかすると、前回の魔王が再起したのかもしれない」
神官モニカは淡々と答える。
前回の魔王は完全討伐できていない。三人は魔王城に攻め入ったが、下位の魔物がわずかに巣食っているだけで、ほかの魔族や上位の魔物の姿はなかった。
魔王城に残る魔物を殲滅し、魔王城は壊滅したが、結局王城に攻めてきた魔王の姿を見つけることはできなかった。
前回の侵攻で油断を誘い、今回の侵攻で成功を狙うつもりか。
だとすれば、前回あっさりと討たれたのは演技か。
その事はもちろん国王や宰相にも報告している。その上で、しばらく様子を見、魔王の再起が見られないことから侵攻の終息を打ち出したのは国王である。
魔族侵攻が終われば三人もいつもの日常に戻るものの、前回の侵攻後は取り逃がした魔王が人族領域の何処かに隠れ潜んでいないかと捜索を続けていた。
もしこれが連続侵攻の前触れであれば、国民すべてに対してかなりの負担となる。
前回討ち損ねた魔王が再起しただけであることを、国王は心から願う。
「いずれにせよ、いま一度魔王城へ向かい、今度こそ確実に仕留める」
モニカの宣言に、聖騎士オリビア、軽戦士サーシャが深く頷く。
国王も三人をしっかりと見据え、激励する。
「頼むぞ、モニカ、オリビア、サーシャ」
三人は前回と同様、魔法で転移した。
魔王城。
人族の領域の北側、魔族の領域の南側、人魔を隔てる山脈の、人族の領域側に魔法で作られる魔族の拠点。
魔族の侵攻ルートは三つ。その道中に築かれている。
魔法で作られた魔王城は、その壁や床、装飾に至るまで豊富に魔力を含んだ物になっており、魔族撤退後はその魔王城の解体に周囲の町が賑わい、運び出されたそれらの材料は、そのまま魔道具に加工されたり、魔道具の動力にされたりと活用されている。
前回の魔王城は東側のルートに築かれ、東側の町や村が潤うはずではあった。
しかし魔王再来の情報が国中に伝えられると、魔王城の解体は中断され、予定されていたほどの経済効果が見込めなかった。
三人が転移したのは、前回と同じ東側のルート、魔王城、第一砦、第二砦、その次に構える城塞都市である。
山間の道を高く分厚い城壁で塞ぐように造られた城塞都市は、魔族の侵攻を食い止める最終防衛線でもある。
「状況は?」
市長への面会は速やかに行われ、モニカたちは状況を確認する。
「今のところ、第一砦からも魔族は確認できておりません。今回はこちらではないのかもしれません」
「他の都市からの情報は?」
「今朝の情報では他も同じです。まだどの都市でも魔族侵攻は確認できておりません」
各地では多くの魔物が出現している。
魔族侵攻に関わらず、人族の領域に魔物は出現するが、大抵は山奥や洞窟、森深くなどの人が少ない場所を住処としている。
しかし、魔族の気配にあてられるのか、魔族侵攻が近づくと次第に村や町の近くでの目撃例が増え、頭数も増えてくる。
魔物の目撃例の増加傾向が、魔族侵攻の兆候にもなっている。
魔物が増えれば、城塞都市、そして砦は魔族の侵攻ルートを監視し、発見次第ルートを伝令する役割を担っている。
今のところ、いずれのルートにも魔族は見られていない。まだ魔族の侵攻は準備段階か。
「では、一応前回の魔王城の確認に行ってくる。第一、第二砦への連絡を頼む」
「分かりました」
ここから先は“空間転移”が当てにできない。
魔族の影響か、長距離に作用する魔法の発動、効果が不安定になりやすく、“念話”であれば多少の乱れは問題にならないが、“空間転移”で乱れが起きれば、最悪地面に埋まる場合がある。
魔族の侵攻を少しでも妨害するため、城塞都市から向こう側の道は細く障害物も多いので、馬での移動も難しい。
三人は城塞都市を出、第二砦へと歩みを進める。