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出立の時間

読んでくださる皆様のおかげで、投稿開始から一年を迎えることが出来ました。

遅筆ではございますが、今後ともよろしくお願いいたします。

 町長宅で世話になっている間、何度かオースティンと意見交換をした。

 町や周辺環境のこと、ここからは遠い町の情報などを共有した。


 オースティンが周辺の町に赴く事はあっても、遠方の情報までは入手しにくい。

 どのような暮らしか、商売、特産、技術、その他、この町をより良くするための情報をオースティンは欲した。


 対する三人も、常に活動的に行動しているわけではない。

 魔族侵攻がない時は隠居して、時折お忍びで出かけるくらいだ。


 だから伝えられる情報は少し古いかもしれない。

 それでも無いよりは良い、使えるかどうかはこちらで判断する、とオースティンは了承した。


 それ以外の時間は、勇者としての装備で町に出て住民との交流を図りつつ、新鮮な情報を集めた。

 世情にやや疎いままでは、いつか時代に取り残されてしまう。


 魔族侵攻が始まって以来、それほど一つの町に滞在する時間もなく、ほとんどを町の外で過ごしているなら尚更。


 単に行方を晦ました魔王の捜索、魔物の調査や討伐などを行っているからであるが、過去の経験から、必要以上に人と関わる事に消極的になってしまっているからでもある。


 しかし珍しくも数日滞在することになった町。

 まるで姿を見せないというのも不自然ではある。


 それにいずれエステルをこの町に戻した後、しばらくは様子を見る必要もある。

 この町で繋がりを持っておくに越したことはないだろう。


 いざ町に出てみれば、勇者という人族の守り手と役割に加え、エステルの件もあってか、送られるのは好意的な声や態度ばかり。


 もっとエステルの事を聞きに来られるかと構えてもいたが、それは少なかった。

 気にしていないというよりは、勇者に保護されているので安心という様子。


 長い間世俗との交流を控えていたおかげか、それともこの町だけなのか、勇者に対する印象はかなり正常なものになっている。


 ――一時はかなり酷かった。

 老いることのないモニカたちに向けられる懐疑的な視線や態度、そして行動。


 魔族侵攻時は持ち上げつつも、それが落ち着けば手の平を返す。

 果てには危険だから処刑すべきと扇動する者も現れる始末。


 そういった行為には怒りも呆れもした。

 しかし、理解できないわけでもなかった。


 自分たちと同じ姿をしていながら、明らかに異なる性質を持つ相手がいる。

 それが大きな力を持っているのだから、警戒するのは当然と言える。


 だからモニカたちは交流を避けるようになった。

 無用な不安で世情が荒れる事は好まないし、何より悪意に晒されるのも御免被りたかった。


 勇者は魔族侵攻の前触れとともに現れ、終息と共に去る。

 勇者は人族の個人ではなく神の使いであり、その役割は魔王討伐のみ。


 そうすることで、勇者の機嫌を取ろうとか、危険かもしれないから処刑しようとか、余計な考えを抱かれずに済む。


 それが功を奏したのか、少なくともこの町ではそういった悪意や媚びは感じられない。あるのは純粋な好意だけ。


 おかげで少し世情に疎くなってしまったが、大した問題でもなかった。

 人から向けられるのはやはり悪意より好意の方がいいと、改めて思う。


 好意には好意を返したくなるもの。

 町で世話になっているので、何かできることを探した。


 しかしながら既に整備が行き届き、住民同士の助け合いも積極的に行われている町で、突然やってきた余所者にできることは無い。


 結果としては人当たりの良いオリビアを中心に、住民と挨拶したり会話したりというすべり出しから、露店の準備や荷運びなど、当り障りのない手伝いをした。


 大した事は出来なかったが、それでも積極的に交流を持とうとする心意気を汲み取った住民たちは温かく迎え入れた。


 三人で支え合いながら生きてきた中で、久方ぶりの人の温かさは心に沁みる。

 そうしてゆったりとした気分で過ごした四日間は、三人にとっても十分な休息を得られる時間だった。


 できればもう少し長く滞在したい、と後ろ髪を引かれつつも我慢する。

 必要な物資の調達も済ませ、旅立ちの準備は整えた。




「おはようございます、町長。

 この度は本当にお世話になりました」


 町での騒動から五日後の朝、身支度を整えてオースティンの執務室を訪れた。

 彼は変わらず朝から忙しそうに書類の山に囲まれているが、三人の訪問を快く受け入れた。


「いえいえ、こちらも実に有意義な時間をいただきました。

 町の代表として、御礼申し上げます」


 町での噂は当然オースティンの耳にも届いている。

 住民も彼女たちの活動を喜んでいた。


「勇者さま。ご武運をお祈りいたします。あと、その……」

「分かっています。エステルさんの事もお任せください」


 魔王討伐の任と並べる事に言い淀む町長の意を酌み、オリビアは安心させるように笑みを浮かべる。

 深々と礼をした町長と握手を交わし、三人は町長宅を辞する。


 大通りでは露店や商店、買い物中の住民たちと挨拶を交わし、門では勇者一行の旅立ちを送ろうと衛兵や冒険者が待機していた。

 みな勇者の活躍を祈り、三人もまた町や周辺の安全を託す。


 そうして町を出てから、西の城塞都市へ“空間転移”する。


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