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夜風で火照りを冷ましつつ

 隠れ居酒屋での小さな宴会は、泥酔することなくお開きとなった。

 以前のように誰かの失敗や追悼の意はなく、深酒をする理由もなかった。


 ただ、それでも相当量を飲み、意識はありつつも脈拍がやはり早い状態になった彼らは、夕暮れ時に店を後にし、フレデリックと別れてから少し高台で風に当たっていた。


「気持ちいぃ~」

 町が見渡せる高台の石垣にもたれ掛かり、サーシャが気の緩んだ声を漏らす。


 フレデリックと意気投合したように魔法について議論を始めてから、二人の飲酒速度がみるみる上がった。


 さすがに不味いと感じたモニカとオリビアが抑制し、弱めの酒に切り替え、魔法談議は続いた。


 フレデリックは自身が考案した魔法詠唱の短縮の理論を話した。

 理解を示したのはサーシャのみで、後の二人は疑問を浮かべると早々に談議から退散した。


 老魔法使い曰く、現在広く知れ渡っている多くの魔法の詠唱はその昔、賢者とも呼ばれた魔法使いが生活に便利な魔法を誰でも安全に使えるようにと、暴発の起こらない魔法詠唱を考えた事が基本になっている。


 そこから派生して、あらゆる職種でも使える魔法の詠唱の考案し、冒険者が使う魔法にも展開されていった。


 生活魔法は言及するまでもなく、攻撃魔法、防御魔法、補助魔法、回復魔法を取り揃えられ、独占されることなく広く周知された。


 現存する魔法詠唱は、その賢者によって整えられた安全な魔法詠唱である。

 それを多くの人が覚え、使っている。


 しかしフレデリックにとっては疑問を呈する余地があった。

 なぜ熟練者が、初心者の時と同じ魔法詠唱を使い続けているのか。


 熟達した魔力制御技術を体得して尚、魔法詠唱だけは変わらず同じ。

 確かに威力、射程の上限は高まり、慣れるほどに早口で詠唱することは出来るが、元々それほど長くない詠唱を早口で唱えても、短縮できる時間は更に短い。


 それでも不満に思う魔法使いは少なかった。

 賢者が考案した魔法詠唱は、既に十分過ぎるほど完成されていた。


 しかし、勇者一行の魔法に魅せられたフレデリックは満足できない。

 魔法詠唱を省略できるなら、そこに至る仕組みは必ずあるはずだと。


 ほとんどの魔法使いが今の魔法詠唱に満足し、フレデリックの不満に首を傾げる中、彼だけは直向きに魔法詠唱と向き合い続けた。


 彼は魔法使いであると同時に探究者だった。

 目の前に現れた未知に、挑まずには言われなかった。


 そして魔法詠唱の短縮に成功した頃には、国内の魔法使い五本の指に入ると称され、魔力制御技術に関しては他者の追随を許さぬ高みに立っていた。


 その努力と技術を、サーシャは手放しで称賛した。

 何度目か分からない乾杯をし、一気にジョッキを空けてフレデリックがひっくり返りそうになり、お開きとなった。



「すごいよねぇ~。独力であそこまで行けるなんて……」

 サーシャの言葉には皮肉も揶揄もない。

 ただ素直に、フレデリックが積み重ねてきた努力と研究の成果に感動している。


 ほとんどの魔法使いが魔法を“使う”だけになっている現代で、彼だけは魔法の研究に精を出している。

 現状に満足せず、精進し続けることが出来るのは、紛れもない才能だ。


 フレデリックには伝えていないが、三人は何かしらの技術を高めることで魔法詠唱を省略しているわけではない。

 魔法詠唱の省略が出来るようになり、そこから逆算的に検証したに過ぎない。


 先に魔法詠唱の省略が体得できた理由に心当たりはある。

 三人の過去の連れ、神の加護を授かったルーウェンと言う仲間。


 彼が神より授かった加護は、魔法詠唱と発声の省略。

 実質魔族と同じように、手足を動かすかのような自然さで魔法を使っていた。


 その姿をずっと近くで見てきた。

 ルーウェンの死後、三人は魔法詠唱の省略ができるようになった。


 以降サーシャが何度も検証し、魔法詠唱に関する技術の解明を進めている。

 彼女にとって魔法の研究は、養父ルーウェンとの絆でもある。


 しかしそれは、一般的な研究者のように未知に推論を立てて挑むのではない。

 実証できている結果から、その過程を解析しているに過ぎない。


 決して容易ではないが、成功する事象を何度も確認できる分、未知に挑むよりは比較的容易い。

 だから、フレデリックが魔法技術を褒めてくれるのは少し後ろめたい。


 サーシャからしてみれば、加護を持たずに加護持ちの技術に迫るフレデリックの熱意と努力には頭が下がる思いだ。


「たまに居るよね、すっごい才能持ってる人って」

「そうよねぇ。私からすれば、サーシャも十分凄いのだけど……。

 他だと、王城に勤めてる占星術師も、近年は目を見張る実力を示してるそうよ」


 魔族侵攻をいち早く予言し、モニカたちを王城に招集するように進言したのもその占星術師だという。


 それがなければエステルは魔王として、まだ無防備な王城の制圧に成功していたかもしれない。


 他にも、自然災害、天候不順による食糧不足を予言し、未然に防いだと聞く。

 そう考えればその占星術師も方向性は違えど、フレデリックと同様に高い能力を持っていると言える。


「私たちも負けないように頑張らないとね」

「ふふ、そうね」


 誰もが自分にできることを精一杯に頑張っている。

 そうして努力を重ねた者たちが世界を支え、引っ張っていくのだろう。


 ならば少なくとも魔族との戦いを何度も経験している自分たちは、彼らが引っ張っていく未来を守るために、最前線で戦おう。

 そのための力も与えられているのだから。


 酔いで顔を赤らめながらも真面目に奮起するサーシャを、オリビアは母親のような優しい笑顔でその頭を撫でる。

 その手を目を細めて気持ちよさそうに受ける。


「……あれ? そういえば」

 会話に全然入ってこないモニカを探すように見回す。


「……くぅ……くぅ……」

 植木に背を預け、モニカは舟を漕いでいた。


 サーシャとフレデリックが魔法談議に花を咲かせている間、モニカとオリビアは酒と肴と堪能していた。

 その酔いと心地よい風で、一気に眠気に襲われた。


 普段ではなかなか見せないモニカの無防備な姿に、二人は小さく笑い合う。

 それだけこの町の平和な様子に安心してしまっているのだろう。


「帰ろっか」

「そうね。ほらモニカ、こんな所で寝たら風邪引くわよ」

「んん……」


 寝惚け眼なモニカに肩を貸し、町長宅への帰路につく。

 あと数日は、この平穏の中で身も心も休ませたいと願う。


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