再会と喜び
フレデリックが勇者一行と初めて出会ったのは、およそ四十年前の事。
当時、目撃された危険な魔物一匹に対して二十人を超える大規模なパーティが挑み、返り討ちにあった。
フレデリックはその一人で、駆け付けた勇者一行、モニカたちによってその命を救われた。
当時の事を、彼は今でも鮮明に覚えている。
魔法の詠唱を必要とせず、それでいて緻密な魔力制御を行える技術。
およそ熟練の冒険者どころか、治療を得意とする神官も凌駕する回復魔法。
大規模パーティを壊滅に追いやった魔物の攻撃を難なく防ぐ防御性能。
どれ一つとっても、冒険者の最高位と遜色のない技量。
それに憧れ、目指さずにはいられなくなった。
フレデリックはその次の日から、魔法の研究と研鑽を重ねた。
いまだに追い付くことのできない背中を追い続けた。
魔法の指導をしてもらえないかと、魔族侵攻が終わってから勇者を探した。
しかし、勇者の足取りを追うことは出来ず、再会は叶わなかった。
一説には、勇者は神が遣わした人族の救世主。
役目を終えた勇者はこの地を去ってしまったのかと諦めもした。
そんな時に当時の面影を思わせる三人の姿を見ては、確認せずにはいられない。
本物か、他人の空似か。
「追い求めすぎて遂に幻覚が見えてしまったのかとも思いましたよ」
ハハッと笑いながら、フレデリックは額に手を当てる。
どれほど切望していたのか。
本当に嬉しそうに笑う老人に、モニカたちも気を緩める。
「かれこれ四十年。よもや当時の同じお姿でいらっしゃるとは、夢に思いませんでした」
フレデリックは四十年前の勇者とモニカたちが同一人物であると確信している。
人族の寿命はおよそ八十年。
四十年も経てば、目に見える老化からは逃れ得ない。
だというのに、四十年前からほとんど容姿が変わらない三人をあっさり認める。
その迷いのない表情を浮かべるフレデリックには理性を失っている様子もない。
「……別人だとは思わないのか?」
そんなモニカの問いに、フレデリックはきょとんとした表情をする。
始めは確かに疑った。
自分が正気かどうか確認するのに、壁に何度が額をぶつけた。
それでも消えることのない三人の姿に、現実のものだと確証を得た。
その後は町長宅に入っていくのを見て、出てくるまで一晩を路上で明かした。
翌日、装いを変えて町長宅から出てきても、見間違うことなく察知できた。
あとをつけ、何か本人である確証を得られないかと期待した。
そして、得た。
あの魔法の技術は、勇者さま以外に見たことはない。
フレデリックは口元を綻ばせながらモニカを見やる。
その柔和な笑みはどこまでも満足そうであった。
「何をおっしゃいます。助けていただいたあの日の事を、ワシ……私は何度も夢に見ました。忘れるはずもありませぬ。あれほどの魔法の技術を、一体誰が真似できようものですか」
姿が変わらない筈がない、絶対に他人の空似だと思えるほど時間が経っている。
しかし未だ成し得た者が居ないその技術だけは、別人であるはずがないと告げる。
自分で下したその結論に不安も迷いはない。
――この方々は、あの時の勇者さまに違いない。
あの時勇者に命を救われ、モニカには無茶をした事を叱られ、サーシャには仲間を失ったことを謝られ、オリビアにはその悲しみを慰められた。
あの事があったからこそ自分は今日までやってこられたし、魔法使いとして実力を認められるほどの高みに立てた。
未だ目標を達成できてはいなくとも、今日の自分があるのはこの勇者たちのお蔭であることを忘れた日はない。
だからこそ、いま改めて、そしてこれから何度でも伝えたい。
「命を救っていただき、本当にありがとうございます」
四十年も前から変わることのない姿の自分たちを訝しむこともなく、何の裏も感じさせることのないフレデリックの感謝の言葉に三人は一瞬面食らうものの、こちらも素直に思ったことを伝えようと思わされる。
モニカは頭を下げたままのフレデリックの肩に手を置き、顔を上げさせる。
あまりすることはないが、今なら自然な笑みが浮かべられそうだ。
「こちらこそ、生きていてくれてありがとう」
救った命をしっかりと繋いでくれたことへの感謝を告げる。
冒険者として活動しているなら、危険は常に隣り合わせになる。
一瞬の油断が一生の傷を、あるいは死を招く。
冒険者として生きることを否定したりはしない。
目的がある者、それでしか稼げない者は確かにいる。
だからこそ危険に対する備えを怠らない事、より安全な方法を考え実行する事を、モニカは後進の冒険者たちに伝えている。
無茶をして無事に帰ることが出来るなら、まあ良し。
無茶をせず笑顔に帰ることが出来るなら、なお良し。
帰ることが出来なくなることだけは、避けなければならない。
本人はもちろん、残された者にとっても、良いことは何もないのだから。
あまりちゃんと憶えてはいないが、過去に助けたということであればその話をしているのかもしれない。
彼が今も生きているということは、ちゃんと安全を意識してくれているのだろう。
自分の悔いが誰かの助けになったのなら、それは自分たちにとっての救いでもあり、あの人の死に少しでも多くの意味を与えることが出来るのだから。




