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町への事後説明

 ウィルとの顔合わせは、思いのほか収穫があったと言える。

 しかし同時に精神的な疲労が大きく残った。


 特に対談していたモニカは顕著で、帰り道でとうとう限界に達してしまった。

 彼女が落ち着きを取り戻すのを待ってから、勇者一行は町に戻る。


 大通りは落ち着きを取り戻していたものの、いまだ大勢がその場に残っている。

 それが日常の風景なのか、あるいはエステルの様子を心配しての事か。


 勇者一行が戻ってきたという情報は、門の衛兵からすぐに伝えられた。

 町長オースティンも大通りに残っていたらしく、すぐに合流となった。


「勇者さま。ウィル殿はどうでしたか?」

「エステルちゃんは大丈夫なんでしょうか?」


 町長を始め、事態を確認したがる住民に詰め寄られる。

 いつもならここで仕切るのはモニカだが、その余裕までは戻っていない。


 勇者として認識されているオリビアがモニカをかばう様に前に出る。

「今からご説明いたします」


 町に戻ればこういう事態になることは予想できていたので、話す内容は事前に決めてあった。

 全てを話すわけにはいかないため、今回の騒動を収めるための嘘を混ぜる。


「まずウィルさんの状態ですが、エステルさんと同様に呪いに侵されていました。症状の重さから考えて、エステルさんが掛けられた呪いに巻き込まれたものと見られます」


 一つ。

 あくまで、直接呪いを掛けられたのはエステルである事。


 現状、住民にとってエステルとウィルへの好感度は、エステルの方が高い。

 町長オースティンはともかく、住民とウィルの接点はほとんど無い。


 この状態では、呪いの大本をエステルとしておかなければ、極端な者は「エステルが苦しんだのはウィルのせい」と決めてかかるかもしれない。

 それを防ぐためにも、ウィルは完全に巻き込まれただけとする必要がある。


「おそらくエステルさんの呪いが急に発症したことが原因でしょう、ウィルさんも家の中で倒れていたところを保護しました。

 先ほど私が町から転移したのは、家の中に呪いの痕跡が残されていないか捜索するためです。痕跡が見つかり呪いの正体が分かれば、解呪が早期に行えますので」


「そ、それで……何か見つかったのでしょうか?」

「呪いの手がかりになるようなものは何も」

 悲観的な表情を浮かべるオースティンの問いに、オリビアは首を横に振る。


 周りから落胆するような声が聞こえてくる。

 しかし集まっている住民の中に少し勇むような表情も窺えた。

 それが意味するところに対して、釘を刺すのが二つ目。


「あ、くれぐれも皆さんが捜索しようとはしないでください」

 たとえ善意であったとしても、今は自重して貰わなければならない。


 二人には家を空けるように言ってあるが、具体的な日取りは決めていない。

 もし二人がまだ家を空けていない内から住民の誰かが押しかけようものなら、今の話が無駄になってしまう。


「呪いに侵された二人が長い時間を過ごしていたので、家の周囲も一種の呪いを帯びています。呪いにある程度耐性のある神官のこの子でも、この通り衰弱するくらいの呪いです。厳しいようですが、命の危険もあります」


 しんみりとした様子のモニカは、事情を知らなければ衰弱しているようにも見えてしまう。

 都合がよいのでそのまま嘘に説得力を持たせる材料にする。


 あと、この町の様子ではあまり考えられないが、不届き者の愚行もあり得る。

 家の周囲も危険と言っておけば、火事場泥棒も近づこうとはしない筈だ。


 オリビアの忠告に、先ほど強い決意を秘めた瞳を見せた住民も俯き落胆する。

 現状、住民たちにできることは何もない。いや、何かしてもらっては困る。


 事実として人族に対して害意が無いとは言え、件のうち、一人は魔王。

 もう一人は、人族を容易く死に至らしめる呪いを所持している。


 危険度で言えば、北の山脈に篭っている魔族二人よりも群を抜いている。

 そんな相手に対して、せっかく穏便に事を収められたのだから無駄にできない。


 住民たちが無力感に打ちひしがれる事には後ろめたさを覚えるが、今後を考えると仕方のないことと割り切るしかない。

 とはいえ、エステルの心配、そして彼女がいつ戻ってくるか分からない不安から、目に見えて住民たちの元気がない。


 そのままにすることも気が引ける。

 もとよりこの状況は想定内なので、最後に励ましも忘れない。


「大丈夫ですよ。あの子は必ず元気になってこの町に戻ってきます。

 その時に、皆さんがそんなに気落ちしていたら、あの子が悲しんでしまいます。

 皆さんはどうか、あの子が戻ってくるこの町を、あの子が大切にしていた状態にしててあげてください」


 オリビアの優しい鼓舞に、住民たちは顔を上げる。

 その顔にはまだ僅かに悲しみが残っているが、活力が感じられた。




 オリビアの説明を聞き終えた住民たちは、代わる代わる礼を言って解散する。

 一人、また一人と立ち去っていく。


 とはいえここは大通り。

 エステルの不調という惨事が収まっても、ある程度賑わいのある町の中心。


「場所を移しましょうか」

 そう言って勇者一行を大通りから移動させる町長オースティン。


 大通りを過ぎ、町長宅の方へ移動する。

 幾分、人の往来も少なくなり、説明に奮闘していたオリビアを一息吐く。


「この度は、本当にありがとうございました」

 肩の力を抜いた彼女に、オースティンは改めて礼を言う。


 大通りから移動したのも、張り詰めていた空気から彼女たちを遠ざけるため。

 その気遣いに、オリビアは柔和な笑みで返す。


「勇者さま方のおかげで、あの二人は危機から救われたと思います。

 魔族との戦いでお疲れの中、重ね重ね感謝いたします」

「いえ、お気になさらず。私たちは出来ることをしただけです」


 穏やかな表情を作っていても、刻まれた疲労の色は隠しきれていない。

 それを察したオースティンは一つ提案をする。


「少しの間、この町に滞在されてはいかがでしょう」

 それは三人にとって魅力的な提案でもあった。


 この町は西側の城塞都市の南方に位置しているが、直線で進むことは出来ない。

 それはこの町の北側にある大きな森が原因である。


 大きな森は自然の恵みを周囲の町や村に届ける実りのあるものであると同時に、魔物や魔獣の巣窟にもある。

 しかし、それ以上の危険を含んでいるのがこの森である。


 森の外縁付近には大きな危険はない。

 ウィルフレドとエステルの家も、この外縁より少し町よりにあった。


 しかし、その奥は違う。

 そこは命の終着点となると噂される魔境となる。


 好奇心、冒険心すらも一蹴するほどの危険地帯。

 この国において、その森に潜ることは自殺に等しい行為とされる。


 そのためこの町から、西側の城塞都市に向かう場合、森を迂回する必要があり、数日で到着することは出来ない。

 であればこの町でゆっくりと休息と取り、しっかりと回復してから“空間転移”で森を飛び越える方が合理的と言える。


 オリビアは確認の意を込めて、後ろの二人に顔を向ける。

 同じように疲れた表情のモニカとサーシャは頷いている。


「ありがとうございます。それではお世話になります」

「えぇ。今度こそ、ごゆっくり息抜きしてください」




 そんな彼女たちを、遠目からそっと覗き見る一人の視線。

「……まさか、あの方々は……」

 疲労困憊の彼女たちは、その視線に気付く事はなかった。

~補足~

森の奥は、北の山脈と同様に魔法の発動、効果が乱されます。

空間転移の転移先とする場合も同じように乱されるため、空間転移の事故で森の深奥に入ってしまうことも起こりません。

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