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退けない理由

 エステルの意思は確認できた。

 彼女は人族の敵ではない。


 では、もう一つ確認すべきこと。

 それは――。


「家主と、ウィルと共に生きたい、ということか」

 町長オースティンにも頼まれた、エステルの恩人のこと。


 エステルの全身から血の気が引いた。

 ――どうして、ウィル様のことを……。


 モニカがウィルフレドのことを知っているのは想定外だった。

 勇者たちが彼を知らないからこそ、隠すことに意味がある。


 これではウィルフレドを内々に逃がした意味がない。

 知っているなら、勇者たちが彼を探さない理由がない。


 知られた理由はすぐに思い当たる。

 ――そっか、町の人から。


 エステルは町でウィルフレドのことを話していた。

 恩人であることや、最近では首飾りをくれたことなど。

 そこから情報が漏れた。


 住民に悪気がないことは分かっている。

 勇者がエステルの事を町の人に訊けば、自ずと関係性の高いウィルフレドの情報も出るのは当然のことだった。


 勇者がウィルフレドの存在に確信を持っている以上、誤魔化しはできない。

 できるのは、彼が隠れるための時間を稼ぐこと。


 かなりの高齢のウィルフレドが走ったり、飛び跳ねたりする姿を見た事はない。

 そんな彼が勇者に見つからないところに行くまで、どのくらいの時間を稼げばいい?


 ――見つかったら、きっと酷い事される。

「……ウィル様に、何をする気ですか」


 勇者が、魔王を保護した人物を知っている。

 それだけで、エステルの不安は増大する。


 相手は仮にも、魔王である自分を圧倒してみせた敵。

 あの圧倒的な暴力がウィルフレドに向くと考えただけで、胸の中のざわつきが治まらない。


「安否の確認だ。町長に頼まれている」

 モニカにとって、ウィルが人族か魔族であるかは分からない。

 分からないが、オースティンに頼まれている以上、確認しなければ報告もできない。


「ウィル様は……無事です。ですが、もうかなりのお年です。

 乱暴者のあなたを、合わせるわけにはいきません」

 町長オースティンの頼み、それは理解できる。


 オースティンにとってエステルとウィルフレドは、

 何度も貴重な薬草を納品し、町に大きく貢献した住民候補である。

 その二人の身を案じることに、何の疑問もない。


 しかし、その確認をしようとしているのがモニカだという時点で、

 エステルは安心も信用も出来ない。

 彼女をウィルフレドに合わせることはできない。


 エステルの目に映るのは、モニカの杖。

 あれで頭を殴られたことを思い出す。


「悪いが、お前の言葉を鵜呑みにすることは出来ない」

 エステルの必死の抵抗を、モニカは淡々とした様子で切り捨てる。


「――っ」

 モニカの断言に、エステルは息を飲む。


 期待していたわけではない。

 しかし、取りつく島もない状況に動揺する。


「乱暴者と言ったな。その私が乱暴はしないと言ったら、信用するか?」

「……できません」

 モニカが言おうとしていることを、エステルは察してしまう。


 互いに信用できない相手の言葉を、素直に受け入れることは出来ない。

 それが、敵対する間柄であればなおさら。


「同じだ。一方的に攻めてきたお前の言葉を、私は信用することが出来ない」

 人族と魔族、話し合いが成立しない関係性が長く続いている。


 言葉が通じない以上、行動で証明するしかない。

 モニカは止めていた足を一歩踏み出す。


 これ以上の足止めには付き合わない。

 ウィルの安否、正体は直接確かめる。


 エステルは人族の敵はない。

 それは彼女の町での評判が証明した。


 魔法で操られていない住民が、エステルの行動を認めた。

 エステルの本心は、言葉だけではなく行動で確認した。


 しかしウィルについての事は、言葉でしか聞いていない。

 エステルの言葉だけでは信用できない。


 何より、モニカはウィルの事を疑っている。

 本当に人族なのか、と。


「近づくなって、言いましたよ」

 モニカを睨みつけ、声に怒気を込める。


 そんなエステルの威嚇を、モニカは意に介さない。

 それでは歩みは止められない。


「お前が人族として生きたいと、本心から願っていることは理解した。

 お前があの町を、住民を守りたいと思っていることも、

 町に残っていた魔力から分かっている」


 モニカの声音は穏やかだ。

 かつて戦った敵に対してとは思えない程、落ち着いた声。


 相手に寄り添い、宥めるように言葉を続ける。

 それが、後ろで聞いているサーシャに覚悟を決めさせる。


「だから私は、お前に対して一定の譲歩はしよう。

 無意味にお前やウィルを害しないことを約束する」


 それはモニカなりの誠意である。

 たとえ魔王であったとしても、人族の側に付くのであれば無下にはしない。

 そしてそれは、最終警告でもある。


「だが、それでも私を阻むなら話は別だ」

 ――これ以上、立ち塞がるな。


 優しさが一転する。

 聞く者を震え上がらせる、威圧に満ちた声。


 杖を地面に打ち付ける。

 杖に魔力が込められ、神々しい淡い光を纏う。


 モニカはもう、力づくでエステルを退けるつもりだ。

 長い付き合いの中、サーシャはそれを理解していた。


 こちらにも時間に余裕があるわけではない。

 北の洞窟に潜んでいた魔族がいつ動き出すとも知れない。


 あの魔族が動けば、西側ルートに小さくない被害が出てしまう。

 その状況で、こんな駄々っ子に付き合ってはいられない。


「させない」

 しかし、退けないのはエステルも同じ。

 怒気すら含むモニカに対しても怯えず、奮起する。


「ウィル様に、手は出させない!」

 恩人であり、先生であり、父親のような、とても大切な人。

 絶対に、手を出させない。

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