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町長への事情説明

 勇者一行が町に到着した翌朝。

 町長からモニカへ、教会から取り寄せたローブが届けられた。


 昨日の戦闘で破損し、代わりのマントを羽織っていたが、やはり少しみすぼらしかったようだ。

 ありがたく頂戴し、袖を通す。


 準備を済ませ、客間から応接室へ移動する。

 町長と秘書が待っていた。


 三人の到着に、町長は手を差し伸べてくる。

「改めて、初めまして勇者様。

 この町の町長、オースティンと申します」


「国王陛下より魔王討伐を任命されたオリビアです。

 こちらはモニカとサーシャです」

 オリビアが紹介しながら、差し出された手を握り返す。


 全員が椅子に腰かけると、町長は話を切り出す。

「勇者さま。この度こちらの町に来られた理由を伺っても?

 勇者さまは既に北の砦に向かわれたと聞いていたのですが」


 町長としては、魔族侵攻時における勇者の訪問は心強いものがある。

 勇者滞在中であれば、近隣に魔物が出現したとしても大船に乗った気になれる。


 しかし、勇者は既に魔族侵攻の根元である北の山に入った、という情報が流れている。

 昨日の様子から魔王を討ち取ったという様子ではないにも関わらず、

 北の山から距離のあるこの町に訪問してきた事は、何か良くない事情があるように思えてしまう。


「昨日、私たちは北の山に作られた洞窟の中で、魔族と戦闘になりました」

 オリビアは事情を説明する。


 不用意に戦況を話せば余計な尾ひれが付いて広まる恐れもあるが、

 町の責任者に嘘や誤魔化しも必要ない。

 情報の重要性は、統率者であれば理解しているはずだ。


 昨日の出来事、町への訪問の理由を正しく伝える。

 そして、魔族との戦闘からは離脱したが、勝機は見えている事も。


 人族の希望である勇者が魔族を相手にただ敗走したとあっては不安が募るばかりだが、そこに勝つ戦略があるのであれば、ひとまずは安心することができる。


 少なくとも町長オースティンは、勇者の来訪が偶然のものであり、

 この町に不安の種があるわけではないと分かり、胸を撫で下ろす。


「ところで、この町はどこに位置するのでしょう?」

 “空間転移”したため、正確な場所が分からない。


「ここは王都の西方、西の砦の南方にある、ニウェーストの町です」

 町長が教えてくれる。

 横から秘書が地図を出して場所を示してくれた。


「分かりました。ありがとうございます」

 場所も確認できた。

 “空間転移”で城塞都市まで戻ることが出来そうだ。


「ところで町長」

 情報の共有が出来たところで、今度はモニカが話を切り出す。


「慌てず、不安に思わず聞いていただきたいのですが、

 この町から闇の魔力を感じます。何か心当たりがありますか?」

 それは昨日サーシャが感じ取った“綺麗な闇の魔力”について。


「闇の魔力……というと、魔物でしょうか」

 闇の魔力と聞けば、一般的に魔族や魔物が頭に浮かぶ。

 しかし、オースティンの頭に浮かんだのは、もう少し具体的な事。


「一昨日になりますが、近隣の村からの避難民を受け入れました。

 一緒に輸送されてきた荷物の中に、魔物の卵が混入していました」


 先日起きた魔物騒動。

 幸いにも町を拠点に活動していた冒険者が早期に気付き、被害無く終息した。


「なるほど。卵から闇の魔力に気付けるとは、かなり腕の立つ冒険者ですね」

「ええ。国内でも五本の指に入ると言われている魔法使いの冒険者です」


 しかし、モニカの疑問はそれで解消されない。

 只の闇の魔力であったなら解消できたが、サーシャが感じ取ったのは“綺麗”な闇の魔力。


 魔物の魔力を、サーシャが綺麗だと感じたとは思えない。

 サーシャもしっくりこない様子。


「ほかに心当たりはありますか?」

「他は、ふむ……思い当たるものはないですね」

 記憶を辿っても、他に町の中で闇の魔力が発生するような原因に心当たりはない。


「もしかして、その時の卵がいくつか残っていて、孵化した魔物が町の中に潜んでいる、という事はあるでしょうか?」

 対応した冒険者が再調査して、怪しい気配がないことを確認したはず、と付け足す。


 モニカの中で、すでに“綺麗な闇の魔力”と魔物は別物と割り切っているが、

 それを知らない町長はやはり、魔物騒動の事しか頭には浮かんでこない。


 納得できないモニカの表情に、オースティンも少し不安になる。

 考え出すと口数が減り、険しい表情をつくる彼女の服を、サーシャが引っ張る。

 不安そうな町長の表情に気付き、モニカが提案する。


「差し支えなければ、一度町全体に聖なる結界を展開してもよろしいでしょうか」

 “神聖領域”と魔法名を言っても伝わりにくいので、少し言い換える。


「よ、宜しいのですか。ぜひともお願いしたい」

 魔法に詳しくない町長にも伝わった。


 聖なる結界。

 それも、勇者一行の神官が使う魔法。


 それをわざわざ提案してくれたのだから、町長にとっても願ってもない。

 神官であるモニカが“聖なる”と口にするのであれば、

 それが魔物に対して効果が見込める魔法である事が予想できる。


 もし魔物が潜んでいたとしても、きっと大丈夫だろう。

 不安が消え、安心感が込み上げてくる。


「分かりました。では――“神聖領域サンクチュアリ”」


 町全体を覆うほどの広範囲の“神聖領域”。

 かなりの魔力を使い、そのうえで効果は少し薄くなる。


 それでも、町長が心配するような孵化したばかりの魔物であれば致死するくらいの効果は見込める。

 “綺麗な闇の魔力”とは関係ないかもしれないが、町長の不安の拭うためなら、発動をためらう必要はない。


 モニカを中心に広がっていく“神聖領域”。

 それはどんどん広がり、町長宅を、町の大通りを、衛兵の詰め所を、やがて町全体を包み込んだ。

 その“神聖領域”は内側にいる“魔”に属するものに対して効果を発揮した。


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