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魔王の襲撃

 謁見の間を爆発と炎が飲み込む。


 床を抉り、壁に穴を開け、天井を貫く。謁見の間はあっという間に壊滅した。

 崩れる壁や柱は、3人の冒険者はもちろん、国王や筆頭大臣、近衛騎士団長を飲み込んだ。


『ふはははははははは』

 火の粉と粉塵が立ち込める中、不気味な笑い声が響いた。

 謁見の間に響くその声は、城そのものから聞こえるように大きい。


 やがて、謁見の間の上方に黒雲が現れ、凶悪な髑髏の面を着け、鋭利なフォルムの鎧に、大きな外套を靡かせた不気味な存在が現れた。


『私を倒そうとする者がそろそろ現れるだろうと思っていたが、こうも容易く一網打尽に出来るとは、実に愉快』

 それは魔王であった。

 魔王自らが王城に現れ、魔王を討たんと立ち上がった冒険者を始末しようと画策した。


 繰り返される人族と魔族の戦い。

 人族の世界に魔族との戦いの伝承があるように、魔族の世界にも人族との戦いの伝承がある。


 人族は魔族の世界には攻め入らないが、人族の世界に攻め入った魔王は、勇者と呼ばれる光の加護を受けた人族に敗れてしまう。

 繰り返される敗戦の伝承だ。

 伝承ではいつも、成長した勇者により、魔王城で魔王は討ち取られている。


 しかし、なぜ魔王城にいるのか。なぜ、魔王城に座して勇者を迎えるのか。

 なぜ、勇者が成長するのを待っているのか。


 人族の領域まで攻め入っておきながら、なぜその先にはどんどん攻めて行かないのか。

 なぜ勇者が成長するまで、ただ待つように構えているのか。


 そう考えた魔王は、先に勇者を討つことを考えついた。

 魔王の装束に身を包み、漲る魔力と共に閃いた。


 まだ成長途中の勇者を先に始末する。

 続いて現れる魔王討伐の志願者も順に始末していく。


 魔王になる前なら、とても思いつかなかったような策だ。

 参謀が何か言っていたが、聞く耳は持たなかった。


 なぜなら魔王なのだから。

 それだけの力はあるのだから。


 阻む者は誰も居ない。

 居たとしたら排除するまで。


 そして今、勇者は排除した。

 魔王の魔法の前に、勇者は消えた。


『これで、人族の領域は我々のモノになる』

 崩れた壁から、廊下に待機していた近衛騎士たちが雪崩れ込んでくる。

 謁見の間の惨状に、誰もが戦慄した。


 絢爛な装飾も、王座も、何もかもが見る影もない。

 そして何より、上空に浮かぶ魔王の姿が、あまりにも禍々しい。


 すでに引退直前でもある年齢の近衛騎士団長だが、その実、いまだ現役の兵士を軽々と打ち負かしてしまうほどの豪傑。

 その近衛騎士団長に日々の訓練を課され、鍛え抜かれた近衛騎士。並の魔物程度であれば被害なく討伐できるだけの腕前を備えている。


 しかし、目の前にいる魔王を前にして、近衛騎士たちは悟った。

 自分たちは、いまだ未熟だと。

 自分たちが束になって掛かっても、塵となるだけだと。


『さて、邪魔者も始末しようか』

 魔王の手が近衛騎士たちに向けられる。

 その手に黒く揺らめくのは、先ほどの黒い炎だ。


 “闇の炎撃(ダークブレイズ)

 謁見の間を壊滅させた黒い炎が、戦意喪失の近衛騎士たちに襲い掛かる。


 成す術はない。

 近衛騎士たちの装備ではこの魔法は防げない。防ぐ魔法の心得もない。


 直撃すれば命はない。直撃を免れても、衝撃により無事では済まない。

 近衛騎士たちは死を悟った。


「“魔法防御壁マジック・シールド”」


 しかし、その容易く命を奪う黒い炎は、柔らかな声と共に放たれた幾何学模様の壁によって掻き消された。


 近衛騎士たちには“闇の炎撃”の衝撃一つ、届いてはいない。

 代わりに、“闇の炎撃”の衝撃は、壊滅してしまった謁見の間に立ち込める粉塵を吹き飛ばした。


 そこには、大きな盾を構えた聖騎士オリビアと、神官モニカ、軽戦士サーシャ、そして国王、筆頭大臣、近衛騎士団長が無傷でいた。

 崩れた壁や柱は、彼らを避けるように崩れている。


『な、なにぃ……』

 魔王に衝撃が走る。

『バカなッ、勇者が、もうこれだけの力をつけているのかッ!?』


 存在だけで近衛騎士たちの戦意を喪失させるのほどの魔王。

 その魔王の闇の力は、並大抵の防御魔法では防ぎ切れない。対抗できるのは、勇者の持つ光の加護だけと言われている。

 その光の加護が、すでに魔王の闇の力を容易に防ぎ切るほどに高まっているのか。


 しかし、魔王は知らない。

 この場には、光の加護を持つ勇者はいないことを。


 そして、魔王は知らなかった。

 なぜ歴代の魔王が、人族の領域に攻め行った後も更なる侵攻を続けないのか。


 魔王や魔族が力の糧とする闇の魔力は、人族の領域には十分に浸透していない。

 そのため侵攻直後では、魔王は十分な力を発揮できない。


 魔王が魔王城に座し、人族の領域に魔物が氾濫することで、人族の間に不安や恐怖が広がる。

 その不安や恐怖が、闇の魔力のもとになる。


 しかし、魔王はそれを怠った。

 人族の間に不安や恐怖が広がるどころか、まだ魔族侵攻の噂が流布するよりも前に、単騎突撃してしまった。


 参謀は止めようとした。今の状態での戦いは無謀だと。

 しかし、参謀が用意した魔王装束を着た魔王は既に気持ちを昂らせており、制止も聞かずに飛び出した。


 その結果、魔王の力は王城に損害を与えることが出来ても、勇者たちを負傷させることもできなかった。


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