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町の違和感

 町長宅にたどり着くと、町長の秘書が外で出迎えてくれた。

「勇者さま、ようこそお越しくださいました」

 丁寧なお辞儀で迎えられ、家の中へ招かれる。


 応接室に通されると、念話機の準備がされていた。

「こちらをお使いください」

「ありがとうございます」


 念話機の使用には魔力が必要となる。

 念話機横に動力になる魔結晶が添えてあるが、自前の魔力で起動する。


「それでは私は主人を呼んで参ります」

 念話機の起動を見届け、秘書は町長を呼びに応接室を退室する。


 西の砦へ連絡すると、たいそう驚かれた。

 そういえばこの町がどこに位置するのか確認していなかったことに気付く。


 後で現在地の確認をするとして、取り急ぎ洞窟内で起きたことの報告をする。

「洞窟の奥で魔族が戦闘になりました。現在は一時退避しています。

 すぐに戻る予定ですが、砦と城塞都市についてお願いがあります」


 砦への連絡は主に警戒の依頼になる。

 砦の先の調査は切り上げ、砦の防衛に専念すること。

 他の城塞都市にも連絡し、西側の侵攻ルートの防衛に戦力を移動すること。

 ただし、他の侵攻ルートにおいても最低限の人員は確保しておくこと。

 魔族が儀式めいたことを行っており、突発的な事象に注意すること。


 勇者と相対したことで、洞窟内に潜んでいたあの魔族が攻勢に出るかもしれない。

 その場合、西側の防衛を固めておかないと、突破されると後方の町に被害が出る。


 現状、最後まであの祭壇の男を戦力としようとしなかったことから、

 魔族にとってはまだ祭壇の男はまだ戦いに使えない、あるいは本来戦闘要員ではないのかもしれない。

 ならば、あの魔族が本格的に攻めてくる事はないとも考えられる。


 考え始めればキリがない。

 魔族が何を考えて行動してくるのか分かるほど、魔族を理解できていない。


 とにかく西側のルートの警戒を強め、不用意に前に出ない事、

 そして危険を感じたら砦を捨てて退く事を伝える。

 城塞都市の城壁は砦の比ではなく、魔族でもそう簡単には突破できないはずだ。


 オリビアが連絡を入れている間、モニカとサーシャは椅子に並んで座り待っていたが、サーシャが意を決したような表情でモニカの服を引っ張る。

 すっと体を寄せるモニカに、サーシャは耳打ちする。


「この町、ちょっと変」

 先ほどまでは露店に興味を示していたと思っていたが、どうやら違うようだ。

 モニカに少し気を引き締める。


「何が気になる?」

「闇の魔力があるんだけど、でも……なんか、すごく綺麗なの」

「綺麗な、闇の魔力?」


 闇の魔力は、一般的な印象はよくない。

 闇の魔力といえば、黒く暗い不安を誘う負の印象を抱かせる。

 真っ先に魔族や魔物を思わせるほどに、“綺麗”とは程遠いものだ。


 そんな固定観念を覆す情報は、モニカもすぐには呑み込めない。

 しかし、サーシャの魔法探知の精度は高く、その眼が間違いないと言っている。


 実際には、闇の魔力自体が悪であることはない。

 魔力の属性は生まれ持った素質であり、使い方次第であることも理解している。

 数は少ないが、人族にも、隣国のエルフ族やドワーフ族、獣人族にも、闇の魔力を持って生まれる者はいる。


「明日にでも町長に確認してみよう。心当たりがないようなら、念のため“神聖領域”でも張ってみよう」

 もし魔族や魔物が紛れ込んでいたなら、それで尻尾が掴めるはずだ。


 サーシャの表情に不安はない。

 少なくともこの“綺麗な闇の魔力”には危険を感じていない。

 今から調査する緊急性が無いのであれば、夜遅くに応対してくれた町長に不安を与える必要はない。


 応接室の扉が開き、先ほどの秘書を伴って町長が入室する。

 オリビアが念話中であることを確認し、モニカとサーシャに軽くお辞儀だけ済ませる。

 二人も椅子に座ったまま、軽く頭を下げる。


 町長は入口に立ったまま、オリビアの念話が終わるのを待つ。

 連絡を急かさないための気遣いだろうか。


 オリビアは念話を終え、町長を確認する。

「念話機、ありがとうございました」


 いえいえ、と町長はモニカたちの対面の椅子に座ろうと歩みを進めた。

 しかし立ち止まり、三人の姿を見て少し思案する。


「勇者さま方、大変お疲れのようですので、本日はどうぞお休みください。

 必要でしたら食事や湯浴みの手配も致しますので」

 椅子には座らず、勇者を労わる町長。


 三人にとっては願ってもない申し出だ。

 何しろ洞窟に潜っている間、ろくな食事も休息も取れていない。


 ボロボロの三人を見て、町長が気を使ってくれたのだろう。

 今から挨拶や話をするより、三人にはまず休息が必要だと。


「お気遣いありがとうございます。ありがたく頂戴しますわ」

 オリビアが笑顔で返す。

 町長との挨拶は明日また改めてと相成って、その日は解散となった。


 用意された客間は、三人が余裕をもって過ごせる大きさがある。

 先に用意してもらった湯で湯浴みをしてから食事を用意してもらった。

 余計な気を遣わせないためか、食事も客間に用意してくれた。


 気遣いのできる町長だ、と町の社会道徳の高さにも合点がいった。

 良き領主に良い町。

 きっと住民も健やかで活気があるだろう。


 数日ぶりのまともな食事と寝床に、三人はゆっくりと気を休めることができた。

 別々のベッドが用意されていたにもかかわらず、夜中の間にサーシャがモニカのベッドに潜り込み、

 なぜ自分のところじゃないのかと、翌朝オリビアが不機嫌になった。

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