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勇者一行、町に着く

 勇者一行が“空間転移”した先は、幸いにして平地の上であった。

 魔力消費が激しいオリビアは転移するなり、膝から崩れ落ちるように座り込む。


「お疲れ様」

「オリビア、ありがとう」

 労いの言葉に、オリビアは疲れた笑顔で応じる。


 周囲を見渡す。

 魔法行使に乱れが生じる北の山脈から転移したせいで、転移先の位置はまるで指定できていない。


 せめて現在地だけでも把握しておきたい。

 そんな心積もりであったが、周囲は暗く、遠くの景色はまるで見えない。


「もう夜ね。時間の感覚が全然ないわ」

 陽も落ちた今、景色から場所を把握することも出来ない。

 洞窟に潜っていた時間も相まって、三人には時間の感覚すら無くなっていた。


 仕方がないと嘆息するモニカ。

 今は疲れているオリビアを少しだけ休ませる。


「サーシャ、解析はどうだった?」

 移動はせず、現状の分析に移る。


 戦闘の間、サーシャは魔族と祭壇の男の解析を続けた。

 魔力の強さ、魔法の使い方、戦い方など、次の戦いに備えて。


「もうちょっと、あと何回か見れば。でも祭壇にいた方は全然……」

「よし。先にあの魔族の方を叩く。オリビア、休憩は済んだか?」

 分析は一瞬で終わる。

 オリビアが息を整える時間もない。


「ちょっと、ひどくない? 全然経ってないわよ……」

 長い付き合いでそれが冗談だと分かっていても、時々怒りが込み上げてくる。


「ほら」

 差し出される強壮薬。

 ――早く動け、と?


 不満げに強壮薬を受け取り、一気に呷る。

 すぐに疲れが吹き飛ぶような即効性はないが、体の芯は温まってくる。


 空になった容器をモニカに投げつけ、オリビアは重い腰を上げる。

「言っとくけど、“空間転移”は無理よ」

 長距離の転移で、オリビアの魔力は底を尽きた。

 再度“空間転移”するには十分な休息がいる。


 それはモニカも分かっている。

 黙って頷くと、視線を横に向ける。

「あの町に向かおう」


 視線の先には一つの町が明かりを灯している。

 決して大きい町ではないが、旅人を受け入れられる宿はあるはずだ。


「うぅ……」

 見えてはいても、疲労困憊のオリビアにとってはつらい距離がある。

 ましてや見えている町は、緩やかな上り坂の先であった。


「オリビア、盾と剣もつよ。モニカ、私まだ“空間転移”できるよ」

 オリビアを気遣い、サーシャがくるくると動く。


 長距離での“空間転移”はオリビアの専売特許であるが、短距離であればサーシャも“空間転移”を使うことが出来る。

 あの町の近くぐらいなら二度三度繰り返せば辿り着ける。


「サーシャ~、ありがとう」

 モニカの非情さの後のサーシャの厚意は、オリビアの荒んだ心を癒してくれる。

 ぎゅっと一度抱きしめると、厚意に甘えて盾と剣を預ける。


 しかし、転移の前に一つ。

「モニカは、何か羽織った方がいいね」


 サーシャの視界に映るモニカは、魔法を使う魔族を相手に接近戦で果敢に戦った勇姿ではなく、

 魔族の魔法に上半身を焼かれ、体は“治癒”したものの装備が消失している半裸の姿である。


 モニカ自身があまりに堂々としているため、戦闘の間は何も言わなかったものの、町に向かうにはあまりにもはしたない。

「確かに……」

 言われて気付く。

 ローブ程大きなものではないが、腰丈のマントを羽織る。



 二度の“空間転移”を繰り返し、町の入口近くに辿り着いた。

 門はすぐ近く、ここからは歩く。


「魔物の襲撃でもあったのかな?」

 町の入口の周辺が少し荒れている。


 魔族侵攻で凶暴化した魔物が町や村を襲うことはある。

 それを防衛するために兵士や冒険者が町の外で食い止め、戦ったのだろう。


 既に日が暮れている以上、門扉は閉じている。

 “空間転移”を使えば、門扉の開閉に関係なく町に入ることは出来るが、それは最終手段。


 門の近くに格子の嵌った小窓がある。

 内側に衛兵が控えているはずだ。


「遅くにごめんなさい。町に入れてもらえないかしら」

 オリビアが小窓に向かって声を掛ける。


 予想通り、内側にいた衛兵が応じてくれた。

「身分証はありますか?」


 当然、身分を示すものが無ければ、安易に町に入れることは出来ない。

 ましてこんな夜遅くに町に辿り着くのは、何か厄介事に巻き込まれている可能性がある。

 それらを町にいれないことが、衛兵の仕事でもある。


 この町の住民、国や貴族の遣い、あるいは冒険者。

 夜遅くに町に入るに足る身分であることを確認しなければならない。


 オリビアは国王に発行してもらっている身分証を提示する。

 それは国が正式に魔王討伐を任せている、勇者の証である。


 それを確認した衛兵は、小窓で相手に見えない事も忘れて姿勢を正す。

「こ、これは勇者さま。しょ、少々お待ちください」

「ありがとう」


 勇者は、国民にとっては英雄であり、兵士や冒険者にとっては憧れでもある。

 時代が変わり、勇者が代替わりしていても、英雄譚で語られる勇者の活躍は広く知られている。

 同一でないにしろ、語り継がれる英雄と同じ地位にある者を、衛兵としては敬わずにはいられない。


 すぐに他の衛兵にも連絡し、門扉の開放を進める。

 門の開放の間、ならず者や魔物が近づいてこないか、勇者一行は警戒に勤める。

 特例として門を開けてもらっておきながら、そのようなものを侵入させてしまうわけにはいかない。


 町の中に入れてもらい、門扉が閉じるのを確認してから、防壁の内側に併設された衛兵の詰め所に誘導される。

 特例と言えども、手続きは必要だ。

 オリビアが代表して、名前や職業、訪問の目的などを台帳に記す。


「オリビア、砦に連絡を」

「念話機はあるかしら? 西の砦に連絡したのだけど」

 念話機は“念話”の魔法が込められた魔道具で、遠方との連絡に使われている。


 小さな村でも連絡用に一つは確保されている。

 それなりの大きさの町であれば、門から町役場への連絡用としても配備されていることがある。


「すみません。砦への連絡でしたら町長宅か町役場の念話機しか出来ません。

 今の時間、町役場は閉まっていますので、すぐに町長へ連絡いたします」


 念話機の出力の違いで、詰め所にある念話機では遠方の砦に連絡を入れることができない。

 受信することができても、送信することは出来ない。


 一人の衛兵が詰め所を飛び出していく。

 すでに遅い時間なので、取り次いでもらえるかどうか。


 出来れば急ぎで連絡を入れたいが、町の代表に礼を失するわけにはいかない。

 強引に押し掛けることはできない。


 とはいえ、それは町の代表側も同じようで。

 人族の希望、英雄たる勇者一行の訪問を、夜遅いという理由で拒むのは体裁が悪い。


「どうぞ。ご案内します」

 町長宅への訪問が許可された。


 詰め所から町長宅までの道すがら、町の様子を確認する。

 露店などは店じまいしているが、大通りには昼間の賑わいの跡が見える。

 道端にゴミが捨てられている様子もない、良い町のようだ。


 食べ歩きが好きなサーシャがキョロキョロとしている様子に、戦いを終え、一時の休息が訪れたことで少し気の抜けたモニカも内心で同意する。


 しかし、サーシャがしきりに辺りを見回している原因は露店ではなかった。

 ――なにこれ。闇の魔力?

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