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勇者一行、最奥に辿り着く

 勇者一行が洞窟に潜ってから、早三日が経過した。

 しかし、外の様子のわからない三人には、それを知る由はない。


 進みながら、時折遭遇するロックウルフとの戦闘は、すでに両手でも数えきれない。

 三人の通ってきた道のりには、壁に灯した魔法の明かりと、ロックウルフの亡骸が転がされていた。


 ロックイーターが長い時間をかけて食い進めたであろう穴は複雑に交差し、目印の明かりが無ければ遭難は免れないほどの迷宮となっている。

 サーシャの探知魔法も、迷路のような洞窟の中では形無しであった。


 それでも虱潰しに洞窟内を探索し、少しずつサーシャの感じる“危険”へと近づいている。

 それは次第に引き攣りを増していくサーシャの表情筋と、他の二人でも感じる威圧感が証明していた。


 疲れも緊張もピークを過ぎ、食糧も底が見え始めた頃、ようやく三人は洞窟の最奥に辿りつく。

 入り組んだ洞窟の中で、どこが最奥であるかなど決めようもないが、三人が到着した場所は間違いなく最奥の一つと言える場所だった。


 正確には、その最奥と呼べる場所の手前で足を止めた。

 その場所の異質な雰囲気に、二の足を踏んでいる。


 これまでの狭い通路とは比べ物にならないくらいの広い空間。

 小さな舞踏会が催せそうな広間には不気味な暗色の光が灯されていた。


 しかし、華やかな装飾などはない。

 凝った意匠の柱も、磨かれたタイルも、煌びやかなシャンデリアも無い。


 広い空間の中にあるのはただ一つ。

 不気味な祭壇だけだった。


 広間の奥の壁際に組まれた石造りの台座。

 その上に並べられた無数の頭蓋骨は、形状からロックウルフの物。

 台座の脇に並べられた燭台の上で、暗色の火が揺らいでいた。


「どう見る?」

「どうって……何かの儀式……かしら」


 三人は広間を見渡せる通路で足を止め、広間の中を観察している。

 この先、一歩でも広間に踏み入れば恐ろしいことが起きる、そんな予感がある。


 その原因は不気味な様相の祭壇ではなく、その前に居る。

 祭壇の前に膝立ちで鎖に繋がれた男。


 祭壇に祈りを捧げているというよりは、祭壇に捧げられている様子だ。

 まるで生贄のように。


 王城に襲撃してきた魔王ではない。

 髑髏の面が割れた時に見えた前回の魔王の素顔は、紛れもない少女のものだった。


 共通点はただ一つ。

 その顔に張り付く髑髏の面。


 俯いている男の顔に張り付く仮面が、前回の魔王と同一の物かは定かではない。

 しかし、この場の空気が、あの仮面は同じ系統の物であり、あの男が魔王であると感じさせる。


 あれが魔王の証とでもいうのだろうか。

 あんな、身に着けた者を狂わせるような仮面が。


 前回の魔王もそうだった。

 過去の魔王がするはずのない、闇の力が満ちる前の先制攻撃。


 魔族の力の根源となる闇の力は人族の領域には少なく、魔族はその本来の力を十分に発揮できない。

 魔王が北の山中で拠点を置き、座しているのはそのためだ。


 魔族侵攻により活発化した魔物が人族の領域を荒らし、同時に闇の力を充満させる。

 そしてようやく魔王や魔族の戦力が整う。


 しかし前回の魔王はそれを軽んじた。

 おかげで、何の準備がなくとも撃退できた。


 恐らく、あの髑髏の面に仕組まれた魔法により、まともな思考が出来ていなかったのだろう。

 そういう魔法が、文字でびっしりと刻み込まれていた。


 今回も同じ仮面であれば、前回のような特攻をしないように鎖で繋いでいるのだろうか。

 そうであるならば、魔王とはいったい、どういう存在なのか。


 理性を狂わせるような仮面を着けられ、勝手な行動が出来ないように拘束される。

 それが本当に、魔の“王”と称される者の扱いなのか。


 前回の魔王が敗れて一年と少し。

 その間に新たな魔王が誕生し、こうして繋がれている。

 これではまるで消耗品のようだ。


 しかし、遠目からでも感じる力強さは間違いなく今までの魔王と遜色のないものであった。

 そうでなければ、こんなところで二の足を踏んだりはしない。


 無策で、真正面から挑むにはあまりに危険な相手。

 頼みの綱は――。


「サーシャ、解析できそうか」

 モニカはサーシャに問いかける。


 過去の経験上、魔王や魔族の戦力は魔法に依存する傾向にある。

 そのため、三人の中で最も魔法に長けたサーシャの力が頼みの綱になる。


 そのサーシャが首を横に振った。

「難しい。やっぱり洗脳なのかな。魔力がグチャグチャってなってるよ」


 サーシャの感じる魔王の状態は、他の二人にはうまく感じ取ることが出来ない。

 しかし、彼女が“解析”することが出来ない理由は察しが付く。


「あの仮面か」

 モニカは忌々しげに表情を歪め、髑髏の面を睨みつける。


 魔法の力は、個人が持つ魔力によって行使される。

 そして魔法の使用は、その魔力をどのように扱うかが重要になる。


 そのため魔法の使用に長けた者は、魔力の調整にも長けている。

 逆に、魔力の調整が出来なければ、魔法は安定させることが出来ない。


 魔力の調整自体は使用者の技術に依るところが大きいが、体調や状態にも依る。

 技術が高くとも落ち着くことが出来ない状態であれば、魔法は扱えない。

 ましてあの仮面を身に着け理性を失った状態であれば、魔力の状態を穏やかに保つことが出来るはずもない。


 魔法を主力とする魔族がそんなものを使うこと、そして同族を洗脳するような真似をすることには、心穏やかではいられない。

 モニカの苛立ちを治めるように、オリビアはそっとモニカの肩に手をやり、サーシャは手を握った。


 ゆっくりと深呼吸を繰り返し、深く溜息を吐く。

「すまない」


 落ち着きを取り戻したモニカに安堵したその瞬間、サーシャの顔に緊張が走る。

「後ろっ、魔法!」

 その瞬間、もと来た洞窟の通路の奥から、火の魔法が襲い来る。


 それは “火の槍(ファイアランス)”。

 火の魔法を槍の形状にして撃ち出す魔法。

 敵意の込められた魔法が、勇者一行に襲い掛かる。


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