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勇者一行、洞窟に潜る

 勇者一行が北の山脈で見つけた洞窟の中は、予想以上に広い通路が続いていた。

 ――これなら戦闘に支障はない。


 洞窟を進みながら、要所にはオリビアが光の魔法で明かりを灯していく。

 照明以外にも、奇襲対策と遭難防止対策である。


 いくつかの分かれ道、そして脇道を確認しながら、慎重に進む。

 すでに数頭のロックウルフとの戦闘を終え、彼らが暗闇の中でも的確に襲ってくることを理解した。


 先頭のオリビアは、まだ暗い洞窟の先に盾を構えながら、少し先に向かって魔法で明かりを灯す。

 後尾のモニカは、後方を警戒しながら、脇道の見落としがないか確認する。

 間のサーシャは、前方と後方を魔法で索敵しながら、より嫌な気配のする方向を探る。


 通路は緩やかな上り坂、下り坂を繰り返しながら、全体的にゆっくりと下がっていく道が続く。

 どこまで下るのか、現時点では分からないものの、調査にはかなりの時間を要すると予感する。


「入り組んでいるな。サーシャ、方向は?」

「……なんか、下のほう……かな?」

 頼みの綱はサーシャの探知魔法となるが、入り組んだ洞窟の道順が分かるようなものではなく、漠然とした感覚的なものに近い。


 それでも、その感覚にはこれまで何度も助けられてきた。

 今更疑うことはない。

 サーシャが下のほうと言うのであれば、この洞窟は下へ続いているのだ。


「進むしかないか」

 この洞窟から嫌な気配が漏れているという事は間違いない。

 そして、どれだけ入り組んでいようと、いずれは深奥にたどり着くも間違いない。


 しかし、終わりがあると分かっていても、そこまでの道のりが未知数であることは負担になる。

 常に危険が隣り合わせとなればなおさらである。

 先の見えない陰鬱さを噛みしめながら、三人は洞窟を進む。




 暗い洞窟の中を進む中、サーシャが壁に手を触れながら呟く。

「この穴って、ロックウルフが掘ったものじゃないよね……」


 ロックウルフは山岳地帯に住み、岩にも食い込む強靭な爪が特徴の魔獣であるが、ねぐらを作るために穴を掘る習性はない。

 まして光がまるで届かない程の深い洞窟を掘り進める行動は確認されていない。


 魔族侵攻による異常行動で、本来とは異なる行動を取っていることも考えられるが、それにしても違和感がある。

「異常行動だとしても、この大きさでは掘らないだろうな」


 違和感の正体は、穴の大きさと均一性。

 ロックウルフが生活するために掘ったとしては大きく、それがほぼ同じ大きさで続いている。


 そして洞窟の壁は、まるで補修されたように整い、硬く固まっている。

 この状態を作り出す魔物に、モニカは心当たりがあった。


「ロックイーター……かもしれないな」

 その名前を聞いた瞬間、オリビアとサーシャは体を強張らせた。


 ロックイーターは魔物の種族としての名称ではなく、個体名である。

 巨大な蚯蚓のような魔物であり、その名のとおり主食は岩石。

 確認されているどの魔物よりも大きな体躯で、全体像はいまだに確認されたことがない。


 その巨体に反して凶暴性は低く、主食である岩石類以外を進んで食べる事はない。

 しかし今のように洞窟の中にいる場合、休息中にロックイーターの食事に巻き込まれて捕食されることは起こり得る。

 動きは鈍重であるが、巻き込まれれば命はない。


 しかしロックイーターは危険なだけの魔物ではない。

 時折地表に出て排泄をするが、その排泄物を土に蒔けば肥えた土地が出来上がる。

 人族への恩恵がある事を考慮した末、魔物との共存の道を照らした魔物でもある。


 この洞窟も、ロックイーターの食事によってできた穴と考えれば納得できる。

 ロックイーターの体表面の分泌液が穴に付着し、乾いて固まったのだろう。


 硬く乾いていることから、ロックイーターがこの辺りで食事をしたのはずいぶん前であるとは考えられるが、

「ち、近くにいないことを祈るわ」

 祈らずにはいられない、そんな魔物である。


 しかし、ロックイーターが穴を作り、そこにロックウルフが住み着いたとしても、まだ疑問は残っていた。

 それはこの洞窟の奥の方にまでロックウルフが住み着いている事。


 ロックウルフは昼行性で、夜目はそれほど鋭くない。

 鼻は利くが、暗い洞窟の中で生活するようには出来ていない。


 そして光の届かない洞窟の中で、突然オリビアの光の魔法で照らされたにも拘らず、一切の驚きも怯みもなく即座に襲い掛かってくる。

 まるで、すでに視力を失っており、その事にすら順応しているようである。


 魔族侵攻による魔物の異常行動。

 それが、自然とロックウルフから視力を失わせる程の行動に移らせたのだろうか。


 それとも。

 ――まるで、ロックウルフをこの洞窟に閉じ込めているようだ。


 一体何のために。

 モニカは口に出さないまま、一人で推測を重ねる。


 この先に魔王がいるとして、ロックウルフを利用しているのか。

 どのように利用できる、それに対して打てる策はあるか。


 手持ちの道具、使えそうな魔法。

 後方の警戒をしながら、モニカは策を練り続ける。

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