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サーシャの過去6 譲れないもの

いつもより遅くなってしまい申し訳ありません。

 現代には残されていない、独自の魔法を手に入れる。

 男性は饒舌に自分の夢を語った。


 かつて賢者が多くの人を動員することで安全な魔法を完成させたように、暴発による犠牲を恐れなければ、新しい魔法を作り出すことが出来る、と。


「魔法使いの兄さんは、あの子に独自の魔法の詠唱を試させるつもりなのか」

 これまでの男性の話から、ルーウェンはそう判断した。


 賢者の魔法でない独自の魔法、その行使には暴発の危険がある。

 しかし、その試用を他者に委ねることで自身の安全を守る。


 合理的で、実に残酷な手段だ。

 それを力の弱い子どもに強いるのだから尚更。


 それを聞いたサーシャは全身から血の気が引いた。

 やはり男性から恐ろしい予感がしたのは考えすぎでも間違いでもなかった。


 もしこの男性の危険性に気付かず、素直に孤児院から連れられたなら、サーシャに待ち受けるのは暴発と隣り合わせの魔法の行使に怯える未来だっただろう。


「……気に入らないか?」

 ルーウェンの反応から、男性も少し声音を低くする。

 返答によっては、敵対も辞さない、と。


「賛同はできない、ってだけだよ。

 本来、子どもは宝であるべきだと思う」


 ルーウェンの返答に、男性は鼻を鳴らした。

 小馬鹿にするようにも、どこか納得しているようにも見える。


「不幸にも捨てられたその宝を、俺が拾い上げてやったんだ。

 なら、どう扱おうと俺の勝手だろう」


 男性の言葉に、サーシャは胸の痛みを覚えた。

 捨てられたわけではない、と。


 サーシャの両親は魔物の被害で命を落とした。

 子どもだけは守ると、大切に木箱の中に隠して。


 両親に対して、感謝はしても恨んだことはない。

 早くに死んでしまった事はとても悲しいが、それも受け入れた。


 孤児院にはサーシャと同じように両親を亡くして保護されている子どももいれば、両親に捨てられて保護された子どももいる。


 傍から見れば、そこに区別はつかないのだろう。

 事情を知らなければ、サーシャは捨てられた子どもと同じだ。


 たとえそれが事実と異なっていても、男性からの言葉が重く圧し掛かってくる。

 捨てられた、いらない、邪魔な子ども、だと。


 両親を亡くし、教会から金で売られ、男性には身代わりにされる。

 自分の居場所はもうどこにも無い。


 孤独。

 胸にぽっかりと穴が開いたように感じた。


 口も鼻も塞がれていないのに息苦しい。

 ――たすけて


 その時、ひとつの破裂音が響く。

 はっとして、大きく息が吸い込め、息苦しさが消えた。


「そこに言及するのはやめよう。誰にだって事情はあるはずだ」

 手を打ちあわせたルーウェンが話題の変更を求めた。


「うちの村にも孤児院がある。

 一人しかいないけど、あの子が不幸だとは言わせない」


 少し凄みを含んだルーウェンの言葉に男性は正面から取り合わず、肩を竦めた。

 しかし言葉は重ねず、筒を大きく呷る。


 少しの間、二人の中に言葉は生まれなかった。

 火に焚べた薪が弾ける音だけが聞こえてくる。


 後ろにいるサーシャには、ルーウェンの表情は見えない。

 もしかすると男性を睨んでいるのかもしれない。


 無言の背中から感じるのは重い威圧感。

 これだけは譲らない、と巨大な岩のような頑強さを醸し出している。


 男性はもう一度筒を呷るが、もう中は空のようだ。

 小さく舌打ちをして、居心地悪そうに顰めた顔を背ける。


 その空気を壊したのはルーウェンだった。

「ごめん、これは関係なかった」


 謝罪を口にして、荷物から同じような筒を取り出して男性へ投げる。

 筒を受け取った男性は少し驚きながらも呷る。


「それで、明日もあの子を探すのか?」

「あ……あぁ、あれにはかなりの金をかけたからな」


 もう素寒貧だ、と言いつつ、男性はルーウェンに鋭い視線を向けた。

「分かっているとは思うが……」


 最後の念押しだろう。

 ルーウェンは小さく頷いて見せる。


「兄さんがあの子を見つけても、俺は手を出さない……けど」

「けどぉ?」


 ルーウェンの反応に男性は訝しむように顔を顰めた。

 煮え切らないような曖昧な態度に苛立っている様子だ。


「助けを求められたら……考えるかもしれない」

 ぼそりと呟きを溢すルーウェンに、男性は一瞬呆けた後、吹き出した。


「はっは! 自分で言っていただろう、その顔に助けを求める者がいるか。

 あのガキは俺を見て逃げ出すくらいだぞ」


 強面を自負するルーウェンに子どもが近づくはずがない。

 そう思って男性は腹を抱えて笑った。


「……いや、俺が言うのもなんだけど、兄さんも大概だからな」

 拗ねるような声で返すルーウェンだが、男性は相手にしない。


「言ってろ。邪魔さえしなければ、お前は見逃してやる。

 お前みたいなやつは嫌いじゃあない」


 最後にもう一度、筒を大きく呷る男性。

 それを聞いたルーウェンは頬を掻いた。


「俺も兄さんみたいに、楽しそうに夢を語るやつは好きだよ。

 やり方はともかく……」

「ほっとけ。寝ずの番、しっかりやれよ」


 そう言って焚き火から少し離れると、ルーウェンに背中を向けて横になった。

 すぐにイビキが聞こえてきたあたり、眠気も限界に近かったのだろう。


 しばらくの間、ルーウェンは無言を貫いた。

 焚き火を眺めるように、身動ぎもせず。


 サーシャも同じように焚き火に視線を送る。

 不規則に揺れる火が時々大きく揺れ、また小さな揺れに戻る。


 いま、ルーウェンはどんな気持ちでいるのだろうか。

 火で揺れるルーウェンの影が、彼の心情の揺れに見えてしまう。


 理由はどうあれ、仲良さげに会話をしていた男性にルーウェンは、男性が探しているサーシャを匿うという隠し事をしている。


 仲良く話せる男性と、まだ話も出来ていないサーシャ。

 ルーウェンがどうしてサーシャを選んでくれているのか、彼女には分からない。


 まだルーウェンという男を理解するには、あまりにも時間が足りていない。

 これから、その時間はあるんだろうか。


「…………ん」


 長い時間眠っていたはずなのに、また眠気に襲われる。

 サーシャはルーウェンの背中と焚き火を見ながら、少しずつ瞼を下ろした。


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