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先行き怪しい掃除のお時間

 エステルとウィルが仮住まいとして選んだ家は、壁や屋根こそ役割を果たす機能の残してはいるが、内に溜め込んだ埃の量が少ないはずもなく、湿気も吸っているのかみっちりと厚みのある立派なものへと変貌していた。


 二人が数日過ごした形跡として、移動あとは埃が擦れて薄くなっているものの、それ以外の場所はまるで手入れがされていなかった。


 極めつけは、一応人の目を避ける事を考えたのか、明かり取りの窓も最小限にしか開けていないため、家の中はほとんど換気ができていなかった。


(こんなところに住んでたら病気になっちゃうよ!)

 サーシャはすべての窓を開け放ち、籠もった空気をできる限り追い出す。


 できれば魔法で埃も吹き飛ばしたかったが、重さすら得た埃を吹き飛ばそうとすれば家の中が荒れ放題になってしまうため、地道な清掃を決行した。


「エステルちゃん、他の家に布か何か残ってないか見てきて」

「は、はい!」

「おじいちゃん、掃除するから危ないものは家から出しておいて」

「わかったよ」


 テキパキと指示を出すサーシャに従い、掃除の準備が進められる。

 その間に、サーシャは今日一日でどこまでできるか考える。


(家の中と家の周り……いや、家の中の埃と汚れが頑固そうだから、家の中全部も厳しいかも……。優先して綺麗にするなら……寝室)


 一日で家中をキレイにする事は諦め、寝室に狙いを定める。

 家中の窓を開ける際、おそらく寝室と思しき部屋も見つけている。


(なんか、板を並べて、布を敷いただけだったけど……)

 前の家でもそんな古めかしい寝床を使っていた。


「サーシャちゃん、布ありました」

「こっちも出しておいたよ」


 村中から布をかき集めてきたのか、一抱えもある布の塊を抱くエステルと、少し離れた場所に置いた木箱を指差すウィル。


 前の家で、ウィルが使っているであろう作業台の上にあった木箱。

 恐らくあの中に、あの呪いの根源が収められている。


「…………」


 不思議と恐怖を感じない。

 しかし、なぜか視線が吸い込まれそうになる。


 沈黙するサーシャの視線を遮るように、ウィルは彼女と木箱の間へと移動する。

 視線を遮られたことで、サーシャは我に返ったように表情を強張らせる。


「あまり注意を向けない方がいい。向いてしまった場合は強く目を瞑りなさい」

「そうだね……」


 忠告を聞き入れ、意識的に木箱から顔を背ける。

 改めて、ウィルが持つ呪いの危険性を認識した。


 あれは人を死に誘うと同時に、人を魅了する性質も持ち合わせている。少しでも注意を向けてしまえば、惹きつけられ、自ら死へと向かってしまう。


 モニカには「危なかったらすぐ逃げる」と豪語したのに、今もウィルが遮らなければ、サーシャは逃げることもできずに自ら呪いに近付いていただろう。


 やはり迂闊にウィルに近づいてしまったのは考えなしだったかもしれない。

 しかし、今更引き返すつもりはない。


「……よしっ、じゃあ掃除始めるよ!」

 気持ちを切り替えるように声を張り上げるサーシャ。


 少なくとも、ウィルは呪いに引き寄せられそうになったサーシャを助けた。

 今の時点では、彼からは明確な敵意も害意も感じ取れない。


 危険はもとより承知の上、それでもサーシャは彼らに手を差し伸べる。

 かつて義両親がしてくれたように、どこか寂し気な彼らに心を配る。



「うわ……」

 寝室の中で、サーシャが思わず声を漏らす。


 水で濡らした布で壁を少し拭ってみれば、あっという間に布が変色した。

 壁でこれなら、床の上はいったいどれ程だろうか。


 念のため、ウィルとエステルそれぞれの寝台代わりになっている板間部分もぬぐってみると、僅かな汚れがあるだけで壁に比べれば断然キレイと言えた。


 さすがに直接横になる場所には気を遣っている。

 その事実に、サーシャは胸を撫で下ろす。


 とはいえ、これだけ汚れた部屋の中で眠ること自体が許せない。

 思った以上に酷い状態だが、今日でなんとかこの寝室の中だけは綺麗にする。


「“洗浄(クリーン)”」

 埃と汚れにまみれた布に魔法を掛ける


 かつて賢者と呼ばれた魔法使いが考案した、水の魔法“洗浄”。

 魔法で生み出された水によって、異物や汚れを分離して綺麗にする魔法。


 この魔法で部屋の中の掃除ができれば良かったが、特殊な水を生み出すという特性上、消費される魔力が膨大な上、部屋の中が水浸しになってしまう。


 時間は掛かるが、ここは手分けして布で丁寧に拭いていくしかない。

 幸い、魔族であるエステルには人族とは比べ物にならない魔力量がある。


「……ごめんなさい、あれ以来、ほとんど補充できてません」

「…………」


 聞けば、人族の領域では魔力の回復がままならないそうだ。

 先日の“空間転移”とモニカとの戦いで、枯渇したままらしい。


 頼みの綱が無くなった事で先行きが怪しくなる。

 サーシャは万が一の逃走用に魔力を温存しておく必要もある。


「“(ウォーター)”」

 サーシャはタライに水を張る。


 “洗浄”の水と違って、異物や汚れを分離する効果はない、飲み水にもなる普通の水なので“洗浄”より消費する魔力がかなり少なく済む。


「……これで手洗いしよう」

「そう……ですね」


 今日中にどこまで終わるか。

 せめて寝台まわりの床、壁、天井だけは汚れの無い状態まで綺麗にしたい。


 サーシャの話を聞きたがっていたエステルも、哀愁すら漂う彼女の様子に危機感を抱き、黙々と掃除することに決めた。

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