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村からの帰り道

 モニカに見送られ、エステルとサーシャは村を後にする。

 お互い恥ずかしいところを見せてしまった手前、少し気まずい。


 特にサーシャはエステルの気持ちを半ば考えないまま村まで連れていき、そこをモニカに叱られたこともあり、エステルに対して負い目もある。


 エステルが庇ってくれたおかげで事無きを得たが、そういえばまだお礼を言ってなかった、と村が見えなくなってから思い出した。


「エステルちゃん、庇ってくれてありがとね」

 隣を歩くエステルに素直に礼を伝える。


「いえ、私がもっと早く言えていたら良かったんですが……」

 それに対してエステルは少し申し訳なさそうに顔を伏せる。


 エステルにしてみれば、モニカたちとちゃんと話したいという願いをサーシャが叶えようとしてくれたのだから庇うのは当然として、その願いを先にモニカに伝えていれば、そもそもサーシャが叱られることもなかった、と反省している。


 しかし、たとえ先に事情を説明していたとしても、エステルの気持ちを十分に考えきれずに行動したサーシャをモニカが叱る事は避けられなかったかもしれない。


「そんなことないよ。エステルちゃんがおか……モニカのこと怖がってるって知ってたのに、話してくれるって言ってくれたのが嬉しくてつい急いじゃった……」


 モニカの対応が大きく間違っていないことはサーシャ自身が理解している。

 そしてエステルもまた、モニカが一方的だとは思っていない。


 各々反省すべき点を素直に打ち解け合う。

 それが可笑しかったのか、二人はともに破顔する。


「じゃあ、お互いさまって事で」

「はい、そうしましょう」


 気まずい空気は一掃され、軽い足取りで森の外へと歩を進める。

 整備していない道を時折振り返りながら、エステルに道を覚えてもらう。


「この変な形の木が目印だよ」

「そっちの木と同じに見えるんですけど……」


 お互いに恥ずかしいところを見せてしまったせいか、再会当初よりも余計な気遣いや遠慮が薄れてきていた。


 そうなると、今後も継続的な交流を行う上で互いの事を知っておきたくなるのは避けられない心理である。


 特にエステルもサーシャも特別な境遇にあるため、自分の事を素直に話せる相手は貴重な存在と言える。


 なので、エステルは少し気になっていたことを一つ。

「モニカさんって、サーシャちゃんのお母さん……なんですか?」


 彼女たちの村に訪れた際、サーシャはモニカを母と呼び、つい先ほどもそう呼びかけて訂正していた。


 親子ほど歳が離れているようには見えない二人の関係性が、事情を知らないエステルにはとても不思議で気になっていた。


「そうだよ、モニカは私のお母さん。あっ、でも育ての親って意味だけどね」

「育ての……」


 ウィルの教育と町での生活の中で、一部の例外を除き、人族は生みの親の元で子が育てられるとエステルは知っている。


 それはつまり、サーシャはその一部の例外に該当する子であった、と。

  いくつかの可能性が頭によぎるが、どれも決して良いものではない。


「私ね、小さい時に本当のお父さんとお母さんが死んじゃって、町の教会に保護されたんだ」


 暗い生い立ちの話を、しかしサーシャは何でもないような口調で話し出す。

 それが痩せ我慢なのか、本当に振り切った事なのかはエステルには分からない。


 少なくとも幼い頃に本当と両親を暮らしていた記憶がサーシャにはあり、それを失った彼女の悲しみが容易に想像できるものではない事を理解した。


 明るく人懐っこい性格の裏に隠された残酷な過去を前に、エステルは言葉を紡ぐことが出来ず、ただサーシャが語る彼女の過去に耳を傾ける。


「保護された教会でもいろいろあってね……。

 それから色々あってお父さんに拾われて、モニカがお母さんになったんだよ」


 どこか満足そうに言い切ったサーシャは、そのままサクサクと足を進める。

 対してエステルは、急に話が終わってしまった事にしばし呆然と立ち尽くした。


「……え、ええっ!? お、終わりですか!?」

 そして、ようやくその事に思考が追いつき、声を上げる。


 後ろからの突然の大声に、サーシャはビクッと体を震わせながら振り返る。

 その顔には驚きが貼り付いているが、驚いたのは自分だとエステルは言いたい。


「お父さんって誰ですか!? モニカさんとの出会いは!?」

 これから本題という場面で、唐突に知らない人物の存在だけが知らされる。


 サーシャとモニカを引き合わせた人ということだけは分かるが、そもそもどういう人なのか、どういう経緯で二人が親子関係に落ち着くのか分からない。


「え、だって……それ話し始めたら長くなるし……」

 そこが聞きたいと食い下がるエステルに、消極的なサーシャ。


「そんなところで終わられたら、気になって仕方ないんですけど!?」

「また遊びに来た時でいいじゃん! ほら、もうすぐ森の外だよ!」


 エステルの追求から逃げるように、サーシャは駆け出す。

 向かう先の森は少しずつ明るくなっていくのが見えた。


「絶対ですからね! ぜったい今度教えて下さいよ!」

 追いかけるエステルは自分でも信じられないくらいの欲求を覚えた。


 ――知りたい、あの人のことをもっと……

 恋い焦がれるように、知りたいという気持ちが高まる。


 なぜこんな気持ちになるのか、今のエステルにはよく分からない。

 しかし、この気持ちを堪える必要はないと思った。


 町での生活では本当の自分を隠してきた。

 町の人に抱いた気持ちに嘘はないが、自分の正体については多くの嘘を重ねた。


 それが、ここでは嘘が必要ない。

 正体は知られているし、そもそも嘘が通じない相手だ。


 彼女たちにだけは偽ることない本当の自分を見せることができる。

 それが素直に嬉しかった。


 サーシャの後を追って森を駆ける。

 次第に明るくなっていく景色は、これからの未来を表しているように感じた。

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