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悄然からの一驚

村にて、モニカの一元視点となります

 モニカとサーシャが故郷の村に戻ってから二週間。

 村での生活基盤がある程度整い始めてきた。


 村から近くの川までの道を整備することで用水を確保した。

 森に入り、食用の魔物や果物を調達し、いくらか保存食に加工した。


 次の予定として、畑を整えて穀物を育てる。

 森で採れる植物以外は自分たちで育てて確保するしかない。


 “耕耘”の魔法を使えば荒れて固くなった畑も容易く耕せるが、今は少し雑念を捨てるように何かに没頭していたい、と無心で畑に鍬を振り下ろすモニカ。


「花も育てたいな……」

 ルーウェンの墓に、もう少し彩りを加えておきたい。


 どこかで摘んできて良いが、帰ってきたばかりの村から離れたくない。

 今はまだ急ぐことではない、と首を振って鍬を振る。


 小さな畑でしかないが、それでも一面を耕し終えるには時間がかかった。

 陽が昇る頃から始め、今は頂上を少し過ぎた頃か。


 モニカに遅れて起床したサーシャが、森に入っていくのをずいぶん前に見た。

 探すように見渡してみればモニカが椅子にしている倒木の横に、木製の皿に乗せられた果実が置かれていた。


 作業に没頭するモニカの邪魔をしないように、静かに食事を用意したのだろう。

 用意された量を見れば、二人分はありそうだ。


 見れば「先に食べてて」とメモが残されている。

 没頭するあまりサーシャに気付いてやれなかった、と反省するモニカ。


 倒木に腰掛け、サーシャが用意してくれた果物を齧る。

 少しの酸味が疲れた体に染み入り、気分をすっきりさせてくれる。


 完熟したものではなく、あえて酸味が残るものを選んできたのは計算か。

 娘の気遣いには本当に感謝が尽きない。


 常に前を向き、進み続けるサーシャの手前、モニカも停滞はしていられない。

 ――これからの事をちゃんと考えよう


 ウィルとエステルとの接触。

 それをいつにするか、その後どうやって関係を築くか。


 印象として、ウィルは理性的に物事を判断している。保持している(のろい)や保護している(エステル)の特異性を除けば、まともな人物と言える。


 しかし問題として、保護したエステルを大切にしているという事。

 それ自体が問題なのではなく、そのエステルとモニカの関係性が問題である。


 元々は勇者一行と魔王という敵対する関係であり、戦闘も経た。

 当然、エステルには警戒されており、おそらく心情も穏やかではない。


 もちろん侵攻して攻撃してきた魔王(エステル)への対応としてモニカの行動に誤りはなく、その上でエステルの生活を脅かさないように町での発言にも配慮した。


 しかし、モニカの気遣いがエステルにまっすぐ伝わるとは限らない。

 何か裏がある、今度の脅迫材料にされる、と勘繰られても不思議ではない。


 町でのエステルの評判を聞く以上、モニカとしてはこれ以上敵対するつもりはないが、互いにその認識を共有したわけではない。


 そしてエステルがモニカを警戒している以上、エステルを大切にしているウィルに協力を願い出るのは難しい。


 今のところ最優先すべきはエステルとの関係の改善。

 仲良くとまでいかずとも、警戒されないくらいには改善したい。


 まずは落ち着いて話し合いから始めるしかない。

 そのためにはまず再会するしかないのだが――


「…………」

 エステルとの再会は、ウィルとの再会にもなる。


 いまだ拭いきれない恐怖。

 逃れようのない死の気配を放つあの呪いの存在。


 おそらくウィルが今も持っている呪いを、モニカはいまだ克服できていない。

 思い出すだけで背筋に冷たいものが走ってしまう。


 もう少しの間だけ、あの呪いと距離を取りたい。

 できれば頼みの綱のオリビアが合流するまでは、再会を先延ばしにしたい。


 そのオリビアも王都で厄介ごとに巻き込まれて、二週間は村に来られない。

 もしかするともう少し長くなるかもしれない。


「はぁ……」

 不安から小さな溜息が漏れる。


(私はどうして……こんなにも弱い)

 モニカは自己嫌悪に陥る。


 昔はルーウェンがいないと駄目だった。

 今はサーシャとオリビアがいないと不安で仕方がない。


 どんなに強がっていても、一人でいる事に耐えられない。

 人との繋がりを求めてしまうし、繋がりを大切にする人には同調してしまう。


 エステルの事も、全力でウィルを守ろうとしていた姿勢は素直に尊敬でき、絶対に譲らないとする強い瞳がルーウェンに似ていて好感も持てた。


 王城で戦った時は簡単に敗走する弱さだったのに、そこからわずか一年と少しであれだけ強い心を持つまで成長したことはとても驚いた。


(それに比べて私は……)

 ルーウェンが死んでから三百年以上経っても、いまだに縋ってしまう。


 あの強さの一端でも自分のものに出来ていない。

 ずっと弱いまま。


 このままではいけないと分かっていても、ここに戻ってきてしまう。

 結局、ルーウェンと過ごした村で、彼の近くにいないと落ち着けない。


 こんな弱い姿、サーシャにもオリビアには見せられない。

 ――どうにかしないと


「お母さーん!」


 遠くから、サーシャの呼ぶ声が聞こえる。

 戻ってきたのだろう。


 モニカは気持ちを切り替えるように頭を振り、表情を整える。

 娘の前ではしっかりとしないと。


「なに?」

 まだ振り返らず、応答だけ返す。


 後ろ向きな気持ちを晴らして、キリっとする。

 近付いてくる足音が後ろから近づいてくる。


(足音が……二人分?)

 軽快に近づいてくる足音と、必死にその後を追う足音。


 サーシャが後をつけられて気付かないはずがない。

 誰かを連れてきたのか。


 ――いったい誰を?

 振り返って答えを確認するよりも先に、サーシャの口から答えが告げられる。


「エステルちゃん見つけたよ!」

「……え?」


 振り返れば、満面の笑みを浮かべるサーシャとその後ろに、泣き腫らした跡が消えていないエステルが立っていた。


「こ……こんにちはぁ……」

 怯えるように震えた声で挨拶するエステルに、モニカは呆然するしかなかった。

1年と3か月ぶりにエステルが本編に登場です

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