オリビアとの念話
モニカ側の一元視点となります
教導騎士オリヴァー、改めオリビアの話は、今日の出来事を朝から順を追って話すところから始まった。
屋敷の使用人たちは元気だった、王都の住民にも笑顔が戻ってきていた、騎士団は修練に励んでいるで、その成果を一日で全員分確認するのが大変だった、
大変だったと話す割には、調子はどこか弾んでいる。
正体を隠す事は疲れるようだが、それでも人との関わりが楽しいのだろう。
合間合間に相槌を打ちながらモニカは意識を傾ける。途中で顔を見せたサーシャにも“念話”を繋ぎ、二人していつ終わるかもしれないオリビアの話を聞いた。
オリビアは頑なに村での生活に馴染もうとはしてくれているが、やはり生来の気質からすれば、王都で多くの人と関わる方が性に合っているのだろう。
とはいえ、やはり楽しい話ばかりという事はなく、訓練場に第二王子と第三騎士団が現れた話から、だんだんと影が差し始める。
第二王子の目的のために、教導騎士オリヴァーに認められる条件を確認することは想定通りではあったが、やはり一筋縄ではいかないこともまた想定内だった。
嬉しい誤算としては、第二王子が意外にも中立であったこと。
事を急いていたが、真っ当に教導騎士に認められる心積もりのようだ。
『それでモニカ、どういう基準がいいのかしら?』
少し不安そうなのは第三騎士団長を警戒してのことか。
第二王子と貴族の権力を笠に着て、騎士団としての任務を放棄しながらもその椅子に座り続ける第三騎士団。
無頼漢のような無法者集団のようでいて、こちらの狙いにはしっかりと反応して突いてくるあたり、貴族として最低限の教育は受け、頭が回るのだろう。
オリビアは自称、あまり頭が良くない。
知識量ではなく、すばやく考えをまとめることを苦手としている。
なので、そこはモニカが補う。
念話越しに、モニカは考えをまとめていく。
第二王子は第三騎士団にいいように利用されているかと思っていたが、話を聞いた限り、主導権は第二王子エイドリアンにある。
そのエイドリアンが前向きに実力を高めようとしているのなら、第三騎士団も下手に動きはしないだろう。
当面の目的は第二王子の足止め。
そのためなら――
『ジェラルドの案でいいんじゃない?』
近衛騎士団長の案が充分に理に適う基準と言える。
おそらく近衛騎士団長もそう考えての提案なのだろうが、オリビアを安心させるに至らないのは第三騎士団の件でやらかしているからか。
『加えるなら、基準に時間制限を設けておくべきね』
『時間制限?』
『無いと一日中付きまとわれるよ』
『それは嫌』
ジェラルドの提案に、オリビアにとって好ましい条件を付け加える。
これは同時に第二王子たちの主張にも繋がっている。
明確な基準を求める彼らにとって、時間が決められることは悪い話ではない。
後はその時間のさじ加減次第。
『第三騎士団はジェラルドに任せたままでいい。少しは動いてもらわないと』
『彼ら、なにか言ってこないかしら?』
ただでさえ職務放棄だの、称号返上などと自分たちを棚に上げた発言をしてくる第三騎士団が何も言ってこないとは思えない。
『彼らも教導騎士に認められたいと言い出すなら、好きに決めさせればいいよ』
『好きに?』
モニカの提案には、隣のサーシャも首を傾げていた。
構うことなくモニカは続ける。
『ジェラルドに任せている以上、必要以上に相手をする必要はないよ。
彼らが本当に強さを求めているか分からない以上、基準も決められない』
エイドリアンのように、モニカの忠言から自身に必要な能力を理解し追い求めようとするなら、惜しみなくそれに応えよう。
しかし第三騎士団の事情は分からない。
訓練にも参加しない彼らの情報は、教導騎士にも分からない。
つまりはここで話し合っても結論は出ず、かと言って急かしてくる相手に、まともな対話から基準を設けることも難しい。
なら始めから相手に丸投げしてしまえばいい。
本来関与する予定のない相手に割く時間がもったいない。
『最終的に必要なのは彼らが死なないための技量だからね。
それを説明したうえで、彼らが自分を納得させられる条件を決めればいい』
『うぅん?』
少し腑に落ちていない様子のオリビア。
隣のサーシャも少し眉を顰めている。
『大丈夫、信じて』
『分かったわ』
“念話”は声ではなく思念によって言葉をかわしている。
穏やかなモニカの言葉は、オリビアに安心感を与える。
不安そうな気配はもう無い。
後はオリビアの強みがなんとかする。
『それで、こっちにはいつ来る?』
オリビアの不安を拭えたところで、今後の予定を確認する。
まだ村に着いてから二日。
教会の清掃にある程度の終わりが見えてきたが、人手は欲しい。
『そうねぇ……、ちょっと間が空いちゃったから、もう少し皆を鍛えておきたいのよねぇ……。それに殿下のこともあるから、しばらく帰れないかも……』
教導騎士は元々、毎日のように訓練に参加しているわけではない。
本来は月に数度の指南で、それ以外の日はオリビアとして過ごしている。
しかし第二王子が教導騎士に認められようとするなら、オリヴァーは訓練に顔を出し、エイドリアンを鍛えざるを得ない。
これについてはモニカが教導騎士を巻き込んだ事が発端のため、モニカも不満を口にするわけにもいかない。
『分かった。村の手入れは終わらせておくから、オリビアは気にしないで』
『ごめんねぇ~。なるべく早く帰るわ』
『オリビア、またね』
“念話”の終わりが近づいてきたことを察知して、サーシャも一言送る。
その言葉に気を良くしたのか、オリビアは嬉しそうに返す。
『サーシャも、寂しいかも知れないけど我慢してね』
オリビアにとってサーシャは娘のようなもの。
養母である自分と離れて寂しがっていると思っての言葉だったが――
『え? …………ぁ、うん、待ってるね』
呆けた挙げ句、空気を読んだサーシャの言葉が返ってくるとは思っていなかった。




