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第三騎士団のお出まし

 教導騎士オリヴァーによる指南は模擬戦形式で行われる。

 一対一で個人の実力を見て、一対多で連携を確認する。


「勢いは良いが、踏み込みが深すぎる」

「鎧で受けるならしっかりと衝撃を逃がしなさい」


 入れ替わり立ち替わり騎士たちとの模擬戦を続けながらも、教導騎士は一切疲れた様子を見せることなく、騎士たちの指南を続ける。


 教導騎士との模擬戦を終えた騎士は少しの休憩を挟んだ後、個人で、あるいは同じく終えた同僚ともに指導された内容を復習していく。


 おそらく今日一日は、集まった騎士たち全員の様子を確認するだけになる。

 本格的な訓練は明日以降から適宜行われるだろう。




 昼過ぎから行われた訓練は、陽が傾き始めた頃も続いていた。

 集まったおよそ百人を超える騎士全員との模擬戦を終え、追加の指南を続けた。


 ただ一人たりとも教導騎士の鎧に訓練用の木剣を当てることは叶わない。

 誰もがこの頑強な防御と精密な回避を掻い潜る一撃を目指して日々励んでいる。


「おや、これはこれは教導騎士殿ではありませんか」

 だからこそ、同じ騎士団でありながら訓練に励まない者とは反りが合わない。


 わざとらしい口調と共に訓練場に現れた第三騎士団と、真剣な表情の第二王子。

 その声が聞こえた瞬間、疲れから息を荒げていた騎士たちも口を閉ざした。


 第三騎士団が訓練場に顔を出すことは珍しい。

 しかし、珍しいからと言って良い事とは限らない。


 第三騎士団は貴族の嫡男や遠縁、その従者で構成されている。騎士団に所属する貴族が全員、第三騎士団に入っているのではないが、第三騎士団には貴族と従者だけは所属している。


 第三騎士団に所属する嫡男はその家柄を誇りとし、遠縁は嫡男に媚び、従者はある程度実力があるものの、嫡男に付き従うため訓練への参加は嫡男次第。


 そしていずれも第一騎士団の実力には遠く及ばないが、貴族であるという誇りが彼らを驕らせていた。


 教導騎士が訓練に参加する事が通達されていたにも関わらず姿を見せず、あたかも知らなかったように装う態度に、他の騎士団からは憤りの空気が漂う。


 しかし、このことについて議論をしても第三騎士団から反省や謝罪の言葉が出てくるはずもないことを知っているので、敢えて口に出したりはしない。


 それに第三騎士団には第二王子エイドリアンが付いている。

 彼らへの非難は、王族への非難として捻じ曲げられる可能性もある。


 そして騎士爵を持つ教導騎士オリヴァーにとっても、そんな彼らとの過度な接触は避けたいところではあるが、その立場上、無視することもできない。


「第三騎士団。君たちの訓練については近衛騎士団長が受け持つそうだ」

 仕方がないので、責任者である近衛騎士団長ジェラルドへ丸投げする。


 もとより教導騎士として、今の第三騎士団の指南を受け持ったことがない。

 訓練に参加しない彼らの扱いは一度、近衛騎士団長に確認する必要がある。


「教導騎士の名を関していながら、その職務を放棄する、と?

 ならばその偉そうな肩書、返還してはどうかな?」


 教導騎士の控えめな態度に勢い付いたのか、第三騎士団長が挑発的な笑みを浮かべながらオリヴァーを指差して煽り立てる。


 その言動は、彼を目標とする他の騎士団員にとっては侮辱に等しい。

 しかし、いきり立つ彼らをオリヴァーは片手を振り、制する。


「これは近衛騎士団長の決定だ。

 訓練よりも先に、何か別の通達があるのかもしれないね」


 オリヴァーの言葉に、第三騎士団長は浮かべた笑みを剥がす。

 心当たりがない筈はない。


 神官モニカの発言によって、第三騎士団への調査が本格的に決まった。

 既にその一時通達は送られているのだろう。


 押し黙る第三騎士団長。

 その横で黙っていた第二王子エイドリアンが一歩前へ出る。


「教導騎士。貴殿に話がある」

 落ち着き払った態度が、どこか覚悟を決めた彼の内心を露わにしている。


「エイドリアン殿下。伺いましょう」

 オリヴァーは小さくお辞儀をし、エイドリアンに向き合う。


 話の内容は予想できている。

 予想していなかったのは、こんなに早くに訪ねてくることだった。


「俺はある目的のため、貴殿に実力を認めてもらう必要がある」

 先日の会食の場で、神官モニカが提示した条件だ。


 もう少し時間を置いて準備を整えると思っていたが、まさかオリヴァーの帰還とともに真正面から現れるとは思っていなかった。


「実力……、殿下の剣術ということでしょうか?」

 オリヴァーの問いに、エイドリアンは顎に手を添えて思案する。


 実力として分かりやすい指標といえば強さだろう。

 事実、エイドリアンは剣術を磨き、忖度を抜きにしても第三騎士団よりも強い。


 しかしそれは先日、モニカによって否定された。

 その程度の剣術では話にならない、勇者の足手まといでしかない、と。


「……いや、おそらくは防御面。

 魔族を相手にしても生き残るための生存能力だ」


 思案したエイドリアンが出した答えに、オリヴァーは息をついて感心する。

 先日の荒々しい態度からは予想もできないほど冷静な思考になっている。


 モニカの作為は、良い方向に作用したと言っていい。

 兜の中で、オリヴァーは小さく笑みを浮かべる。


「神官モニカの意図は伝わっているようですね」

「っ、ヤツを知っているのか!?」


 モニカの名前に思った以上の反応を見せるエイドリアン。

 少し面食らいながらも、その反応は理解できる。


 意趣返しとはいえ、モニカが珍しく見せた穏やかで優しげな表情、そしてそこからの手のひら返しを受ければ、嫌でも記憶に残る。


「よく知っていますよ。とても、意地が悪い……」

「そ、そうだっ。思わせぶりな態度をとって人のことをからかって……」


 羞恥に手を震わせる第二王子エイドリアン。

 その表情は少し紅潮しているが、オリヴァーにはそれが怒りには見えなかった。


「根は優しい子なんですけどね?」

 もしかすると、と思い、もう少しモニカの情報を出してみる。


「分かっているっ! だからこそ恐ろしいのだ! 毎夜毎夜、俺の夢に出てきては意味ありげな笑みを浮かべてくる奴に、一泡吹かせねば……」


 オリヴァーの、そしておそらくはモニカの思っていた以上に、エイドリアンの記憶に深く刻み付けられたモニカの存在。


 エイドリアンの掲げる理想は良いが、そこに至るための道程は危険すぎる。

 そこから一度目を逸らさせるために印象操作だったが、かなりの効果を得た。


(でもこれ……別の問題に発展しそうな……)

 モニカは挑発したにも関わらず、何故か彼女の心根が優しい事を否定しなかったエイドリアンに、一抹の不安を感じずにはいられないオリヴァーであった。


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