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騎士団への講評

 教導騎士オリヴァーによる騎士団の講評。

 最初に手厳しい評価を受けた近衛騎士団は青い顔をしていた。


 事が事だけに、かなり激しい訓練模様が予想される。

 第一騎士団、第二騎士団は同僚へ、憐憫と慈愛の眼差しを送る。


「次に第一騎士団」

「…………えっ、は……はい!」


 呼ばれたことに反応が遅れる第一騎士団長。

 呆気に取られ、少し間の抜けた空気が漂う。


 近衛騎士団のあまりの姿に、教導騎士が始めに「ではまず」と言っていた事を忘れていた。講評されるのは近衛騎士団だけではない。


 しかし、第一騎士団の役目は王都内と王都周辺の警邏。

 今のところ、大きな失態を犯したという連絡は受けていない。


 王都内は今日も平和、王都周辺にも魔物の被害はなし。

 しっかりと役目を果たしている以上、教導騎士の扱きはない。


 頭の中で状況を整理する第一騎士団長。

 問題がないと結論づけ、自信をもって講評を待つ。


「王都防衛のために練度の向上に努めていると聞いたよ。

 その成果、しっかりと見せてもらおう」


 先程よりも遥かに柔らかな声音のオリヴァー。

 しかしその内容はまるで穏やかではない。


 しっかりと見せてもらおう、という事は、教導騎士が成果の実感を得るまでは確認作業、つまりは訓練か模擬戦が続くという事。


 そう、全員が全力を限界まで振り絞るまで、きっと終わらない。

 実質、近衛騎士団が受ける訓練と大差がない。


 それもこれも、教導騎士に「練度の向上に努めている」と伝えたことが原因。

 慌てて振り返る第一騎士団長に、慌てて首を振る団員達。


(だ、誰だ! そんなことを口走ったのは!?)

(((言ってません!!)))


 言葉にせずとも伝わる程、第一騎士団の心は一つになっていた。

 そして遠く王城の門のほうから、くしゃみが聞こえた気がした。


「次に第二騎士団」

「はい!」


 既に心の準備を終えた第二騎士団長。

 腹に力のこもった声で返す。


 力は込めたが、騎士団としての落ち度に心当たりがないわけではない。

 それは西の城塞都市において、若い冒険者を砦の先に侵入させてしまった事。


 第二騎士団は編成が少し特殊で、第一騎士団の団員の中から、指揮能力の高い者で構成されている。今ここにいるのは交代で任務から外れている者たち。


 その役割は騎士見習いの兵士を率いて各城塞都市や主要都市を警備する事。

 そのため、見習いの兵士からは兵士長とも呼ばれている。


 その城塞都市で起きたひと騒動。

 若い冒険者たちが逸り、許可を得ずに強行した。


 若い冒険者たちが無断で、封鎖された第一砦の先に進ん事は彼らの過ちではあるが、進入できてしまう穴をつくってしまったのは事実だ。


 勇者一行の助力によって、冒険者たちが大事に至らなかった事には安堵したが、今はその事を少し恨みがましく思ってしまう。


 当然、教導騎士にもその情報は伝わっているだろう。

 叱られても当然の事と、腹を据えた。


「君たちが城塞都市や主要な街を警備してくれているおかげで、私や勇者は安心して前線へ向かうことができている。これからも各地の防衛を頼む」


 しかし意外にも、教導騎士の口からその話は出なかった。

 そればかりか、今後への激励。


 予想外のことに第二騎士団は呆ける。

 しかしこれは嬉しい予想外だ。


 ここに第二騎士団全員が集合できているわけではない。

 今も各地の警備に当たっている者も多い。


 教導騎士から直々に称賛される喜びを分かち合えないのは残念ではあるが、交代で戻ってきた暁には、ぜひ共有して分かち合いたい。


「はい!」

 感涙を堪え、今後への期待に応えるように返事をする。


「各地に勤める第二騎士団の全員を一緒に鍛えることは難しい。そこで、今後への期待を込めて、今ここにいる者たちから順に鍛えていくことにする」

「はいっ、…………え?」


 続く教導騎士オリヴァーの言葉に、一度は返事をしてから我に返る。

 感涙は完全に引き、のぼせそうだった頭から一気に熱が冷めていく。


 ――いま、なんて?

 そんな声にならない声が、第二騎士団全員の頭を占めた。


 期待を込めて鍛える、という事は通常よりも厳しい訓練と同義。

 実質、第一騎士団が受ける訓練と大差がない。


 結局は近衛、第一、第二騎士団が教導騎士による厳しい訓練を受ける。

 しかし各騎士団は理解している。


 教導騎士が厳しい訓練を課すのは嫌がらせでも何でもなく、純粋な厚意によるものであり、期待しているからこその厳しさであると。


 そして、たとえ厳しかろうと決して理不尽などでない。

 全員の相手をするオリヴァーこそが、最も過酷な状況にあるのだ。


 それを理解しているからこそ、騎士団から拒絶や反対の声は上がらない。

 絶望の表情を浮かべたとしても、嫌悪の感情は一切ない。


「そして……第三騎士団は不在か」

 第二騎士団の隣にガラリと空いた場所を見て、オリヴァーは声を漏らす。


 これには近衛、第一、第二騎士団からも不満げな空気が漂ってくる。

 実力ではなく家柄だけで騎士団に入った第三騎士団とは反りが合わないのだ。


 騎士団の訓練に参加しても和を乱し、教導騎士の訓練にはほとんど顔を出さず、第二王子エイドリアンを取り込んでからは更に顕著になった。


「……まぁいい」

 オリヴァーは静かに息を吐き出す。


 改めて騎士団の全員と真正面に相対する。

 騎士団も背筋を伸ばし、少し乱れた隊列を整えた。


「では、昼休憩後に訓練を始める。それまで各々、修練に励め」

「はっ!」


 教導騎士へ敬礼で応え、この場は解散となった。

 オリヴァーは人知れず安堵しながら、訓練場を後にする。

王城の門兵の彼は、任務中の第一騎士団です

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