表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/125

壇上のオリヴァー

 王国騎士団の訓練場。

 所属する騎士たちが日々、己が技術を高めるために訓練に勤しむ場所。


 とはいえ、常に殺伐とした空気が満たされているわけではなく、時には遊び心を加えた訓練方法を考えては実践するなど、楽しげな景色を生み出している事もある。


 これはふざけているわけではなく、騎士同士の模擬戦では魔物との戦闘を網羅できないため、あらゆる状況を想定した訓練でもある。


 およそ国内に生息する魔物の傾向は分析されているものの、時には未知の魔物が出現することもあり、想定外を防ぎ、また息抜きのための娯楽(レクリエーション)になっている。


 しかし今は、いつもより一層引き締まった空気が張り詰めていた。

 早朝から続く訓練が中断され、騎士たちは綺麗に整列してる。


 その前に立つのは教導騎士オリヴァー。

 魔族侵攻のため、長らく王国を空けていた教官が戻ってきたのだ。


 騎士としての実力に天と地ほどの開きがあり、かといってそれを鼻に掛けることもなく誠実に接してくれるオリヴァーは、騎士たちにとっては憧れの存在である。


 この引き締まった空気は、そんなオリヴァーに少しでも近付こうとする騎士たちの気合いが表れていると言っていい。


 引き締まった表情の騎士たちを見渡し、オリヴァーは頷く。

「みんな、早朝の訓練お疲れ様。元気そうでなによりだ」


 騎士たちとは異なる重厚な鎧の中から発せられる声は、その見た目とは対照的に非常に明るく騎士たちを労った。


 たとえ仕事だとしても、その頑張りを褒められて喜ばない筈がない。

 表情や態度には出さないものの、騎士たちは内心で喜ぶ。


「既に聞いていると思うが、魔王が勇者によって討たれ、魔族侵攻は終息へと向かっている。なお、これは公式発表ではないので注意するように」


 近衛騎士団長ジェラルドからも通達があり、同様の注意もされている。

 まだ魔王が討たれたことは国民には知らされていない。


 国民は魔族侵攻の元凶である魔王が討たれれば終息と考える。

 しかしそれは正しくない。


 魔王が討たれても、活性化している魔物がすぐに鎮静化するわけではない。

 しばらくの間は魔物も活性化したまま、時には人を襲う。


 国の考える終息はそう言った魔物も沈静化し、安全に往来できる状況を指す。

 そのため、魔王が討たれたからおよそ半年ほどの期間を設けることが多い。


「ただ、私たちの敵は魔族や魔物だけではない。

 時には荒くれ者からも、国や民の安全を守らねばならない」


 今ではかなり少数になっているが、かつては魔族侵攻で仕事を無くした村人や、魔族侵攻の終息によって仕事を無くした冒険者が盗賊団になることも多かった。


 しかし“血塗れの聖者”と呼ばれた当時に冒険者によって、その殆どが壊滅させられ、今ではよほどの生活苦でも無ければ盗賊になろうとする者は居ない。


 だからといって、決して現れないとも言い切れない以上、国の治安と国民の安全を守る騎士団に油断は許されない。


「その事を忘れずに、これからもみんなには訓練に励んでほしい」

「「「はっ!」」」


 オリヴァーの鼓舞を受けて、騎士たちは声を揃えて返事をする。

 全員が一丸となって国を守る気持ちを一つとした。


「さて、ではまず近衛騎士団」

「は、はい……ッ!?」


 気持ちを一つにしたのも束の間、突然、教導騎士の少し低い声が響く。

 呼びかけられた近衛騎士団の先頭の騎士はつっかえながら返事をする。


 教導騎士の表情は見えない。

 しかし、とても笑っているとは思えない威圧感を放っている。


 先程までの張り詰めながらも未来を見据えた明るい空気ではない。

 それを感じ取り、近衛騎士団は計らずも揃って息を呑んだ。


「魔王がこの城に単騎突撃してきた折、魔王に圧倒されて戦意喪失したそうだね」

「……ぁ」


 言われて、近衛騎士団の脳裏に、あの時の光景が思い起こされる。

 謁見の間からの爆発音に駆け付け、そして目の当たりにした髑髏と黒い姿。


 普段から教導騎士との訓練に励み、決して挫けない精神を培ったつもりだった。

 しかし、あの禍々しい魔王を見た瞬間、自信は音を立てて崩れた。


 決して敵わない。

 もう助からない。


 感じたことのない、言い知れぬ恐怖が全身を伝い、脳が痺れた。

 指先が震え、力が抜け、武器を取り零した。


 諦めと共に、魔王の手から放たれた黒い炎が襲い掛かってくる。

 あの時、勇者が守ってくれなければ、近衛騎士団はこの場にはいなかった。


 忘れていたわけではない。

 一年以上前の事でも、未だに夢に見ては汗塗れで飛び起きることもある。


「まぁ、あれは魔族側の裏工作による効果によるものではあったそうだ」

 決して、近衛騎士団が弛んでいたわけではないと周知されている。


 魔族が使う魔法は、人族の間に広まっている魔法の範疇には収まらない。

 それこそ、どんな魔法が使われたとしても不思議ではないし、対策も難しい。


「だが、例えそうであったとしても騎士団の最高位たる近衛が、国王陛下の危機を前にそれではいけない。よってしばらくの間、重点的に鍛え直す」


 もちろん未知の魔法への対策など出来ようもない。

 しかし何もしないわけにもいかない。


 魔族の魔法を防げないのなら、防ぐ必要が無くなるまで鍛えるしかない。

 魔王への恐怖よりも恐いものを、その身に教え込むしかない。


 近衛騎士団は死んだ目をどうにか取り繕おうとして、なおも隠しきれない絶望感を震えて僅かに音を鳴らす鎧で表してしまっていた。


 他の騎士団から向けられるのは嘲笑ではなく、教導騎士に指南されるのではなく、重点的に“鍛え直される”ことへの憐れみ。


 指南であれば教導騎士は丁寧に指摘して成長を促してくれるが、鍛え直す場合は容赦なく扱き上げられる。


 その苛烈さを知らない者はいない。

 体調不良以外で訓練に熱を込められない者は、総じて鍛え直されている。


 向けられる憐れみなど気にも留められないほど絶望している近衛騎士団。

 しかし他者を憐れんでいる余裕は無いことを、この時の第一騎士団と第二騎士団は思っても見なかった。

前回、100話という一つの区切りを完全に失念しておりました。

これまで読んでくださった皆様への深い感謝を。

そして、遅筆ではございますがこれからもどうぞお付き合いくださいますよう

よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ