9 ワイはヒーローになる!!
ラビ「カエサル!」
カエ「次はなんや!」
ラビ「同盟部族ハエドイ族のデウキアックスが面会を望んでいる」
ハエドイ族の…デウキアックス……
あいつか!
「ローマの友」の称号を持っているあのオッサンか
何度か会ったことがあるわ
カエ「入れてやれや!」
ラビ「分かった、おい入って貰え!!」
金髪の長い髪をした男が慌てて入ってきた
そして入ってくるやいなや
「カエサルー」と号泣し近づいてきた
カエ(えぇ…)
デウキ「カエサル、カエサルよ。助けてくれ」
デウキ「急に野蛮な連中が現れ、我々に襲い掛かってきたのだ」
デウキ「犠牲者も数多くでている。頼む、助けてくれ、カエサル」
カエ「ワイも今、その報告を聞いたところや!」
カエサルは両手で押し返す。
だが、デウキアックスも負けじと踏みとどまる
デウキ「そうか!なら話ははやい」
デウキ「カエサルがこうして近くにいたのも、精霊の導きに違いない」
デウキ「私は早速このことを部族に伝えにいく。また会おう」
デウキ「では!」
カエ「お、おい…」
なんやあいつ
こっちの返事も聞かずに去っていきおった
まあ、号泣しだす大げさな演技はさておくとしてや
どことない焦りを感じたわ
いや、まあ襲われてるんやから焦るのは当然なんやが
何やろな……隠したいことがあるようなそんな感じやったな
ラビ「たいした役者だよ、あの狸親父。何か隠している」
カエ「やっぱそうやよな…」
カエ「でもどないしよ、助けた方がええんかな?」
ラビ「辞めとけカエサル、危険すぎる」
ラビ「それに助けるなら軍が国境を越えることになる」
ラビ「さすがの元老院もこればかりは見逃すとは思えん」
ラビ「国家反逆罪に問われかねんぞ」
……小指で頭をカキカキ
まあ、ラビリヌスの言うことは正論や
わざわざ他人のために危険を犯すのはバカや
ワイが判断を下さずに元老院に放り投げるのが最善や
そしたらあとは元老院が決めることや
その決定にワイは従えばええだけ
これが一番利口なやり方や
でもな本当にそれでええんか?
今から元老院に伝令を送っても手遅れになるのは明白や
そしたら友好部族を見捨てたとローマの名に傷が付くで
それにこのままやと辺境のローマ市民の身も危なくなるで……
それにワイらはローマ人やろ
他国のために血を流してこそのローマ人とちゃうんか?
いや別に善意や正義感で言うとるわけちゃうぞ
ローマはローマ人のための国や
他所の国が飢えとろうとローマが豊かならそれでええ
けどローマはローマ一国でローマ成らずや
ローマの繁栄は
盟主であるローマが数多の民族、国、都市を支配し安全を担保する
安全が担保されたことで生産と物流は活発になる
そうして商いがなされ利益が生み出され、大きく繁栄したんや
その繁栄のため先祖代々血を流してきたんとちゃうんか
……まあ、純粋に侵略が楽しかっただけなんかもしれんけどな
それにや、これは…最近の閉塞感が漂うローマの行き詰まりを打開するチャンス……
いや、これは考えすぎやで
ワイは別に侵略戦争を始めたいわけやない
パーティーをしたいだけや
でもパーティーをするには戦争を……
うーん、やばいで思索の袋小路に入ってきたで
わけわからんくなってきたわ……
……
ん?まてや…こんな小難しいこと考えるまでもなく
カエ「なあラビリヌス」
ラビ「何だ?」
カエ「仮に元老院にこの問題を押し付けるとするやろ」
ラビ「ああ」
カエ「そしたらワイは元老院のカスどもの決定に従わないけんよな?」
ラビ「そりゃそうだろう」
カエ「あのカスどもがワイが軍団を新設したことを許すと思うか?」
ラビ「……」
カエ「いや、なんか言えや」
ラビ「間違いなく総督の地位は剥奪だろうな」
カエ「まあ、そうなるとしてや」
カエ「役職の守りがないプーのワイはどうなると思う?」
ラビ「キケロとカトー辺りにさんざんなじられて政治家生命は終了」
ラビ「お前は色々と多方面に喧嘩を売ってるから、おそらく……暗殺」
カエ「ワイが国境を超えたら?」
ラビ「国家犯罪人となって、おそらく……死刑」
カエ「……」
ラビ「……」
カエ「ハハハハハ」
ラビ「ハハハハハ」
カエ「どっちにしろ詰んどるやんけ!」
やってもうたわ
行くも地獄、退くも地獄や
どないしよう
まだワイは死にたくないわ
パーティーすらまだできてないんやぞ
なんか手はないか…なんか……
……!
カエ「ラビリヌス、ワイやっぱ助けに行くわ」
ラビ「待て、俺からポンペイウスに話を通すから早まるな」
カエ「いや、あの男はまちがいなく英雄やが」
カエ「政治家としては残念やけど無能や……」
カエ「キケロとカトーにいい様にされるのがオチや」
カエ「やっぱワイ自身の力で切り開くしか道はないで」
ラビ「どうするつもりだ?」
カエ「ヒーローや」
ラビ「は?」
カエ「戦争の勝利者になって民衆を味方につけるしかない」
カエ「なんやったらこの戦争をモチーフにした戦記ものも出版するわ」
カエ「そしたらワイは民衆の人気者、ヒーローや」
カエ「元老院も表立って民衆の反感を買うほど馬鹿ではないやろ」
カエ「もう、この手しかない、やるしかないんや!」
カエ「そんな訳でワイは先に行から、事後処理は任せるで」
ラビ「いつもいつも、お前と話していると頭が痛くなる…」
カエ「なんや、一人だけ常識人ぶるきか?」
カエ「これまで一緒にバカやってきた仲やろ?」
カエ「これからも一緒にバカやろうや」
カエ「な?」
ラビ「……フッ」
ラビ「違いないな、行け。俺も後から追いつく」
カエ「おう、待っとるで」
こうしてカエサルは国境を越えガリア奥地へと歩みを進めた
参考、引用文献
ローマ人の物語 塩野七海
ガリア戦記 著ユリウス・カエサル 訳國原吉之助