1 伝説の始まり
ワイはユリウス・カエサル
カエサルと呼んでな!
苦節四〇年…いろんなことがあった
叔父のマリウスはボケて民衆を虐殺するわ
スッラのハゲには粛清されかけるわ
ホモの噂は流されるわ
海賊には捕まるわ
人妻に貢いどったら知らんうちに膨大な借金になっとるわ
カティリーナとかいうオッサンを擁護したらボコられるわ
ワイの妻ともあろう者が恥知らずにも浮気するわ
元老院のカスどもには姑息な嫌がらせをされるわ
仕返しのためとはいえ
大英雄ポンペイウスと大富豪クラッススとつるむことになるわ
本当に色々あった
まあでも、その後もなんやかんや色々あって
ついにワイは総督にまで上り詰めたんや
長かった……ホンマに長かった
でも、苦労してここまできたんや!
ここはいっちょド派手にパーティーといかなアカンやろ!!
今さら借金がどんだけ増えようがもうどうでもええわ
メシも酒も余興もすべてワイの奢りや
歌って踊って騒げや!!
ん?参加者は誰にするのかって?
んなもん誰でも参加オッケーに決まっとる!
奴隷だろうが無職だろうが、労働者に貴族、老若男女関係ない
誰でも来いや!
密偵「総督!」
よっしゃ!忙しくなるで!!
密偵「総督!!」
そうと決まればクラッススに金借りに行かなな!
密偵「総督!!!」
カエ「うっさいわ!総督って誰やねん!?」
カエ「ん?ワイか…紛らわしいから名前で呼べや」
密偵「え、じゃあ、カエサル」
カエ「おう、なんや」
密偵「パーティーどころではありません」
カエ「は!なんでや?」
密偵「ガリア人が攻めて来ました!」
カエ「そんなもん、そこの管轄の者に任せとけばええやろ」
密偵「カエサルです」
カエ「は?」
密偵「だ・か・ら、カエサルの管轄地にガリア人が攻めてきたんです!」
カエ「はあああああん!ワイはさっき総督になったばっかやぞ」
カエ「タイミングがよすぎるやろ!」
密偵「で、ですが来てしまったものは仕方ないかと」
カエ「……そやな、お前の言う通りや」
カエ「よしそうとなったら、まずは図書館で情報取集や」
カエ「付いてこい、密偵」
密偵「は、はい」
図書館
カエ「…という訳なんや、ガリアについてなんかいい本ないか?」
司書「と、唐突ですね……これなんてどうでしょう」
『ガリア戦記 ユリウス・カエサル著』
カエ「ほう、名前が一緒とは奇遇やな」
密偵「カエサルが書いたのではないのですか?」
カエ「いや、ワイは書いとらんで」
それでなになに
【ガリアは三つの地に分かれる
ベルガエの地、アクーアの地、ケルトの地
ガリアとは、この三つの地を合わせた総称である。
しかし、我々ローマ人はケルトの地のみを指してガリアと呼んでいる。】
カエ「なんやねん、この書き始め…」
カエ「前置きも導入部分も、なんもないやんけ……」
密偵「へぇー、ガリアって三つに分かれてるんですね」
カエ「ん?密偵のお前が知らんのか?」
密偵「蛮族の情報なんてそうそう手に入りませんよ」
カエ「それを調べるのがお前の仕事やろ……ちゃんとせえや!」
密偵「す、すいません」
カエ「まあええ、次から気いつけや」
密偵「わ、分かりました」
まあでも、密偵も知らん情報が乗っ取る
ええ本やなコレ
ほんで次はなんて書いてあるんや?
【ベルガエ人の獰猛さを特筆する。
彼らに我々ローマ人の常識や倫理観は一切通用しない。
どん欲で好奇心旺盛な商人ですら近づこうとしないほどだ。
商人から酒や娯楽品を手にする機会がないため、誘惑から堕落し、軟弱になることはない】
なるほど
ガリア人の中でもベルガエ人には気をつけんといけんってことやな
でも酒も娯楽もないなんて最悪やな
ワイは絶対にそんな所に生まれたくないわ
【だが、そのベルガエ人すらからも野蛮とされているのがゲルマン人だ。】
ん?ゲルマン人?
どっかで聞いたことが………忘れたわ!
つぎや次
【ケルト人のヘルティー族も特筆に値するだろう。
彼らは毎日のように野蛮なゲルマン人と争っている。
守るだけでなく、ゲルマンの地に攻め込むこともあるほどだ。】
なるほど、よっぽどの武闘派集団ってことやな
こんな奴らとは関わりたくないわ
密偵「あ、こいつらです」
カエ「なにがや?」
密偵「だから攻めてきたのがコイツらです」
カエ「……」
カエ「お前…そういう大事なことはさっさと言えや!!」
密偵「ひぃ、すいません」
カエ「ま、ええわ」
カエ「お前みたいな素直な人間は貴重や」
カエ「多少難があるみたいやが…」
カエ「経験を積めば一人前になるやろ」
カエ「期待しとるで!」
密偵「は、はい、ありがとうございます…」
ほんで次は
【ヘルティー族にはオルゲトリクスと名のガリア統一…】
パタン
密偵「あれ?読まないんですか?」
カエ「ここから先はワイらには関係なさそうや」
カエ「戦記ものなんてのは事実をベースにしただけの妄想の産物や」
カエ「人物が登場したらもう嘘がスタートやと思ったほうがええ」
密偵「へえ……」
カエ「だから下地の部分だけ知っとけばええんや」
カエ「でも参考にはなりそうやからとりあえず借りてくわ」
カエ「これ借りるで」
司書「毎度アリー」
カエ「紙とペンも貸してくれんか?」
司書「はい、どうぞ」
カエ「サンキュー」
カキカキカキ
カエ「よし、出来た」
密偵「よくそんなにスラスラと書けますね」
カエ「文を書くのは得意なんや」
カエ「ほれ、これを届けといてくれや」
密偵「宛名はラビリヌスさん?ですか」
カエ「せや、ワイの親友や」
カエ「じゃ、頼んだで」
数日後
密偵「ラビリヌスさん始め皆さんが揃いましたよ」
カエ「わかったで」
カエ「よう集まってくれたで諸君」
カエ「ワイらはこれよりガリアに向けて経つ」
カエ「諸君らには指揮官として隊長としての活躍を期待するで」
カエ「大いに名を上げるチャンスや!」
カエ「気張って行くぞー!!」
『応!!』
ママ「カエサル」
カエ「おうママちょっくら行ってくるわ 家のことは任せたで」
ママ「ええ、頑張るのよ」
カエ「まかせとけや 土産ぎょうさん持ってきたるさかいにな」
カエ「ほな」
カエサルは馬に鞭を入れた
ワイらが目指すは国境近くの都市ゲネーブ
少し遠いけどローマは街道がちゃんと整備されとるから心配いらへん
道を辿って行けば自然と目的地に着くようになっとるんや
こんなすばらしい交通網を整備した先祖のジジイどもは尊敬するわ
商人や旅行者も安全に安心して街道を行き交いしとる
そのおかげで物流も交流も盛んになって
ありとあらゆるものがローマに集まるようになっとる
ホンマに素晴らしい国や
ワイはこの国が大好きや
通行人も手を振って応援してくれとる
ローマっ子としてこの期待に応えんわけにはいかんやろ
カエ「ありがとうやで、頑張ってくるで!」
密偵「僕は先に行って情報を集めてきます」
カエ「おう、頑張るんやで」
よっしゃ!
ワイらも先を急ぐで
こうしてカエサルの一行はローマを経った
富のため、名声のため、権力のため、そして愛する女のため
戦う理由は人それぞれ
だが、カエサルの戦う理由はただ一つ
カエ「さっさと戦争なんか終わらせてパーティーするんや!」
そう、この男はただ歌って踊って騒げれば、それでよかったのだ
考えなしのお祭り男カエサルの伝説が今はじまる
参考、引用文献
ローマ人の物語 塩野七海
ガリア戦記 著ユリウス・カエサル 訳國原吉之助