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廃校での戦闘 イタダキマス


 廃校内に隠れ潜んで居るゲダツを討伐する為にその隠れ家へと侵入をする加江須たちだが、実はこの廃れた学校にはゲダツの他にも潜んで居る者達が居たのだ。

 この学校の3階にある空き教室、その場所に彼等は居座っていた。


 「あータバコ切れちまったよ。誰か持ってねーか?」


 「はいよ、同じ銘柄のやつ」


 教室内に取り残されていた机などをクラスの端に放り捨て、開けた中央では複数の青年達が座り込んで馬鹿笑いをしながら談笑していた。

 まだ未成年であるにもかかわらずタバコの煙を吹かしながら彼等は聞くに堪えない話を繰り広げる。


 「それでよ、あまりにもウチのクソ親がうぜーから殴り飛ばしてやったらよぉ、泡拭いてしばらく痙攣してやがんだよ。まるで車に潰された蛙みたいでウケたぜ!」


 「ぎゃはははははは! それひでー!! 俺もウチのクソ親に次説教されたら思いっきり殴って同じ反応見せるか試そーっと!」

 

 聞く価値のない害悪な会話を愉快そうに話し合う不良共。

 古びたクラス内の周辺には彼等が食べたスナック菓子や捨てられたタバコ、更にはビールなどの空き缶までもが捨てられてあった。


 この場所に集まっているこの連中は特に何者でもない。もうすぐ成人するだろうこの年齢でも常識や倫理観が定まっていない不道徳な連中、学校からも親からも呆れ果てられ見限られた所謂人間のクズと呼ばれる生き物達であった。

 それだけであるならただの小悪党だったのだろう。だがこの男達は腹の奥底まで腐りきっていた。

 

 「なあお前も黙ってないで返事してくれよ」


 不良の1人が教室の端で仰向けに倒れている女性に声を掛ける。

 だがどう見てもその女性はこの青年達と親しい関係でない事は一目瞭然であった。そして彼女のはだけた恰好からこの青年達に何をされたのかも容易に想像がつく。

 何故なら倒れている女性は衣服が乱暴に剥ぎ取られ、死んだ目をしながら呆然としつつ涙を流していたからだ。


 「この女もそろそろ飽きたな。もう捨てて変わりを探すか?」


 「そうだな。おい、俺たちがこの溜まり場から出たらもう帰ってもいいぞ」


 この女性はここ数日間この廃校内に監禁されていたのだ。

 この青年達は定期的に狩りを行いその獲物をこの廃校へと連れ込んでいたのだ。女性を攫ってはその女性を数日間もかけて身と心を穢し続ける。そして飽きれば今の女性を解放して新たな標的を探していた。

 これまでこの青年達がこのような非道を行い続けられたのはこの場所が誰も寄り付かない廃校である事が理由の1つであった。だがそれ以上に被害者に警察に駆け込めぬように脅しをかけていたからでもある。


 「言っておくがお前の隅々までこっちは全員がスマホ動画で撮ってんだ。もし俺らをサツにチクったりすればこの映像をネットの海に流してやるぜ」


 醜悪さを極めた笑みを向けながら呆然としている女性にそう告げる。その言葉に彼女の光を失った瞳からは更に大量の涙が零れ落ちる。

 

 こうして脅された被害者は自分の痴態を世間の目に知られたくない為に何も言えない。それに数日間弄ばれ抵抗する気力すら完全に削ぐ、だからこそこの連中も捉えた獲物を解放できるのだ。


 「ん…おい見て見ろよアレ!」


 メンバーの1人が急に窓際で大声を出したので他の面子も窓際に集まった。

 そして眼下を覗いてみるとそこには見慣れない男が1人、女が2人この廃校内を目指して歩いて来ていたのだ。

 

 「おい見ろよあの女たち。どっちもかなりの上玉だぜ」


 この廃校に何用かは知らないが突如として自分たちの根城へと足を運んできて二人の美少女の姿を見て全員が下衆な笑みを浮かべる。


 「大方肝試し感覚でやって来たんだろ? 丁度良い、次の獲物はあの二人にするぞ」


 仲間の一人がそう言うと他のメンバーも異論を一切捉えず頷いた。

 

 「それで男の方はどうする?」


 「動けなくなるまでボコッて縛り上げときゃいいんだよ」


 こうして仁乃と氷蓮を捕まえる為に教室をぞろぞろと出る不良達。

 ただその中でリーダー格の男だけは教室に残り倒れている女性の方へと歩み寄る。


 「これからまたお前と同じ目に遭う哀れな被害者が来るぜ。お前みたくいい声で鳴いてくれるかなぁ?」


 「……ぐすっ」


 もう抵抗する気力は無くとも悔しさは彼女にだって当たり前にある。それを分かったうえでこの男はこんな質問をしてよりその心を踏みにじり楽しんでいるのだ。

 ビールを飲みながら歯噛みして声を押し殺し涙する女性を見て愉快そうに笑い続ける男だがそんな彼に背後から話し掛ける人物が現れる。


 「久々に根城に戻って見たけど随分と興味深い状況ね」


 「なっ…誰だお前…?」


 突如として聞き覚えの無い女性の声に勢いよく振り返るとそこには見慣れない絶世の美女が立っていたのだ。

 いきなり前触れもなく出現した得体の知れない相手に男は素早くポケットからナイフを抜くが女性は余裕の笑みを崩さない。

 

 「そんな玩具でこの私をどうにかできると? 可愛らしいわねぇ」


 サラサラとした髪をかき上げる仕草、整った優しそうな顔立ち、そして彼女からほのかに漂う甘い香りに警戒していた男の顔つきは緊張感が一気に抜け、思わず見惚れてしまう。人をおちょくる発言でもどこか妖艶さを含んでいるその声に思わず男はゴクリと唾を呑む。

 突然現れた得体の知れなさには恐怖を感じるがそれ以上にまるで天使の様な男として抗いがたい魅力を持つ彼女に気が付けば馴れ馴れしく話し掛けていた。


 「誰かは知らねぇけど上玉も上玉だな。なあ、ちょっと付き合えよ」


 「本当に分かりやすいわね。男って生き物は…」


 淡いピンク色の髪をかき上げて挑発じみたセリフを口にする謎の美女。

 そのまま彼女は自分の方から男の元まで歩み寄って行く。


 「今ちょうどお腹空いているのよ。ねえ…あなたのこと食べていい?」


 「おおうアンタもかなり好き者なんだな。ただ食べるのは俺の方だけどな」


 女性の発言を聞いて男はナイフを仕舞い込み女を抱き寄せようと手を伸ばす。相手も乗り気だと思い抵抗もされないと思ったのだ。


 だがこの男は大きな勘違いをしていた。この女が口にした『食べる』と言う言葉は比喩などではなく言葉通りの意味であったと言う事を。


 「物分かりのいい男の子ね。それじゃあ――イタダキマス」


 女が弾んだ声でそう言った直後、いきなり男の右手からヂクリとした謎の痛みが生じる。


 「イテっ、何だ……よ……?」


 痛みの走った個所を見てみると男は戦慄した。

 

 何故なら右手の手首の先からの部位が完全に消失していたのだ。千切れた手首の先からは赤い鮮血が噴き出ており床を真紅に染めており、その光景にしばし呆然とする。

 数秒後に男は左手で右腕を掴みながら絶叫を上げ、そのまま床の上を転げまわる。


 「ななな、ない! ないないない!! 俺の右手ぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 痛みを堪えながら何度も見ても見間違いなどではなく、自分の右手が手首から先が無くなり、そこから赤い血が止め処なく流れ落ち続ける。そして自分の右手が損失した事を自覚したと同時に、今まで混乱していただけの肉体が遅れて青年の脳に強烈な痛覚を与え始める。


 「あぎぃいいいいいい!? いたい、痛い痛いぃぃぃぃぃぃ!?」


 男は涙を流して痛みを大声で訴える。そんな青年の涙ながらに転げまわる姿を見て女は口元に手を当てて笑いを堪えていた。だが彼女が自分の口元を覆っていたのは自分自身の手ではなかった。


 「ふふふ。ねえねえ、アナタの探し物はこぉれぇ?」


 「ひっ…あ、あああああ……右手。それ…俺のみぎてぇ……」


 男が痛みで蹲りながら顔を上げると、そこには千切れた自分の右手を持って口元を覆って笑いを堪える女の姿が映り込む。


 「本当に面白いわねアナタ。そんなカッコつけた見てくれで子供の様にわーわーと泣いて……」


 そう言いながら女は顎が外れているのではないかと思う程に大きく口を開け、彼の食い千切った右手を蛇の様に口の中に仕舞い込んでしまった。


 「がぎっ…ごぎっ……ごくん……ふふ……ふふふふふふ……」


 骨を噛み砕き咀嚼して胃の腑に彼の右手を呑み込む。そして口元に付着した血を舐め取りながら男へとゆっくりと近づいて行く女。 


 「ひっ、ひぃ!!」


 男は激痛をこらえながら立ち上がり急いで教室を出ようと走り出す。

 だが男が走り出したと同時に女はもうすでに男の進行先である入り口の前に先回りをしていた。


 「あらあら今更どこへ行こうと言うのかしら? 私に食べられる〝餌〟の分際で往生際が悪いわよ」


 「な、なんなんだよお前!? ば、化け物がぁ!!!」


 右手を庇いながら男は心の底からの思いをぶちまける。

 つい数分前までは何の不自由もない体をしていたのに、今は右手が喰われ不自由な体になってしまった。しかも目の前の人の姿をしたこの化け物は右手じゃ飽き足らず自分の全てを喰おうとしているのだ。

 余りにも受け入れがたい現実に男は大声で叫ぶことしか出来ず、必死に枯れる程の声を出して訴え始める。


 「頼むから逃がしてくれよ!! いきなり手喰われて、何で俺がこんな目に遭わなきゃならねぇんだよ!! もう勘弁してくれよぉ!!! そ、そうだ、人が喰いたいのならあそこで寝ている女を喰ってくれよ」


 強面の顔面がくしゃくしゃに歪み、涙と鼻水、そして涎に塗れただらしない顔をしながら必死に命乞いをする男。

 自分が生き残る為に自分が犯した女を指差しながら助けを乞う。その情けない姿を見て女は今までの様に口元を隠す事もせず大笑いをした。


 「ぷはははははははっ!! 笑わせてくれるわねアナタ。この状況で逃げられるなんて本気で思っているのかしら?」


 そう言うと女はぺろっと唇を一度舐めると、距離を詰めてくる。

 男は恐ろしさから足をもつらせ、その場で尻もちを着いズリズリと後ずさりする。


 「た、助けて…だ、誰か助けてくれ…」


 男がガチガチと歯を鳴らしながら懇願すると、女はにっこりと笑って言った。


 「アナタは肉や魚を食べる事を当たり前だと思って生きて来た筈でしょう? 私のやろうとしている事もそれと同じなのよ。それにほら、あの娘もどうやら私にあなたを食べてもらいたいみたいよ?」


 女の視線の先を辿ってみると自分が犯し穢した女が嗤っていた。

 今まで抜け殻の様な能面のような表情は歪み、ざまあみろと言っていた。


 「それじゃあいたただ来ます」


 女の口からその言葉が放たれた直後に目の前にはまるで蛇のような巨大に口を開けた女の顔が迫っていた。

 それがこの男が現世で見た最後の光景であった。



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