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自然公園での戦闘


 「ここだよ真君。ここが私のおすすめのケーキ店でーす♪」


 「わあ、外観もおしゃれでいい感じだね」


 傍から見れば仲の良いカップルのように見える二人の男女が下校帰りにとあるケーキ店へとやって来ていた。少女の方はグイグイと少年をリードしておりすれ違う人々は仲睦まじい光景と微笑ましく思う。ただその中には美男美女のカップルにやっかみの視線を向ける者もチラホラいるが。


 だが周りから見てとても仲の深そうな二人だが少女の方には少年に対する愛など一片たりとも存在していなかった。


 たくっ…デレデレしてうざったいたらありゃしないわ。あーあ、しばらくはこんなどーでもいいヤツの為に作り笑顔を浮かべ続けると思うと溜め息しか出ないわ。まあこれも私とカエちゃんの愛を取り戻す為に我慢我慢。


 愛野黄泉は頬を紅く染めながら照れ臭そうに振舞っている高宮真へ1秒毎に不満を募らせていた。


 彼女の計画では彼は自分と幼馴染である久利加江須との関係を修復する為の道具としての認識しか頭の中には無い。

 黄泉の脳内のシナリオはこうだ。加江須との関係に亀裂が入って精神的に参っている自分、そんなところに彼が優しく声掛けをしてくれ相談に乗ってくれた。そして次第に自分は表向きでは彼に惹かれはじめ交際を始める。だが自分に優しくしてくれた高宮は実は女癖の悪い下衆であり心身ともに自分は穢されてしまった。そして最終段階でゴミの様にポイ捨てされたと周囲へ吹聴して加江須へと泣きついて彼に救ってもらう。


 今のカエちゃんと冷え切っている関係の修復作業は並大抵のイベントでは不可能。だけど私が純潔を散らされたとなればカエちゃんだって私を同情してくれるはず! でもその為にはこの勘違いバカともっと関係を深めてからじゃないと効果が無いわね。はあ……しばらくはコイツと茶番を演じないといけないわね……。


 心の内では言いたい放題に真のことを蔑み、なじり続けていながら表向きは見事に猫を被りニコニコとまるでカップルの様に振舞う女狐。

 まるで周囲に見せつけるかのように腕まで組んで真に対して誘惑的な黄泉に彼は顔を真っ赤にして恥ずかしそうにする。


 「あ、愛野さん。色々と当たっているから少し離れて…」


 「えー、私に引っ付かれるのは嫌? 何だかショックだな~(私だってお前みたいな猿と本当はこんな事したくないわよ!)」


 本来であれば自分がここまでの事をしてあげても許せる異性は世界でただ一人だけだが今は何とか我慢する黄泉。


 最終的にはコイツには悲惨な末路を辿らせてやるわ。それまでは精々幸せな夢に浸ってなさい。


 この時に抱き着かれている真は羞恥心の余り彼女から目を逸らしていたせいで気が付かなかった。

 すぐ隣に密着している黄泉がまるでゴキブリでも見ているかのような眼差しで自分を嫌そうに見ている事実に……。




 ◆◆◆




 「ここだ、目的の自然公園に到着したぞ」


 氷蓮からの協力要請に応え加江須と仁乃は吹雪町の大きな自然公園へと到着していた。

 そこそこの長距離移動を終え3人はようやく自然が溢れている目的の公園へとやって来ていた。美しい緑一色の自然の風景地が保護されているこの場所はとても安らぎを感じさせる。


 「落ち着く場所だな。できればゲダツとは無関係で来たかったぜ」


 「ぼやかないの。私だって正直同じことを考えたけど…」


 これからこの自然公園で命懸けの戦闘を行うと思うと少し気が滅入って愚痴を零す加江須の背中をポンと叩いて渇を入れる仁乃。

 周囲を見回してみるともう時間も時間なのでざっと見ても周辺に人影は見られない。


 「どうやら辺りに人気は無いわね。これなら私たちも力を思う存分震えそうだわ」


 ゲダツは一般人には認識できないが仁乃たちの扱う特殊能力は別だ。自分の扱う特殊な糸や加江須の狐火などは一般人の目にもハッキリと視認できるので人気の多い場所ではできれば戦いたくないと言う思いは常にある。まあそれも時と場合、流石に目の前でゲダツに襲われそうな人間が居れば人目を気にせず力を振るうのだろうが。


 「それで、ゲダツはこの公園を根城にしているんでしょ? どこに潜んでいる訳?」


 「流石に今俺たちの居るこんな見晴らしの良いエリアには居ねぇよ。もう少し奥の方だ」


 氷蓮が指を差した方へと二人が視線を向けるとそこは多くの木々が並んでおり、その木々が遮蔽物となり奥深くまで景色を見通す事が出来ない。


 「この自然公園は中々に広いからな。あの木々が立ち並んでいる辺りのエリアは今俺たちの居る芝生が広がって開けたエリアと違って昼時ですら人も少なく目立たない。ゲダツにとっては狩り場としても隠れるとしてもうってつけなのかもな」


 そう言うと彼女は自身が指差したエリアの方へと進んでいく。当然ながら加江須たちもその後に続いて行き3人は木々が幾重にも立ち並んでいるエリアの中へと入って行く。

 木々が群がり人気が少ないエリアへと侵入した直後で、加江須は肌寒さを感じて思わず足を止める。ふと隣を見てみると仁乃も瞬時に違和感を感じ取ったのか自分同様に歩を止めていた。


 「この薄ら寒い感覚…見られているわね…」


 このエリアへと入って来たと同時に明らかに周辺の空気がガラリと変わっていた。どうやら氷蓮の言う通りこの公園を縄張りにしているゲダツが居るのは間違いないようだ。

 まるで自分たちを舐めまわすかの様な不快な感覚に顔をしかめていると戦闘を歩いていた氷蓮が立ち止まる。


 「ちょっといきなり何立ち止まっている…!?」


 突然足を止めた氷蓮に何をしているのかと尋ねようとしたがその問いは途中で途切れる。


 何故なら彼女の視線の先に今回の標的であろうゲダツが堂々と待ち構えていたからだ。


 「アレがお前の言っていたゲダツで良いんだよな黒瀬?」


 「ああ…それにしても真っ向から姿を現すとは舐められてんな…」


 特に身も隠さず自分たちの前に姿を現したゲダツに氷蓮の額にピキッと血管が1本浮き出る。

 

 体格が大きく筋肉質な逞しい脚、そして全身がまるでモップの様な体毛に覆われている四足歩行の獣。特に一番異質な部位は額から生えている太い角だろう。並大抵の障害物などあの角で穿ち貫いてしまえる事が見ただけで容易に判断できるほどだ。


 「グルルルルル……!」


 低い唸り声を上げながら地面をズリズリと蹴って今にもこちらへと駆け出して来そうな雰囲気を醸し出すゲダツ。かなりの興奮状態なのか瞳孔も開き血走っている。

 だがこうして対峙して加江須の中にある疑問がよぎる。


 確かにかなり凶暴性を醸し出しているビジュアルの獣だが今まで戦って来たゲダツとさほど違いがるように見えないが……。


 今まで戦って来たゲダツとさほど大きな違いがないように捉えていた加江須であったが、そんな彼の心の声をまるで読んだかのように氷蓮が警告を投げ掛けて来た。


 「見た目やサイズで判断するなよ。あのゲダツの持つ能力はかなり厄介だ」


 氷蓮がそう口にした目先のゲダツの能力、その詳細を仁乃が詳しく質問しようとしたと同時であった。


 「グアアアアアアアッ!!」


 身震いするほどの咆哮と共にゲダツがこちらへと一気に突進して来たのだ。

 

 「速いな。だがこの程度なら…!」


 まるでロケットの様に真っ直ぐに突っ込んで来るゲダツに少し驚きを見せた加江須だが決してとらえきれない速度ではない。一般人ならまだしも蘇生戦士の動体視力ならばこの程度の動きは見切れる。

 カウンターを決めるつもりで加江須は両手に狐火を発現させそのまま馬鹿正直に向かってくるゲダツ目掛けて投げつけようとする。


 だが加江須が攻撃態勢を整えたと同時に一直線にこちらへと向かって来ていたゲダツが横に跳んだ。


 「なっ、避けやがった!」


 完璧に直撃を加えられると思った加江須が思わず虚を突かれる。そのフォローをしようと仁乃が大量の糸の槍を展開、そのまま一斉射出する。

 だがゲダツは大量に迫りくる槍の群生を一瞥するとほとんどその場から動かず最低限の動きだけで全ての攻撃を回避して見せる。


 「な、嘘でしょ…」


 思わず仁乃の額から一筋の汗が零れ落ちる。


 あのゲダツ、まるでどこに槍が落ちるのかがあらかじめ分かっているみたいに……。


 加江須と仁乃がゲダツの危機回避能力に驚いているが氷蓮はもう見慣れた光景の様にこう呟く。


 「やっぱり避けちまうか。たく…本当に厄介なバケモンだな」


 氷蓮はそう言うと仁乃と同じように大量の氷柱を展開、そして先程の仁乃のように無数の氷柱をゲダツ目掛けて飛ばして見せる。だがゲダツはまたしても大きな動きを見せず必要最低限の動きだけで迫りくる氷柱の群生をやり過ごす。それはまるでゲダツの体をすり抜けているかのように錯覚するほどだ。


 「また最低限の動きだけで回避したわよアイツ。まるで攻撃があらかじめ見えているかのように…」


 「見えているんだろうな。恐らくは」


 「「え?」」


 仁乃が独りでに呟いたその言葉に氷蓮が忌々しそうに返事を返す。

 二人は同時に間の抜けた声を出しながら氷蓮の方へ視線を向けると彼女はゲダツを憎たらしく見つめながらこう吐き捨てる。


 「恐らくだがあのゲダツは相手の考えが読める。だから俺も手こずってんだよ…」

 


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