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思わぬ場所での再会


 大勢の人間が集まっている広場で仁乃は不機嫌そうな表情をしながら人を待っていた。

 彼女の服装は学校指定の制服などではなくおしゃれな黒を基調としたワンピースを着ている。その姿はとても可憐で広場に居る人間達はちらほらと仁乃に見とれていた。


 「あいつ~…約束の時間からもう5分も過ぎてるのに来る気配ないじゃない…」


 今日は廃工場でのゲダツとの戦闘で加江須の窮地を救った恩を返してもらうとして一日自分の我儘に付き合ってもらう事となっている。だがもう待ち合わせ時間を過ぎているにも関わらず待ち人はやって来ない。

 次第にイライラが募って来た仁乃がせわしなくパタパタと足を鳴らしていると背後から声を掛けられた。


 「キミ可愛いね。ひとりでさっきから暇してるなら俺と遊ばない?」


 「はあ…」


 声を掛けて来た人物は目的の人物とは異なる下らないナンパ男。

 もうこの広場でこのような軽い男に声を掛けられるのは3人目だ。1人目、2人目ならば苛立ってしまうが3人目となればもう怒りよりも疲労の方が上回る。

 仁乃の気疲れなど露とも知らず調子のよい事をペラペラと宣い続ける男に彼女はおざなりに言った。


 「今待ち合わせ中なのよ。どっか行った行った」


 まるでハエでも追い払うかのようにしっしっと言った感じで他所へ追いやろうとする仁乃だが、今までと違い適当に追い払おうとしたせいで今回のナンパ男はちょっとしつこかった。


 「そうつれない事言わないでさぁ」


 「なっ!?」


 なんと男は仁乃の肩へと馴れ馴れしく触って来たのだ。

 まるで毛虫が這う様な怖気の絶つ感覚に顔が引き攣る。だがその直後に怒りが沸々と湧き上がって無理矢理追い払おうとする。


 だがそんな彼女よりも先に怒りとともに男の暴挙を止めに入った人物が居た。


 「俺のツレに何か用か?」


 仁乃の肩に触れている男の腕を掴んで引き剝がしたのは待ち人である加江須であった。

 力強く腕を掴まれ加江須の事を睨みつけるナンパ男であったが加江須の鋭い眼光に睨まれ完全に委縮してしまう。


 「ちっ、彼氏持ちかよ…」


 少し悔し気にしながらすごすごと男はその場から立ち去って行った。


 「たくっ…いやー悪かったな仁乃。少し遅れちまった」


 「……」


 「ん、どーかしたか?」


 返事を返さず自分をぼーっと見つめて来る仁乃に不思議そうに思い覗き込むと慌てだし始める。


 「な、何をジロジロと見てんのよ! 大体来るのが遅いし!」


 「わ、悪い。少し寝過ごしちゃってさ…」


 申し訳なさそうに頭を下げて来る加江須に不貞腐れた様にそっぽを向く仁乃。

 

 な、何よ…遅れて来てルーズなヤツだけど……少しカッコいいとか思っちゃったじゃない……。


 自分の照れ隠しで一瞬見とれていた事を上手く誤魔化してからそのまま二人は広場から外へと繰り出し始めた。


 「それで最初はどこに行きたいんだよ?」


 「んー実は新しい服でも買いたいと思っていてさ。まずは買い物に付き合いなさい」


 「げー…ケーキ奢るだけのはずが色々とオプション付いてしまったな。女物の服なんて分からねぇよ」


 そもそもの話ではあるが加江須はあまり衣服に頓着するタイプではない。よほど奇抜でさえなければ着られりゃいいと思っている。

 加江須の怠そうな発言に少し眉根を寄せる仁乃。


 「遅刻した分際で文句たれるな。大体さ、フツーはこういう時は相手の恰好を褒めたりするもんでしょ」


 そう言いながらツインテールの毛先をクルクルと巻きながら不満げな顔をする仁乃。別に深く今日の買い物を意識していた訳ではないが多少なりとも今日来ていく服装は吟味した。それなのに評価すらされないと言うのは少し癪だ。

 不服そうに頬を小さく膨らませている彼女に今更ながら誉め言葉を送る加江須。


 「そのワンピース似合っているじゃん。服を変えるだけでイメージ変わるな」


 「え、そ、そうかしら」


 「ああ。何だか……えーっと……色気を感じると言うか……エロいな」


 「褒め方下手か! 何かはしたない女と思われているみたいで嫌だわ!」


 そう言いながら怒りと共に彼女は加江須の頬に手を伸ばすと思いっきり引っ張ってやった。




 ◆◆◆




 「あーこれ可愛い! あ、こっちも良いわね♪」


 二人は広場を出た後に最初に入店したのは少し大きな洋服店であった。

 仁乃は色々な衣服を選んで盛り上がっておりその隣で加江須は彼女の熱に圧倒されていた。


 うーむ、やっぱり女性は買い物好きなのかな? 仁乃も心なしか目がキラキラしている気がする。


 正直衣服に無頓着な自分としては洋服店と言うのは面白みを感じない。もし一人であれば適当にぱっぱっと選んでさっさっと店を出ている事だろう。

 だが今は退屈とは思わなかった。その理由は目の前で服を選んでいる仁乃が理由だ。


 「ねえコレはどう加江須? 結構イイ感じだと思うけど?」


 楽しげに笑いながら選んだ服を自分に重ねて感想を聞こうとする仁乃。

 あどけない笑みと共に楽しそうにしている彼女の姿は正直かなり癒される。それに少し子供っぽい部分も相まって可愛いとも内心でチラリと。


 「ああ良いんじゃないか。可愛い」


 思わず素直な感想を送ると彼女は恥ずかしそうにしながら嬉しそうにはにかむ。


 「ちょ、褒め過ぎよ。まあでもそこまで言うならこれ買おうかしら?」


 可愛いと言われて照れ臭そうに笑う彼女に思わずドキッとしてしまう。


 うおー…正直今の反応はドキッとした。元々が美人だから猶更笑顔が綺麗に見える……。


 さすがにこんな事は口には出せないが内心では仁乃に対して絶賛をしてしまう。

 それから他にもいくつも気に入った服を吟味するといくつかの洋服を購入して店を出る二人。紙袋にパンパンに詰め込まれた荷物を持ちながら加江須が呆れ気味に呟く。


 「結局試着した服全部買ってんじゃねぇか。無駄遣いなんじゃないか?」

 

 「いいじゃない。ゲダツの討伐の報酬だってせっかくなら偶にはパーッと使わないと」


 「てゆーか仁乃って俺より金持ってんだろ。服の代金を自分で出すくらいならケーキなんて別に奢ってもらわなくても」


 「それはそれ、これはこれよ。じゃあ次はお目当てのスイーツでも食べに行きましょ♪」


 そう言いながら彼女は加江須の手を掴んで歩き出す。

 温かく柔らかな仁乃の手の感触に少しドキリとしつつも二人は本来の目的であるケーキ店の中へと入店して行った。


 「うおっ、入った途端に甘い匂いが充満してるな」


 「そりゃそうよ。このお店で醤油とかの匂いが充満してたら何事かって話よ」


 ケラケラと笑いながら彼女は早速ショーケースの中のケーキを吟味し始める。

 まるで童心に帰った子供のようにどれを食べようか選ぶその姿に苦笑していると背後から声を掛けられる。


 「おいボケーっと突っ立てんじゃねぇよ。邪魔だろうが」


 何やら乱暴な口調でそう言われて思わずむっとなりつつも振り返ると加江須は目を丸くする。それは相手の方も同じで全く同じリアクションを取っていた。


 「お前はあの時の襲い掛かって来た女じゃないかよ!!」

 

 「なっ、何でオメェがこんな店に居んだよ!?」


 加江須の目の前に立っていたのは蘇生戦士となった初日に襲い掛かって来た黒髪ポニーテールにエメラルド色の瞳をしたあの少女だったのだから。



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