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少年と少女は手を組むことにする


 ゲダツを無事に討伐した加江須と仁乃の二人は後処理を行うとすぐにその場を離れた。

 喰い殺された犠正の血痕はその部分の地面を抉り処理、そして炭化した不良の1人は仁乃が糸で形成したシャベルで埋葬した。残されている気絶している連中に関してはその場に放置しておいた。彼等はただ単純に気を失っているだけなので時間が経てば目覚めるだろう。


 廃工場を後にした加江須と仁乃の二人はしばし無言のまま並んで歩き続けていた。だがもう廃工場が目視できない距離まで歩くとようやく加江須は仁乃に対して今もっとも訊いておきたい質問を投げかけた。


 「なあ仁乃、改めて訊くがお前は俺と同じ蘇生戦士で良いんだよな?」


 自分と共に共闘していて今更な質問ではあるがそう問いを投げると彼女はとくにもったいぶるような事もせずに頷いた。


 「ええそうよ。私はあんたと同じ蘇生戦士で間違いないわ。まさか私以外にもこの町に蘇生戦士が居たなんてね。しかも同じ学校だなんて…」


 そう言うとようやく先程までの戦いの緊張が完全に抜け切ったのか仁乃は学園内で見せていた元の学生らしい表情へと戻っていた。


 「それにしても何であんたはあんな場所に居たのよ? それにあの気絶していた連中はいったい…?」


 彼女があの場で自分が駆けつける前に何があったのかを尋ねて来たので加江須は大まかにあの場での出来事を報告した。

 全ての話を聞き終えると彼女は小さな溜息を吐きながらこう言った。


 「あんたも大変だったわね。しかし今の話を聞く限りじゃその犠正ってヤツはある意味自業自得ね。それにしてもゲダツに喰い殺されるとは哀れね…」


 仮にも同じ学園の人間が死んだにもかかわらず少し冷たいような発言にも聴こえるが彼女の言う通りだろう。加江須としても自分を集団でリンチしようと目論んでいた犠正の死に対して本音を言うのであればあまり悲しみはない。まあ誰の記憶にも留められず死んでいったと言うのは少し悲惨とは思えるが。

 そして加江須に対しての質問が終われば次に質問をするのは加江須の番であった。


 「そう言うお前こそどうしてあんな場所に居たんだよ? あんな人気の無さそうな場所にわざわざ……」


 「人気の無い場所…だからこそよ。私は蘇生戦士になってからは定期的に町中を見回っているのよ。時折今回の様な人気の無い場所まで足を運んだりもしてね。ゲダツは私たちの様な蘇生戦士などの脅威から目を背ける為にああいった場所に潜伏するらしいし」


 確かに聞いてみれば納得は出来る。どうやら仁乃は時折町の中を簡易的ではあるがパトロールして周囲の様子を観察しているらしい。今日の放課後も彼女と別れた後に仁乃は放課後の空き時間を利用して色々な場所に足を運んでいたらしい。そしてあの廃工場の様な場所にも時々足を運んでいたらしい。ああいう人の生活が皆無な場所にゲダツは巣食う事もあるらしい。

 だがここまで話してみてわかったが仁乃は自分よりもかなり前から蘇生戦士として戦い続けて来たのではないだろうか? 先程の戦闘慣れした様子や凄惨な遺体などを見ても落ち着いて処理などをしていた。少なくとも自分ほどの動揺も無かった。


 「仁乃はいったい何時から蘇生戦士になったんだ? 俺よりも何だか場慣れした感じがあったけど。それにこうしてパトロールだってしているくらいだからかなりのベテランなんじゃ…」


 「その様子だとあんたはまだ蘇生してからそこまで間も経っていないようね。ただ言っておくけど私もそこまで差がある訳じゃないけどね」


 どうやら仁乃も蘇生戦士となってからはさほどの時間がある訳じゃないらしい。だがそれでもこれまで彼女はなんとゲダツを3体、今日の戦いを含めれば4体のゲダツを討伐して来たらしい。まだ今回の戦いを含めて討伐数が2体である自分の倍の数だ。道理で場慣れしているはずだ。


 「とは言え私の倒して来たゲダツは完全に低級タイプだけなんだけどね。中級タイプと遭遇したのは今回が初めてよ。でも助かったわ。あんたが居てくれたお陰で特に深手を負わず勝利できたんだから」


 「……あれ、そういや今回の報酬に関してはどうなるんだ?」


 ゲダツを討伐すればその分の報酬が振り込まれるはずだが加江須にはその分の対価が支払われた形跡はない。その疑問に対して仁乃がこう答えた。


 「その分の報酬だけどカードを確認してみたら私の方に振り込まれていたわ。多分だけどトドメをさした人間に報酬が振り込まれるんじゃないかしら? あんたの協力あっての勝利だし半分分けようか?」


 「いや別に折半しなくてもいいよ。金目的で戦っている訳じゃないし」


 「そう…」


 「……」


 「……」


 一通りの話を終えると二人はまたしても無言になり出し始める。

 自分以外の蘇生戦士との出会いは二人にとっては心強い味方ができた事ではあった。だが何となく盛り上がって花を咲かせる話題だとも思えなかった。


 くそ…なんか空気重いな。まあ人死にも出てるし当たり前と言えば当たり前なんだが……。


 折角数少ない同じ境遇者と出逢えたので何か話でもと考えるがこの沈みかけている場を沸かせる話題が見つからない。


 どうやって蘇生戦士になったのかその経緯でも話し合うか? いや…俺が死んだ原因は事故死だがあの腐れ幼馴染に貶された事が原因だしそんな事を友人に話したくねぇ。それに仁乃の方だってそうだろ。お前はどんな風に死んだんだ? 何て訊ける訳ないだろ。


 何か言葉を発さないといけないと考えつつも何もこの場を盛り上げる言葉が思い浮かばず難しい顔をしていると仁乃の方から話題を振って来てくれた。


 「あのさ…お互いに蘇生戦士であると分かったんだし今後は協力していかない? 正直1人で戦い続ける事に不安もあったしさ、それに2人になればパトロールの範囲だって拡張できるだろうし」


 仁乃のその提案は加江須にとっては願ったり叶ったりの提案であった。今回の戦いで人の死を乗り越え覚悟が座った加江須ではあったがそれでも独りきりで戦うよりも仲間が居た方が良いに決まっている。それに日常の裏で化け物と戦い続ける不安を誰かと分かち合える事は精神的にもありがたい。

 断る理由が何一つない加江須は思案などほとんどせずに頷いて了承する。


 「ああこれからよろしくな仁乃。お前みたいな強い味方ができて頼もしいよ」


 「フツーなら男のあんたが『俺を頼れ』なんて甲斐性のあるセリフ言うんじゃないのぉ? ま、私の方が蘇生戦士としては先輩だし仕方ないかしら?」


 彼女のセリフこそはどこか呆れが含まれているがその表情は心なしか嬉しそうだった。

 完全に拭いきれなかった重い空気はいつの間にか払拭されており二人は互いに軽口を言い合っていた。そしてお喋りに夢中となっているとついに人気の多い場所まで戻って来ていた。

 二人ともそれぞれの自宅の帰路につこうと別れようとした時であった。仁乃が加江須にこんなことを言って来た。


 「あ、そーだ。今日は私が助けてあげたんだから今週の休みに何か奢りなさいよ。そうね、あまーい物でも食べたいわ」


 「はあ、何だよソレ。購買でメロンパンでも買ってこればいいのか?」


 「そんな安っぽい物じゃやーよ。普通お店の高いケーキとかでしょ」


 「おいおいそれって休日デートって事か?」


 加江須が少しおどけたような口調でそう言うと彼女は顔を真っ赤にさせながら噛み付いて来る。

 

 「ば、ばか何でそうなるのよ! たくっ…じゃあまた明日!」


 最後の最後にからかわれて顔を赤くしながらもその場から走り去って行く仁乃。だがやはりその後ろ姿はどこか軽やかに見えた。もしかしたら…彼女もずっと異形と独りで戦い続けていた事が苦だったのかもしれない。


 この日、二人の蘇生戦士が出会いを果たす。そしてこの日から二人の関係は少しずつ変化をもたらし始める事になるのだが……この時の二人にはまだ分からない事であった。



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