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ついに限界を超えた加江須の怒り


 犠正の怒りを更に増幅させてしまった事に些かの後悔を感じながら食堂へと赴く加江須。

 食堂は込み合ってあり多くの生徒達で賑わっており、それぞれ仲の良い者同士で机を囲んで会話を弾ませながら食事をしている。

 食堂全体はそれぞれのグループで形成されて席もほとんど埋め尽くされている。


 「さーて、俺はどこに座ろうかな」


 加江須は注文をしたラーメンをトレーに乗せながら座れそうな席を適当に探す。大勢生徒が居ると言ってもチラホラと空いている席はいくつかある。だがその周辺の席では仲の良さそうなグループがどこもかしこも密集しており何となくその近くで食事を取るのは居心地が悪い。

 こんな事ならやはり購買にでも行けばよかったかと軽く後悔していると近くの席から自分に声を掛けて来る人物が居た。


 「なーにウロウロしてんのよ。こっち来なさいよ久利」


 聞き覚えのある声の方へと体を向けると円形のテーブルに仁乃が座って食事を取っていた。そして仁乃の隣では彼女の友人と思われる女子生徒も一緒に座って居た。

 

 「伊藤、お前も学食だったのか」


 「まーね。それよりさっきからウロチョロしてばかり、ラーメン伸びちゃうわよ。ほらここ空いているから遠慮なく座んなさいよ」


 自分の隣の空いている席をバンバンと叩きながらこっちに座るように促してくる仁乃。

 他クラスの生徒とは言え自分の顔見知りが居た事が分かるとホッとして自然と彼女と同じテーブルに着いていた。

 ようやく腰を降ろせた加江須はラーメンを啜りながら仁乃に話し掛ける。


 「いやーサンキューな。ところでそっちの娘はお前の友達か?」


 仁乃の隣でうどんを啜りながら自分の事を興味深そうに見つめる少女との関係を黄泉に訊く加江須だったが、黄泉が答えるよりも先にその少女本人が口を開いた。


 「初めまして。私は仁乃と同じ1-2クラスの紬愛理(つむぎあいり)って言いまーす」


 水色のショートヘアーに同じく水色の瞳した少女。そして初対面の男子である自分に元気よく挨拶をしている事からかなり明るい性格なのだろう。所謂陽キャと言うタイプだろう。

 彼女が積極的に自己紹介をした後に加江須も自身の名前と所属しているクラスを告げる。互いの紹介を終えるといきなり興味津々と言った具合で愛理は加江須に色々と質問攻めを始めて来た。


 「ところでさぁ加江須君って仁乃とどう言う関係なのかなぁ? 私とても気になります!」


 「え、いや……どう言う関係と言われても……」


 いきなりの名前呼びに内心で少し驚いてしまう。何というかこの紬と言う少女かなりコミュ力が高すぎて少し圧倒されてしまう。別に悪い事ではないのだが……。

 それにしても自分と伊藤がどう言う関係なのかと言われても返答に困る。別に彼女とはそこまで親密な関係でもなければ親友…と言う感じでもないのだが。

 

 「ちょっとあんたは何を興味津々に変な質問してんのよ。私と久利は別にそう言う関係じゃないわよ。あくまで顔見知りの関係だから」


 仁乃も友人の変な勘繰りに溜息を吐きながら加江須とはただの知り合いだと告げて置く。その慣れた様子から普段から愛理に振り回されているのだろう。今だってからかってくる愛理をめんどくさそうにあしらっている。

 何だか妹の面倒を見ている姉の様な仁乃の振る舞いに思わずクスっと笑いが漏れてしまった。


 「なーに笑ってんのよあんた」


 「あー、久利君ったら今私の事を手のかかる子供みたいだと思ったでしょ」


 最初は愛理のグイグイと来る姿勢に押され気味の加江須だったが気が付けば3人は楽しく笑い合いながら会話を弾ませていた。最初は名字で呼び合っていた加江須や仁乃も愛理の放つ和気あいあいとした雰囲気に馴染み自然と互いに名前で呼び合うようになっていた。


 「でも本当に二人はただの友人ですかぁ? なんだかんだで息も合ってイイ感じに見えますけどねぇ」


 「だから俺も仁乃もそう言う関係じゃないって」


 「あんたはいつまで私たち2人をからかえば気が済むのよ」


 愛理のちょっかいを慣れた様子で軽く受け流す仁乃、そんな二人の応酬を見ているとまたしても自然と笑いが込み上げてくる加江須。


 思い返してみればここまで誰かと笑い合いながら昼食を取るのは何時ぶりだっただろか。




 ◆◆◆




 放課後となり帰宅部である加江須は何処によるでもなくそのまま玄関で校内履きから外履きへと履き替えている時だった。後ろからトントンと肩を叩かれて振り返ると仁乃が立っていた。


 「あんたも今帰りみたいね。私と同じ帰宅部なんだ」


 「ああ、そう言うお前も同じみたいだがな」


 何だかまだ顔を合わせてそこまで時間が経過してもいないのだがすっかりと仁乃とは良好な関係を築けている気がする。無論色恋の関係とかではないが仲の良い友人くらいにはなれていると思う。


 取り留めもない会話をしながら二人で靴を履き替え終わった直後であった。背後から信じられない程の殺気に満ちた視線を感じ取った。


 「ねえ……あの娘ってあんたの知り合い?」


 「……まあみたいなもんだ。できれば無関係でいたいんだが……」


 二人が振り返った視線の先に居たのは加江須が決別をした相手である幼馴染の愛野黄泉であった。

 彼女は仲睦まじそうに話をしていた二人に、いやと言うよりも仁乃の方を怒りの形相で睨みつけていた。


 「なんか私の事を睨んでいる気がするんだけど気のせい?」

 

 彼女は加江須とは違って黄泉とは何の接点もないので睨まれる理由だって当然分からない。こんな時にどうすれば良いのか分からない彼女は隣に居る加江須に助けを求めるのだがその行為は黄泉の怒りを更に高めてしまった。


 「おい、気安く私の加江須に触るな!」


 自分の幼馴染を見知らぬ女子生徒に触れられる事は今の黄泉にとっては我慢ならない事であった。ただでさえ自分が彼に嫌われている事を理解して余裕を失っている彼女は一気に二人へと駆け寄って行くとなんと仁乃の事を突き飛ばしたのだ。


 「加江須から離れろ!」


 「いたっ!?」


 「!?」


 まさか直接手を出して来るとも思わず対応に遅れる加江須。

 自分の隣で押し飛ばされて尻もちを付く仁乃を見て加江須は一瞬呆然とするがすぐに我に返る。そして次に押し上げて来たのは理不尽な行為を働く幼馴染に対しての怒りであった。


 「何やってんだよお前は…!」


 震える声を腹の底から出しながら加江須は突き出している黄泉の腕を掴むと彼女に何のつもりかと問うた。だが黄泉は加江須に腕を掴まれながらも未だに混乱している仁乃に理不尽に怒鳴り散らす。


 「加江須はね、こいつは私の幼馴染なのよ! 私の所有物にベタベタと気安く触るな!!」


 自分の大事な物を守る為に攻撃的に仁乃へと怒りをぶつける黄泉の発言はますます加江須の怒りを込み上げさせる。


 この期に及んでコイツはまだ俺を所有物と……物として扱う気かよ!? それどころか初めて顔を合わせた仁乃にまでこんな仕打ちを働くなんて……!


 未だに状況が呑み込めない仁乃は困惑気味にキョロキョロと加江須と黄泉を交互に見つめている。


 「…悪い仁乃、詳しい説明は明日ちゃんとするから今日はこのまま帰ってもらっていいか?」

 

 「わ、分かったわ。明日説明してちょうだいね」


 いきなり突き飛ばされて帰れと言われても納得できないと言った顔をしているが渋々従う仁乃。そのまま腰を上げて少し速足でその場を立ち去って行く。


 こうして二人きりとなった加江須は掴んでいた黄泉の腕を解放すると彼女を睨みつけながら訳を訊き始める。


 「お前…今のは一体どう言うつもりなんだよ。仁乃がお前に何かしたのか? いきなりあんな……」


 「ふんっ、何が仁乃よ! 幼馴染の私をあれだけ無下に扱っておいて他の女に見とれて情けない! 元はと言えばあんたが私をぞんざいに扱うから悪いんでしょ!!」


 加江須の怒りをまるで塗りつぶすかのように大声を出して自分の主張を次々と口から吐露し続ける幼馴染。その内容はやはり理不尽極まりない己の都合だけを優先したものであり加江須の我慢は遂に限界を超えてしまった。


 ――パァンッ!!


 気が付けば加江須は黄泉の頬を平手打ちで引っぱたいていた。



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