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初めての異形との戦闘


 吐き気を催す邪悪な気配を辿って路地を抜けると開けた場所へと抜け出た加江須。

 路地を抜けた瞬間に全身に凄まじい圧が叩きつけられ、そして加江須の視線の先には見た事もない異形な生き物が立っていた。


 「グルルルル……」


 加江須の視線の先には四足歩行でやって来た加江須を睨みつけている怪物が立っていた。


 その生き物はどう考えても普通の猛獣ではなかった。全身は黒い体毛で覆われており口からはみ出る長く鋭利な牙、そして一番目を引く個所は顔面に付いている眼球の数であった。その異形は左右に3つずつ、合計で6つの眼球が付いているのだ。


 「……あれがゲダツで間違いないみたいだな」


 気が付けば加江須の額からは一筋の汗が零れ落ちていた。

 初めてのゲダツとの顔合わせで彼の心臓がバクバクと動悸が激しくなる。


 「ふう…ふう……」


 自分の事を一切視線を逸らさず唸りを上げながら見つめ続けて来るゲダツ。その視線を真っ向から睨み返していた加江須であるが彼はこれが怪物との初の顔合わせ。自らを奮い立たせてはいたが完全に恐怖を押さえ込む事は難しかった。

 怪物から向け続けられる視線に耐え切れずに一瞬、ほんとうに一瞬だけ彼はゲダツから視線をそらしてしまった。


 加江須の意識が他所へと逸れた瞬間だった。ゲダツは雄叫びと共に加江須へと一気に飛び掛かって来たのだ。


 「ガアアアアアアア!!」


 「なっ、しまった!?」


 ゲダツの雄叫びでバッと視線を戻したがその時には既に眼前までゲダツは迫っていた。

 自分の肉に喰らい付こうとガバッと開かれた口からは人間の肉体など容易に嚙み千切ってしまえるだろう大量の牙が自分に向けられる。


 「ぐ、おおおおおおお!?」


 恐怖で竦みそうになっている脚を気合で動かして真横へと跳ぶ。

 大口を開けて突っ込んで来たゲダツはガチンと牙を鳴らしたがギリギリで噛み付きの攻撃を避ける事は成功した。しかしどうやら掠めてしまったようで頬からは僅かに血が滴っていた。


 「ぐっ、このバケモンが!」


 加江須はすぐに体制を整えると能力を解放する。

 

 彼の両手には妖狐の力の一端である狐火が燃え盛り彼は炎の玉をゲダツ目掛けて投げ飛ばしてやる。神力が含まれた狐火は一直線にゲダツの方まで飛んで行きそのまま直撃コースだと思っていた。

 だがゲダツは黒い体毛で包まれている巨大な尻尾をブンッと振ってなんと狐火の玉を弾き返して来たのだ。


 「なっ、マジかよ! 尻尾で打ち返して来やがったアイツ!!」


 自分が射出した以上の速度で打ち返された狐火を上空に跳んで回避する。だが次の瞬間にはもうゲダツは自分の目の前まで跳躍しており振り上げた腕を思いっきり振り下ろして来たのだ。

 

 「ぐっ、があっ!」


 咄嗟に両手をクロスしてガードの体制を取った加江須であるがゲダツの振り下ろしは想像以上に威力が重く一気に地面へと急降下して行く。そのまま加江須は背中から思いっきり地面へと叩きつけられそうになるが空中で体制を整えて地面に着地する。その際に両脚を神力で強化していたので着地の際に脚に痺れは走ったが致命傷は避ける事ができた。


 「くっ…舐めるなよ…」


 問題なく脚は動かせる事を確認すると地上に堕ちて来るゲダツ目掛けて一気に加速する。

 神力で極限まで強化された彼の踏み込みはもはや人としての領分を超えておりゲダツが着地と同時に懐まで滑り込んでいた。

 両手に狐火を纏わせて紅蓮の拳を渾身の力でゲダツの横顔に叩きこんでやった。


 「こんちくしょうがッ! 吹き飛べや!!」


 今の自分の持てる限りの力で拳を振り切ってやった加江須。

 燃え盛る拳によって顔面を吹き飛ばされたゲダツは数本の牙を砕き青紫の血を口から零しながら近くの建物の壁面に叩きつけられる…と思ったら吹き飛びながらゲダツは俊敏に体制を立て直して壁を蹴って激突を避ける。


 「くそ、猫以上に運動神経の良い怪物だな。あんなでけぇ図体しているくせに!」


 敵ながら見事な動きに思わず称賛の声が零れ出てしまうがすぐに頬を叩いて気を引き締める。


 「あのバケモンを褒めている場合じゃないだろ。くそ…まだ今の俺のレベルじゃ全力パンチでも致命傷にはならねぇか……」


 いくら神力のコントロールが出来るようになったと言っても今の加江須の実力はまだまだ発展途上だ。能力だってまだまだ使いこなせていない状態、圧倒的に攻撃力不足なのだ。

 

 「でもよ、俺1人の攻撃力が足りないなら俺がもう1人居たらどうだろうな」


 そう言うと加江須は能力を発動する。

 彼は昨晩に妖狐にはどのような芸当が可能か調べに調べていた。ハッキリ言って妖狐はその気になればどんな事でも出来る完全なるチートな生命体だ。妖術によって炎以外にも幾多もの現象を引き起こし、更には全知全能と言える知識、常識を超えた再生能力など出来る事を挙げればキリがない。とは言えまだ能力をほとんど開花させれていない今の彼に出来る事は限られている。

 だが狐火を作り出す事以外にも彼には扱える能力があった。


 加江須は神力を全身に纏わせるとその力の塊を体外へと放出する。すると肉体の外側に飛び出た力の塊は人の姿を型取っていきなんと加江須と瓜二つの人間が誕生したのだ。


 「分身の術ってな。神力を固めて作った分身人形だ」


 目の前の標的と瓜二つの人形が現れた事でゲダツは少し混乱しているのか二人を何度も往復して見つめている。

 相手の意表を突いた隙を狙って加江須と人形は同時に動き出していた。二人は両手に狐火を纏わせて同タイミングにゲダツへと突っ込んで行く。


 相手が動いたことでゲダツの方も雄叫びを上げると一気に二人目掛けて飛び出して行く。


 「グガアアアアッ!」


 ゲダツが狙いを付けたのは人形の方でガパッと口を開くとそのまま人形の肩へと噛み付く。そして一瞬で喰らい付いた部位を噛み千切ったのだ。だが相手は神力の塊である人形、痛覚など存在しない為に肩を食い千切られた事などお構いなしにゲダツの頭部をガッチリとロックした。しかも両腕に狐火を纏わせて頭部を炎で包んで燃やし始める。


 「ギュアアアアアッ!?」


 灼熱の炎に顔を発火されて何とか逃れようと全身を左右に振るい人形を振りほどこうとする。だが人形は絶対に振り解かれまいと両手両足でゲダツに抱き着くと全身から狐火を燃え盛らせた。

 全身から炎を発現させている人形に抱き着かれれば必然的に組み付かれているゲダツの全身にも狐火が燃え移り人形と共にゲダツの全身は火だるまとなる。


 「さらにオマケだ!!」


 全身を炙られながらのたうち回るゲダツに目掛けて加江須は神力を完全開放すると右拳に集中する。一点に集約された神力により彼の右拳は肉どころか骨すら焦がす炎熱の拳となり、その必殺の一撃は人形もろともゲダツの腹部へと突き刺さった。


 「ぐぎゅうぅぅ……」


 紅蓮の拳で腹部を貫かれたゲダツは小さな悲鳴を漏らしながら痙攣を始める。だが数秒後にはもうピクリとも動かなくなった。


 「はあ…はあ…し、死んだか?」


 拳を引き抜いてバックステップで離れて様子を窺う加江須。

 未だに人形から発火している炎によりゲダツは焦げ臭い異臭を放ちながら燃え続ける。だがしばし燃え盛っていたゲダツの肉体が光り輝いたかと思うと光の粒となって周囲に四散した。

 一瞬ゲダツによる最後の悪あがきかと身構えてしまうが散りばめられた光の粒はそのまま上昇して行き空の中に溶けて行った。


 「……これで死んだって事で良いんだよな?」


 まさか死体がシャボン玉の様に消えて行くとは思いもせずしばし幻想的な光景に思わず目を奪われる。だが感傷に浸っている場合ではないとすぐに後始末に取り掛かる。

 加江須が指をパチンと鳴らすと分身として作った人形はその場で消える。元々は神力の塊で作り上げているので能力を解除すれば存在そのものが消えてくれるので便利だ。


 「ふう…けっこう命懸けの戦闘になったな。まあ初めての戦闘にしては及第点だったんじゃないかな」


 もうゲダツが完全に消失した事に安堵して思わず緊張の糸が途切れてその場で膝を崩してしまう。


 「くはぁ~……マジでビビったぁ」


 そう言いながら思わず近くに壁に寄り掛かるとそのまま座り込む。

 すると目の前が小さく光ったかと思うと目の前にイザナミから渡された例のカードが出現したのだ。


 「うおっ…これって神界銀行カードじゃん。あれでもコレって自分の部屋の机の上に置いていた筈だけど……」


 どうやらゲダツを討伐すると自動的に手元にカードが出現する仕掛けの様だ。そう言えば仮にこのカードを無くしてもゲダツさえ倒せば自動的に手元に戻ってくる仕掛けがあるとイザナミが言っていたがこういう事か。


 加江須の目の前に現れたカードは小さく発光するとカードの上にウィンドウ画面が出現する。


 『初のゲダツ討伐おめでとうございます。今回久利加江須様は下級タイプのゲダツ討伐成功と言う事なので報酬として100万円をこのカードに貯蔵しておきました。手にした報酬が必要と言う場合はカードに触れた状態で引き出しと口にしてください。その後に金額を口にすればその分の金額が手元に現れます』


 「……引き出し、1万円」


 メッセージを読み終えた後に小さくそう口にすると加江須の手の中にいきなり1万円札が現れる。見た感じでは偽札と言う感じでもない。


 「これって本当に100万円入っているのか?」


 試しに全額引き出して見ると残りの99万円が手元に本当に現れた。

 一般高校生に不釣り合いな大金に思わず固まってしまったがすぐに我に返ると慌てて周囲に誰も居ないかを確認、そしてすぐに後だしした99万を預け入れる。


 「別に悪い事した訳でもないのになんか後ろめたい感じがするな…」


 とりあえず戦闘勝利のご褒美に何か美味い物でも買い食いでもしようと思い急いでその場を後にする加江須であった。


 だが彼がこの場から離れてから数分後にひとりの少女がこの場に訪れていた。


 「この辺りから気配を感じた気がするんだけど……アイツに先を越されちゃったかしら?」


 そう言いながら無駄足だったことに苛立ち気味にひとりの少女がツインテールを揺らしながら溜息を吐くのだった。



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