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空色ぱれっと


「何見てんだよ……」

「――別に。何でもないよ」



 蒼と朱のグラデーションって綺麗だよね。

 イメージする印象とは真逆なのに、不思議と合う。


 そんな昼と夜の境目。

 薄い雲が演出する光と影。

 私の視界の先に、何かの鳥が飛んで行く。



「私の名前ってあの空と同じなんだって。生まれたのが夕方だったから」

「ふーん。それで茜、か」

「蒼汰君は?」

「知らね。夏生まれだからじゃん?」



 けたたましい、ひぐらしの声。

 夕方のチャイム。

 家へと帰る、子どもたちと太陽。


 今日が、終わろうとしている。

 なんともノスタルジックな風景。



「ねぇ、私にも一本ちょうだい」

「……やめとけよ」



 夏休みの最終日。青春っぽい思い出なんて、なぁんにも残らなかった。

 花火も、プールも、恋愛も。


 ただ、なんにも無いっていうのが嫌だった。

 別に絵日記なんて宿題は無いけれど。

 心の真っ白を埋める為に、何となく家の外に出てみた。

 なにか、思い出に残ることがあるかもしれない。



「どうしてよ」

「……逆に何で吸おうとしてるんだよ」

「うーん、記念に?」



 外に出てみたは良いものの、昼間よりはマシ……と思わなきゃ、もう帰りたくなるような蒸し暑さ。


 あまり着る機会の無かった夏用のワンピース。

 明日からはまた、制服の毎日だ。



「別に美味くも無かったよ、こんなの」

「じゃあどうして吸っていたの?」

「なんとなく……」



 みんなは夏で何か変わったのかな。

 全身、日焼けなんてさせちゃった子もいたりして。

 夏休みの間だけでも、髪染めちゃえば良かったかな。

 お母さんが許してくれないだろうけど。



「こんな所まで来て吸ってたから、いつも吸ってるのかと思った」

「ちげーよ。ここは昔から遊び場にしていただけ。煙草はオヤジが置きっぱだったからパクっただけ」

「ふーん、秘密基地ってわけ。蒼汰クンもやっぱり男の子なんだね」



 クラスで気になってたアイツは誰かと遊んでいたみたい。

 誰かな。……やっぱりあの子かな。

 それか部活の先輩……。


 ネットを見れば直接繋がっていなくても、見えちゃうのも考え物だ。

 私がしたフォローと、返してくれたフォローの重さなんて分かっちゃくれない。


 その申請に、私がどれだけ迷って勇気を出したか。

 返って来て、私がどれだけ喜び、落ち込んだのか。



「ねぇ……」

「なに? ――ッ!?」



 悪いことをしているんだったら、これぐらいどうってことないよね。

 タバコの事は秘密にしてあげるから、その代わりってことで。



「別に、思ってたほどじゃないね」

「不意打ちでやっといて、フツーそんなこと言うか?」

「ゴメン」

「……べつにいいけど」



 あーぁ。

 こんなもんなのかな、私の青春って。


 期待して、裏切られて。

 喜んで、悲しんで。


 その繰り返しをしているうちに、いつか大人になったりしているんだろうか。



「……俺、初めてだったのに」

「えっ……ホントにゴメン」

「だから別に良いって」

「彼女、居るのかと思ってた」



 気付けばもう辺りはすっかり日が暮れていた。

 当然ながら、この秘密の場所は人通りが少ない。



「あの、さ。茜……」



 そう言えば朱と蒼って混ざると何色になるんだっけ。

 私はそんなことを考えながら、彼の言葉の続きを待っていた。




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